かすみcassette【完】

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
13 / 114
2 影の役割

しおりを挟む

恐らく俺だけが、霞湖ちゃんが抱えているものを知っている。

けれどクラスのみんなも同級のみんなも、立ち入ったことは訊かないし、無理に会話をしようとはしていない。

霞湖ちゃんが一人でいようとするとき、腫物扱いはしないけど、無理に距離を詰めようとはしていない。

それが霞湖ちゃんには不思議だったのか。

「霞湖ちゃんが踏み込んでいいって言うんなら、俺、みんなに言っておくけど……」

「い、いえ、それはなしでっ。出来たら今のままの扱いの方がいいです……」

霞湖ちゃんは、自分の意見がない人ではないようだ。

はっきりとものを言うこともあるし、曖昧な態度は少ない気がする。

「うん、わかった。じゃ、先に戻ってるね」

ここで俺が一緒に行こう、などと言ったら、霞湖ちゃんがクラスメイトと関わることを受け入れたと思われてみんなが集まってきそうだったから、一人で戻ることにする。

霞湖ちゃんから再び声がかかることはなかった。

ただ、階段の踊り場を歩いたとき、少しだけ見上げた霞湖ちゃんは、唇を引き結んで何かに耐えているように見えた。


+++


家に帰って、ボトルに作っておいた麦茶を冷蔵庫から出して飲んだところで、携帯電話が着信を告げた。

「はい」

『もしもし、優大様でしょうか。司結菜(つかさ ゆいな)です』

「ああ結菜さん。はい、仕事ですよね。國陽から聞いています」

制服のポケットから取り出したメモ帳をダイニングテーブルに置いて、胸ポケットからペンを取り出す。

昨日、國陽は来たついでに新しい仕事の話を残していった。

結菜さんは現在、当主秘書という立場で、当主の仕事があるときは名代である俺に随行してくれる。

『次の日曜日になりますが、お時間よろしいでしょか』

「大丈夫ですよ。今回は小埜病院と聞いていますが」

『ええ。なんでも、小埜の当主が預かっている者に異変ありとのことです』

「預かってる……」

って、あいつか。半分だけの吸血鬼、小埜黎(おの れい)。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あしたのアシタ

ハルキ4×3
青春
都市部からかなり離れた小さな町“明日町”この町の私立高校では20年前に行方不明になった生徒の死体がどこかにあるという噂が流れた。

男子高校生の休み時間

こへへい
青春
休み時間は10分。僅かな時間であっても、授業という試練の間隙に繰り広げられる会話は、他愛もなければ生産性もない。ただの無価値な会話である。小耳に挟む程度がちょうどいい、どうでもいいお話です。

物理部のアオハル!!〜栄光と永幸の輝き〜

saiha
青春
近年、高校総体、甲子園と運動系の部活が学生を代表する花形とされている。そんな中、普通の青春を捨て、爪楊枝一本に命をかける集団、物理部。これは、普通ではいられない彼らの爆笑アオハル物語。

乙女三年会わざれば恋すべし!

楠富 つかさ
青春
 同じ小学校を卒業した幼馴染同士だけど、中学で離れ離れになってしまった。そして三年ぶりに再会する少女二人。  離れていた時間があるからこそ、二人の少女の恋心は春よりも熱く、強く、熱を帯びる。

冬の水葬

束原ミヤコ
青春
夕霧七瀬(ユウギリナナセ)は、一つ年上の幼なじみ、凪蓮水(ナギハスミ)が好き。 凪が高校生になってから疎遠になってしまっていたけれど、ずっと好きだった。 高校一年生になった夕霧は、凪と同じ高校に通えることを楽しみにしていた。 美術部の凪を追いかけて美術部に入り、気安い幼なじみの間柄に戻ることができたと思っていた―― けれど、そのときにはすでに、凪の心には消えない傷ができてしまっていた。 ある女性に捕らわれた凪と、それを追いかける夕霧の、繰り返す冬の話。

野球の王子様3 VS習志野・練習試合

ちんぽまんこのお年頃
青春
聖ミカエル青春学園野球部は習志野に遠征。昨年度の県内覇者との練習試合に臨むはずが、次々と予定外の展開に。相手方のマネージャーが嫌味な奴で・・・・愛菜と取っ組み合い?試合出来るの?

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

隣の席の関さんが許嫁だった件

桜井正宗
青春
 有馬 純(ありま じゅん)は退屈な毎日を送っていた。変わらない日々、彼女も出来なければ友達もいなかった。  高校二年に上がると隣の席が関 咲良(せき さくら)という女子になった。噂の美少女で有名だった。アイドルのような存在であり、男子の憧れ。  そんな女子と純は、許嫁だった……!?

処理中です...