上 下
12 / 179
一 俺は何をしたんですか。

side咲桜11

しおりを挟む


神宮先生から真っ当な指摘をされてしまった。


実のとこ、お隣の家のおねえさんがうちの鍵を預かっていて、それを借りて入って来ていたのだ。


「それでも通報してもいいと思うぞ?」
 

説明したら更に非難された。


私は話題を変えたくて、また袖をパタパタさせながら軽い口調で言う。


「マナさんに常識求めてもしょうがないじゃないですか」


「確かに。でもあいつ、基本他人にはドライだからな。華取の世話焼くのはすきなんだろう。だから俺との縁談断っても、次々話を持ってくるんじゃないかと思う……」


「え、めんどくさい」


「うん、俺も面倒くさい」
 

再び利害が一致した。


私はなんかこう、先生とガシッと握手したい気分になった。


「華取、提案だが、この話一度受けないか?」


「受けって、……えっ? それは先生的に大丈夫なんですか? 生徒と婚約とか……」
 

先生のびっくり発言に、私は瞳を丸くした。まさか本気で言っている?


「勿論本当じゃない。お互い、これからの愛子の過剰干渉を防ぐだけだ」


「……先生の目論見を教えてください」
 

私には神宮先生の意図ははっきりとはわからなかったので、素直に訊くしかないと思った。


「愛子たちが戻ったら、同じ学校の生徒と教師だって言う。けど、あいつがそれで退くと思うか?」


「思わないです」
 

むしろ楽しむと思う。あの人は。


「そのくらい禁断の方がスリルあって楽しいじゃない」とか。


ものすごくいい笑顔で言いそう。
 

神宮先生も同じことは想定しているようだ。続ける。


「だろ? だから、立場上正式な婚約とかは無理だけど、断固断ることもしなければいい。俺に任せておけ。お前はただ、今回の話を断らないのと、けれど正式には受けないっていう二点だけ言ってくれればいい。あとは俺が誤魔化す」


「えと……それではなんだろう、私は神宮先生の腕を折る必要もないのかな?」


「ねえよ。物騒な考えはやめろ」


「……先生、ちょっと待って。あまりに言葉が神宮先生じゃなさ過ぎて対応出来ない……」
 

私は今更だけど、額に手を当てた。


あの神宮先生がこんな言葉遣いをするなんて……。


特別懐いていたというわけではないけど、嫌な話も聞かないし嫌な気分になる対応もしないし、授業はわかりやすいと評判はいい先生だったから、この落差というか……衝撃が収まらない。


「……わかった。学校で話しているように話せばいいのか?」

しおりを挟む

処理中です...