朧咲夜5-愛してる。だから、さようなら。-【完】

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
250 / 289

side咲桜21

しおりを挟む


 *
 
 ──ある日。ユキマサの父、稗月木枯ひえづきこがらしはパチスロへと足を運んでいた。

(雨だ……今日はパチスロ日和だな)

 さて、何を打つか……

(パチンコなら〝ホスト無双〟スロットなら〝パシリスト絆〟だな……悩み所だ……)

 顎に手を当て、小遣いである一万円札を握りしめ、木枯は朝イチのパチ屋の入場抽選を待つ。

 抽選の順番は10番、平日の特にイベントでも無い日としてはまあまあの入場順だ。

(よし、今日はパシリストだ! 絆を打つぞ!)

 木枯は決意を固める。
 そうして打つこと100回転前後、木枯はフリーズを引いた。

「おいおい、マジか!?」

 引いた木枯自身が驚く。

 結果、この日、木枯は5000円でフリーズを引き、なんやかんやで8000枚(16万円)と大勝利を果たした。 

 ご機嫌なテンションで木枯は帰路に着く。

 家に着くと、木枯は吹雪の前で正座していた。

「──あぶく銭です」

 稗月家にはこんな家訓がある。
 〝汗水垂らして稼いだ金は自分達の為に使え、あぶく銭は可能な限り他人のために使え〟

 この家訓の為の吹雪の対応である。

「ま、待ってくれ、今までスッたのを計算するとそんなに勝ってないんだ!」
「あぶく銭です!」

 ニッコリと吹雪が笑う。

「まあ、家族で外食ぐらいは行きましょうか」

 その場にぐったりと木枯は膝を吐く。

 その日、家族6人で食べ放題の焼き肉チェーン店に晩飯を食べに行き、残った金は母さんが全額孤児院に寄付していたのだった──。

 *

「夏祭り?」

 理沙が口を開く。

「ああ、今日の夜だ! 屋台、見に行こうぜ!」

 俺は楽しげに理沙に言う。

「で、でも……」

 チラりと母さんを理沙が見る。

「いいじゃない、せっかくのお祭りよ、理沙ちゃんも見てきなさいな」
「う、うん!」

「よっしゃあ、決まりだな!」
「いや、何で親父が一番嬉しそうなんだよ?」

 まあ、ということで、その夜──

「こ、混んでるね」
「理沙はお祭り来たこと無いのか?」

「うん、来たこと無い」
「まじかよ」

「あ、理沙ちゃん、はい、お小遣い!」

 と、理沙に母さんが5000円を渡す。

「え、こんな大金、受け取れないよ」
「いいのよ、むしろ店の手伝いをしてくれてるんだから、普通ならこの100倍ぐらい渡したい所よ」

 100倍って……まあ、一年以上店を手伝ってるんだからそれぐらい出ても、何ら不思議じゃないか。

「じゃ、じゃあ、ありがとう、な、何、買おうかな」
「たこ焼き、焼きそば、りんご飴、唐揚げ、ポテト、早く回らないとだな」

「ユキマサはどれだけ買うつもりなの?」
「ん? 制覇に決まってるだろ? 名がすたる」

「俺はユキマサに賛成だ、金は俺が持つ、好きに食べてこい」
「流石は親父だ、分かってるな!」

 ガシッと、腕を絡ます俺と親父。

「はーいはい、理沙ちゃんバカは放っておきましょ、それより、花火の場所取りをしてくれてる、お義父様とお義母様を探さなきゃね」
「……うん」

 *

「たこ焼き1つ」

「焼きそば1つ」

「りんご飴1つ」

 そんな感じでどんどんと俺は屋台を回る。

「おい、ユキマサ、そっちはどうだ?」
「どうだも何も、俺は飲食系の屋台を回ってるだけだぜ? 親父こそ、そのキツネの面はどうしたんだよ?」

 いつの間にか、キツネの面を斜めにかける親父は上機嫌で話しかけてくる。

「あ、やっと見つけた! おかーさんが探してたよ」

 と、現れたのは理沙だ。
 だが、理沙の手にはりんご飴とわたあめが握られており、どうやら理沙も理沙で夏祭りを満喫しているみたいだ。

「理沙か、どうだ? 祭りは?」
「うん、すごい楽しい、おばーちゃんにりんご飴も貰ったし──美味しいね、これ」

「にしし、だろ?」
「何でユキマサが誇らしげなのよ?」

「おい、ユキマサ、理沙、そろそろ花火が始まるぜ? 吹雪達と合流しなきゃな? 理沙、案内頼むぜ?」

「あ、うん、こっち」

 理沙に案内され、かき氷、大判焼き、お好み焼き、を買いながら俺達は母さん達と合流する。

 と、その時だ、ヒュ~ン、ドッカーン!

 大きな花火が打ち上がる。

「綺麗……」
「にひひ、だろ? 花火は良いよな」

 感動したような声で理沙が呟き、俺はその隣で楽しく笑う。花火は良い、特に誰かと見る花火は格別だ。

「おーい、理沙、ユキマサ、かき氷の屋台があるぜ! 夏の醍醐味だ、食おうぜ、さて何味にするか?」

 俺と理沙の間に割って入り、右手を俺に、左手を理沙の頭の上に乗せる親父は子供のように笑顔だ。

「親父、花火見ろ、花火! もう始まっちまったじゃねぇか! ブルーハワイ!」
「バカ野郎! 花火の下で食う、かき氷ってのが乙なんだぜ? お前もやってみろ?」

「な、花火の下で、かき氷だと……!?」

 最高に決まってる。
 く、馬鹿は俺だ。

「私はイチゴにしようかな」
「お、いいねぇ。俺は変化球でコーラ味だな。よし、おやっさーん! かき氷3つ、ブルーハワイ、イチゴ、コーラで頼むぜ!」

 でも、時間は無駄にはしまいと、さっさかと親父は注文と会計を済ませる。

「ありがとな、親父」
「ありがとう。おとーさん」

 かき氷を受けとる、シロップもケチケチせず、たっぷりだ。
 しかもよく見るとシロップはかけ放題らしい。気前が良いね。

「おうよ。ゆっくり食べな、キーンてなるからな? さ、じゃあ、食いながら、吹雪たちと合流しようぜ」

 サクッと刺し、パクっと食う。うん、美味い。
 ブルーハワイのこの青色が実に涼しげだよな。

「ていうか、おとーさんもユキマサも手荷物いっぱいだね。どれだけ買ったの?」

 かき氷を食いながら、ビニール袋に入った屋台の食べ物を両腕にこれでもかとブラ下げる俺と親父を見て理沙が驚き半分呆れ半分といった様子で見てくる。

「ん? 目に止まった物、全てだが?」

 も当然かのように答える俺に、理沙はやはり呆れ気味だ。

 花火の打ち上がる空の下、俺と理沙と親父は、席を取っていた母さんと爺ちゃん婆ちゃんと合流する。

「あら、遅かったですね、花火始まってますよ」

 母さんが少しズレて、俺たちの席を開ける。

「おい、木枯こがらし、早くせい、先にもう飲んどるぞ」
「あらあら、飲み過ぎないでくださいね」

「いいねぇ。屋台で色々買ってきたぜ、皆で食おう」

 親父がビールをグラスに爺ちゃんに注いでもらいながら返事を返す。

 ヒュ~ン、ドッカーン!
 花火が打ち上がる。

「どうした理沙?」

 ふわぁ、と、感動したように花火を眺める理沙に俺はイタズラ気に声を掛ける。

「うん、綺麗だなって!」

 花火に負けない明るい笑顔だ。

「理沙ちゃん、理沙ちゃん、たこ焼き食べる?」
「食べる、お婆ちゃんも一緒に食べよ」

 婆ちゃんの隣に座り、たこ焼きを爪楊枝で食べ始める。理沙は、たこ焼きを食べると、花火が上がると、少しオーバーなぐらいのリアクションを取る。
 でも、凄く楽しそうだ。婆ちゃんも笑ってる。

「本当に綺麗、たこ焼きも美味しい──」

 笑みを溢す、理沙。

 ──花蓮理沙は、この日見た花火を生涯忘れない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

黒ギャルとパパ活始めたら人生変わった

Hatton
ライト文芸
「死ぬなら一発ヤッてからにしたら?」 線路に飛び込みかけた俺を救ったのは、身長177cmの黒ギャルだった… アラサー社畜×黒ギャルによる「究極のパパ活」がはじまった。 短編〜中編くらいになる予定…でしたが、色々膨らんじゃったので、ひとまず納得できるところまで書いてみまふ。

キサラギムツキ
BL
長い間アプローチし続け恋人同士になれたのはよかったが…………… 攻め視点から最後受け視点。 残酷な描写があります。気になる方はお気をつけください。

旦那様の愛が重い

おきょう
恋愛
マリーナの旦那様は愛情表現がはげしい。 毎朝毎晩「愛してる」と耳元でささやき、隣にいれば腰を抱き寄せてくる。 他人は大切にされていて羨ましいと言うけれど、マリーナには怖いばかり。 甘いばかりの言葉も、優しい視線も、どうにも嘘くさいと思ってしまう。 本心の分からない人の心を、一体どうやって信じればいいのだろう。

完結 愛のない結婚ですが、何も問題ありません旦那様!

音爽(ネソウ)
恋愛
「私と契約しないか」そう言われた幼い貧乏令嬢14歳は頷く他なかった。 愛人を秘匿してきた公爵は世間を欺くための結婚だと言う、白い結婚を望むのならばそれも由と言われた。 「優遇された契約婚になにを躊躇うことがあるでしょう」令嬢は快く承諾したのである。 ところがいざ結婚してみると令嬢は勤勉で朗らかに笑い、たちまち屋敷の者たちを魅了してしまう。 「奥様はとても素晴らしい、誰彼隔てなく優しくして下さる」 従者たちの噂を耳にした公爵は奥方に興味を持ち始め……

早春詩

詩川貴彦
ライト文芸
二月の頃でしょうか? 寒風の中に、春が匂いを感じることがありまして、 そんな頃がなぜか一番好きだったように思います。

ご飯を食べて異世界に行こう

compo
ライト文芸
会社が潰れた… 僅かばかりの退職金を貰ったけど、独身寮を追い出される事になった僕は、貯金と失業手当を片手に新たな旅に出る事にしよう。 僕には生まれつき、物理的にあり得ない異能を身につけている。 異能を持って、旅する先は…。 「異世界」じゃないよ。 日本だよ。日本には変わりないよ。

しのぶ想いは夏夜にさざめく

叶けい
BL
看護師の片倉瑠維は、心臓外科医の世良貴之に片想い中。 玉砕覚悟で告白し、見事に振られてから一ヶ月。約束したつもりだった花火大会をすっぽかされ内心へこんでいた瑠維の元に、驚きの噂が聞こえてきた。 世良先生が、アメリカ研修に行ってしまう? その後、ショックを受ける瑠維にまで異動の辞令が。 『……一回しか言わないから、よく聞けよ』 世良先生の哀しい過去と、瑠維への本当の想い。

処理中です...