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三 ……なんで、そんなものを?

side流夜3

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「頼は駄目です。あいつは別の意味で問題がありますから……」
 

華取は厳しい口調で言って、頭痛でも抱えたような顔をした。


あいつは基本いいヤツなんだけど……と呟いている。


日義に何かあるのだろうか。
 

そんなことを思いながらも、深くは突っ込まなかった。


俺の側にだって、どれだけ親しくても話したくない奴らはいる。


……あいつらに関しては、秘密にしていようが勝手に知られているので、秘密にすることも話すことも意味がないのだが。


「教師には秘密にしてもらいとこなんだが……」


「あっ、そうですよね。大丈夫です、先生には言いません」
 

華取が、はっと顔をあげた。
 

……もしかしたら話しておきたい教師がいたのか、弾かれたような反応だった。


……何故だか思考の一端がもやっとした。


「先生の方は? 私が知っている人で話しておく人とかいます?」


「いや……俺の方は誰にも言わないことにする。話すとめんどくさい奴らばっかりだから」
 

主に、幼馴染二名のことなのだが。


「いいんですか? 先生が抱え込んじゃったりは……」


「元々そういう性格だ。心配しなくていい」


「そう、ですか?」
 

華取は心配するような眼差しだ。


だが俺の仕事は、関係がないのなら本当に知らない方がいいものだ。


今知られている奴ら以上に、誰に言う気もない。


「それで――華取の話は?」


「あ、そうでした」
 

華取は少し緊張した顔で、こちらへ歩み寄った。


足が止まると突き出されたのは、小さな袋だった。


「……これは?」


「お弁当です。先生のお昼ごはんと、夕飯の二食分あります」


「………」
 

………?
 

正直――華取の言動の意味がわからず、受け取ることも返事も出来なかった。


「……なんで、そんなものを?」

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