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一 俺は何をしたんですか。
side咲桜10
しおりを挟む「……華取、付き合ってる奴っているか?」
「え? いないですよ?」
なんでそんなことを訊く? 私が不思議に思っていると、神宮先生は薄く口を開いた。
「お前、俺を断ってもまた話を持ってこられるかもしれないな……」
「えっ」
思わず声をあげそうになると、気づいた先生の手で口を覆われて塞がれた。
さっと隣を窺う瞳は、マナさんを気にしているようだ。
顔の前で両手を合わせて「ごめんなさい」のポーズをとると、神宮先生は手を離してくれた。
なんとなく今までより顔を近づけて、声を潜めて話す。
「どうしてそんなことがわかるんです?」
「……あいつ、今までも俺に似たようなことふっかけてきたんだよ。かわしてきたけど、今回は在義さんの名前をちらつかせられて無理矢理連れてこられた。でもたぶんこれ、目的の対象は俺だけじゃない」
どうやら神宮先生は、こうして見合いを画策されたことが初めてではないらしい。
マナさん……ご自分のことにもっと気をかけてくださいよう……。
華やかな見た目と素晴らしい経歴のマナさんは、しかし浮いた話は一つもない。
マナさんがすきな人が誰だか知っているからなんとも言えないのだけど……マナさんの花嫁さん姿とか、見てみたいのになあ……。
「……目的って、何ですか?」
神宮先生は大分視線を彷徨わせてから、観念したように話し出した。
「……俺は警察の捜査に関わっているが、警察の人間ではない。いつ離れるかわからないから、繋ぎ止めておきたいそうだ。それに在義さんの娘のお前と結婚したら、まあ離れられないだろう」
「先生ほんと何やってる人ですか……」
『犯罪学者』というのは、やっと言葉通りの意味なら理解してきたが、どうしたらそんな画策をされるようになるんだ。
神宮先生は何度目かのため息を吐いた。
「あとで話す。それで、たぶん愛子、お前のことも執心しているだろう。やけに可愛がられたりしてないか?」
「やけにって言うか……私、母さんがいないからその代わりみたいに構ってくれてると思いますけど……」
「母代り?」
「はい。私が生まれたときはもう父さんは県警の人だったんですけど、昔の後輩ってことで、父さんが忙しいの知ってるからよく家に来たりしてくれてて。家に一人のときは全部鍵閉めなさいって言われてたからその通りにしてたんだけど、いつの間にか家にいてびっくりしたことが結構あります」
「ただの不法侵入じゃないか」
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