41 / 114
3 霞湖の異変
10
しおりを挟む古書店の本屋涯は、長いことおじいさんとおばあさんの夫婦が営んできた。
俺も読んでみたい本を探しに行ったことがあるから、場所はわかっている。
この幼稚園からそう遠くない。
古書店が通りに面していて、その奥が家だったはずだ。
この前おろしたところは、お店から見て裏道になる場所だったと思う。
そこまで一気に走った。和造りの平屋は、電気はついていなかった。
「霞湖ちゃーん? いますかー?」
玄関ドアのチャイムを鳴らしても反応はなかった。
今度はドアをノックしたけど、同じ。
カギはかかってるよな? と思ってドアノブを動かしたら、
「……開いた」
いや鍵かかってないんか。
――ということは、家の中に霞湖ちゃんがいる可能性の方が高いってことかな。
もしかしたら、家にも帰ってないことも考えていたから、ちょっと安心した。
「霞湖ちゃんー? ごめん、勝手にお邪魔します」
土間から声をかけた。
家の中は電気がついていない。
土間からあがることも考えたけど、普通に不法侵入だから、庭に回った。
庭だけでもまずいだろうけど、緊急事態という免罪符をかかげさせてもらった。
玄関から近くの部屋の窓の辺りから、霞湖ちゃんの名前を呼んだ。
「か――」
居間らしきところをライトが照らし出して、テレビの前のローテーブルの突っ伏した影を見つけた。
「霞湖ちゃん!? 大丈夫!? 起きて、しっかりして!」
駆け寄ると、窓のカギも開いていた。慌てて窓を開けて呼びかける。
窓際に近い位置に霞湖ちゃんはいたので腕を掴むと「んん~?」と、寝ぼけたような声が聞こえた。
「どうしたの、李湖……」
「俺だよ、優大。勝手に入っちゃったけど、李湖ちゃんが幼稚園で待ってるよ。体調悪い?」
体を半分室内へ入れた不格好で問いかける。
「いや、元気だよ、李湖……李湖? ああああああー!」
あくまで俺を李湖ちゃんだと勘違いしているらしい霞湖ちゃんが、突如叫び声をあげた。
「李湖! 迎え! 今何時!?」
「えと……七時十五分?」
「いやーっ! お迎えの時間とっくに過ぎてる! 待っててね李湖!」
「霞湖ちゃんちょっと落ち着いて! ちゃんと施錠していかないと危ないよ!」
このまま走り出しそうな霞湖ちゃんの腕を掴んで止めると、霞湖ちゃんが俺を見て驚いた。
「はっ! ……て、え? ゆうだい、くん……?」
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
物理部のアオハル!!〜栄光と永幸の輝き〜
saiha
青春
近年、高校総体、甲子園と運動系の部活が学生を代表する花形とされている。そんな中、普通の青春を捨て、爪楊枝一本に命をかける集団、物理部。これは、普通ではいられない彼らの爆笑アオハル物語。
男子高校生の休み時間
こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。
冬の水葬
束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。
凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。
高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。
美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた――
けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。
ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。
野球の王子様3 VS習志野・練習試合
ちんぽまんこのお年頃
青春
聖ミカエル青春学園野球部は習志野に遠征。昨年度の県内覇者との練習試合に臨むはずが、次々と予定外の展開に。相手方のマネージャーが嫌味な奴で・・・・愛菜と取っ組み合い?試合出来るの?
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
隣の席の関さんが許嫁だった件
桜井正宗
青春
有馬 純(ありま じゅん)は退屈な毎日を送っていた。変わらない日々、彼女も出来なければ友達もいなかった。
高校二年に上がると隣の席が関 咲良(せき さくら)という女子になった。噂の美少女で有名だった。アイドルのような存在であり、男子の憧れ。
そんな女子と純は、許嫁だった……!?
ほつれ家族
陸沢宝史
青春
高校二年生の椎橋松貴はアルバイトをしていたその理由は姉の借金返済を手伝うためだった。ある日、松貴は同じ高校に通っている先輩の永松栗之と知り合い仲を深めていく。だが二人は家族関係で問題を抱えており、やがて問題は複雑化していく中自分の家族と向き合っていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる