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一 俺は何をしたんですか。

side咲桜14

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彼氏なんていないから。


そればかりは私からしか訂正出来ないことだからしようとしたのだけど、それより早くマナさんが継いだ。


「だったら、先輩もよーく知っている流夜くんに任せた方が安心じゃないですか?」


「っ……」
 

今度は言葉に詰まっている在義父さん。


納得しかけてんなよ親父殿。
 

在義父さんは娘から見ても、毎度マナさんには言いくるめられている気がする。


「た、確かに……っ」
 

いやどこも確かに性はない、と言おうとしたけど、ふと先生の視線を感じて口を結んだ。
 

窺うと、私を見るその瞳はやはり何も言うなと伝えているようだった。


だ、黙ってよかった……。


「正直言って流夜くんなら咲桜を任せられるとは思うけど、同じ学校の教師と生徒はまずいとも思うんだ……」
 

……在義父さんの中での先生の評価がやたら高かった。


先生は先生で在義父さんを尊敬しているようなことを言っていたけど、本当に刑事と専門家という関係だけなのだろうか。


……気になる。
 

在義父さんが言いくるめられたのを見かねてかタイミングを見計らってか、先生が口を開いた。


「在義さん――言い方はおかしいかもしれませんが、愛子が勧める意味も、在義さんが断り切れない理由もわかります。と言っても、やはり教師生徒の関係ですから、婚約だの付き合うだのにはなりませんが、保護者的意味でしたら、華取さんを見守っていけたらと思います」
 

うまくまとめたなー、と感心する。


確かにこれなら断ってもいないけど、今後のマナさんの干渉を最小限に食い止められそうだ。


「あらあ、流夜くんも咲桜ちゃん気に入ったのねー」
 

マナさんは満足げな笑顔を見せる。


そういう意味ではないよマナさん。


利害一致の紳士協定だ。なんて言えないけど。


……まあ、誤解してくれるならそれはそれでいいか。


そろりと先生を見る。先生もそう思っているらしく、否定はしなかった。


「そういうわけだ、愛子。この席のことは口外無用。そんで、しばらくは華取さんの保護者になるから見合いだののたまうなよ。華取さんに対しても」
 

どういうわけだ。マナさんの前言への肯定でないことはわかるけど、総括的意味だろうか。


本当に誤魔化してきてるよ、先生。有耶無耶だよ。

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