189 / 192
11 真紅のお姫様
side澪3
しおりを挟む「え? いえ、あのですからわたしは――
俺の返しに、海雨ちゃんは焦っている。
こんな風な返事は考えていなかったのだろう。
「海雨ちゃんでもあるし、始祖当主でもあるんでしょ? 俺が知ってるのは海雨ちゃんだけだけど、それは始祖当主も含めた存在である『梨実海雨』ちゃんってことだ。お嬢さんみたいに、過去世の自分と全くの別人ではない。フッてもらってもいいよ。ただ、俺はすきでいる」
「で、でも澪さんは小埜家の一人息子だし、病院の跡取りって位置じゃないですかっ。奥さんとお子さんは絶対望まれますよっ」
「じゃあ海雨ちゃんが奥さんになって?」
「だ、だからわたしはもう誰も好きになることはないですってっ」
「それは暮無当主の操立(みさおだ)てでしょ? そもそも、一生の中でだって何人も好きになる人がいる方が多くない? 泰山府君祭を行うほど好きな人がいたってのがすごいと思うよ。始祖たちを転生に閉じ込めたことを悔やんでるみたいだけど、真紅ちゃん、そのことを一言でも責めた? 暮無当主の旦那さんは、泰山府君祭を行ったことを責めた?」
「そ、それはそうかもしれませんけど~」
「始祖当主は、もうとっくに赦(ゆる)されてるんじゃない? 影小路の始祖たちにも、暮無当主の旦那さんにも」
「―――、~~~」
反論のない海雨ちゃんの瞳が、急に潤んだ。
「なんで……そんなこと言うんですかぁ~」
「なんでかな。俺にもよくわからない」
目元を拭う海雨ちゃんを、穏やかな気持ちで見つめる。
「……今すぐ返事が出せなかったら、それでもいいんだ」
「で、ですが、澪さんは、その……」
「うん。海雨ちゃんの恋愛対象になりたいって思ってる。海雨ちゃんが自分に決めた『暮無当主の位置』から動く気になったら、いつかそういう風に見てもらえたら、って」
海雨ちゃんが自分に定めた、『影小路暮無』の在り方。
誰も愛さない。誰も好きにならない。結婚なんてもってのほか。
最初に愛した、夫以外は。
……その場所を、少しでも揺るがす気になるときが来るのだろうか。
海雨ちゃんは、涙の残る目元を隠すように、まだ少し俯き気味に答えた。
「……はい」
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
婚約者に消えろと言われたので湖に飛び込んだら、気づけば三年が経っていました。
束原ミヤコ
恋愛
公爵令嬢シャロンは、王太子オリバーの婚約者に選ばれてから、厳しい王妃教育に耐えていた。
だが、十六歳になり貴族学園に入学すると、オリバーはすでに子爵令嬢エミリアと浮気をしていた。
そしてある冬のこと。オリバーに「私の為に消えろ」というような意味のことを告げられる。
全てを諦めたシャロンは、精霊の湖と呼ばれている学園の裏庭にある湖に飛び込んだ。
気づくと、見知らぬ場所に寝かされていた。
そこにはかつて、病弱で体の小さかった辺境伯家の息子アダムがいた。
すっかり立派になったアダムは「あれから三年、君は目覚めなかった」と言った――。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる