呪われたあやかしと密やかな婚約。【完】

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
77 / 90
6 罪と罰

しおりを挟む

「周りに女の人たくさんいたんだったんだっけ……」

「そんなんじゃないから舞弥――っつかお前も舞弥に誤解されるように言うんじゃねえよ! そいつら勝手に近くにいただけだ! 舞弥はやっと見つけた俺の宝なんだよ!」

壱が舞弥を抱きしめながら叫ぶと、玉は「きゃーっ」と顔を手で覆い、女性は目じりを下げた。

「その通りです。壱翁様の周りには勝手に、たくさんの女性がいました。ですが誰も壱翁様の気を引くことは出来ず、ましてや宝だなんて……。……そうやって、想いが募ったのです。振り向いてもらえなかった、悔しいという、逆恨みの想いが、壱翁様には蓄積していました。色男のさがかもしれませんが、壱翁様は扱いを間違われたのです。存在を、存在として扱わなかったという……」

「……存在を、存在として扱わなかった……?」

舞弥の疑問に、女性は軽くうなずく。

「ええ。平たく言えば、『無視』されたのです。その目に留めず、気にも留めず……呪ったわたしが言うのもなんですが、断る、ということすらされなかったのです。……フラれたとしても、言葉ひとつで昇華されるのが感情というものです。あやかしも、人間ほど敏感ではないでしょうが、感情はあります。壱翁様が今、貴女様を大事に思っているのも『感情』があるからです」

「……」

舞弥は黙って聞いていた。

壱は、放っておいたんだ。自分を慕ってくる者たちが恨みの念を持ってしまうくらい、それは残酷な『返事』だったのだろう。

「『壱翁ゆえ、返事など出来なった』、というところでしょうけれど……」

女性がつぶやくように言った。

舞弥は眉根を寄せて尋ねた。

「それは……どういう意味ですか……?」

「壱翁様は、いわば偶像でした。あやかし七翁の最初の文字を司るものとして、高潔であらねばならなかったのです。憧れられ、崇敬され……。ですが我こそはと思う方もおりました。おりましたが……壱翁様に袖にされることすらなく散った数多(あまた)の想いを、わたしは託されてきました。わたしは元々、堕ちた巫女の使い魔として誕生しましたので、呪いは専門だったのです」

「……壱はその『偶像』であることを守るために、女性たちに振り向かなかった、と……?」

「それはわたしも知りたいところです。――千年前、わたしは壱翁様に尋ねました。『どうして特別を作らないのですか』と。壱翁様はこう答えられました。『教える義理はない』。……この返事で、わたしに想いを託してきた方は満足しなかった。そのため、呪いは発動したのです」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

この度、猛獣公爵の嫁になりまして~厄介払いされた令嬢は旦那様に溺愛されながら、もふもふ達と楽しくモノづくりライフを送っています~

柚木崎 史乃
ファンタジー
名門伯爵家の次女であるコーデリアは、魔力に恵まれなかったせいで双子の姉であるビクトリアと比較されて育った。 家族から疎まれ虐げられる日々に、コーデリアの心は疲弊し限界を迎えていた。 そんな時、どういうわけか縁談を持ちかけてきた貴族がいた。彼の名はジェイド。社交界では、「猛獣公爵」と呼ばれ恐れられている存在だ。 というのも、ある日を境に文字通り猛獣の姿へと変わってしまったらしいのだ。 けれど、いざ顔を合わせてみると全く怖くないどころか寧ろ優しく紳士で、その姿も動物が好きなコーデリアからすれば思わず触りたくなるほど毛並みの良い愛らしい白熊であった。 そんな彼は月に数回、人の姿に戻る。しかも、本来の姿は類まれな美青年なものだから、コーデリアはその度にたじたじになってしまう。 ジェイド曰くここ数年、公爵領では鉱山から流れてくる瘴気が原因で獣の姿になってしまう奇病が流行っているらしい。 それを知ったコーデリアは、瘴気の影響で不便な生活を強いられている領民たちのために鉱石を使って次々と便利な魔導具を発明していく。 そして、ジェイドからその才能を評価され知らず知らずのうちに溺愛されていくのであった。 一方、コーデリアを厄介払いした家族は悪事が白日のもとに晒された挙句、王家からも見放され窮地に追い込まれていくが……。 これは、虐げられていた才女が嫁ぎ先でその才能を発揮し、周囲の人々に無自覚に愛され幸せになるまでを描いた物語。 他サイトでも掲載中。

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

その忌み子は最上級の鬼に溺愛される

あなはにす
恋愛
「よろしく、花嫁様」 顔の大きな痣から忌み子と呼ばれ、なくなった両親からの愛情を頼りに生きてきた子爵令嬢花咲(カザキ)。領地では飢饉が起きそうになっていた。自分を厄介者扱いする継母は飢饉の原因を最上級と言われる笛吹きの鬼にすることにし、花咲は強引に鬼の嫁として差し出される。 鬼は長い黒髪をもち、ツノの生えた美しい青年の姿をしていた。鬼は花咲に興味がなく、食べようとする。しかし、両親の望む生を全うするために花咲は、笛吹きの鬼の本当の花嫁になることを申し出る。最初は鬼におびえる花咲だったが、二人は共同生活を通して少しずつ愛を知っていく。

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~

綾雅(要らない悪役令嬢1巻重版)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」  何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?  後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!  負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。  やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*) 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2022/06/22……完結 2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位 2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位 2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

久しぶりに会った婚約者は「明日、婚約破棄するから」と私に言った

五珠 izumi
恋愛
「明日、婚約破棄するから」 8年もの婚約者、マリス王子にそう言われた私は泣き出しそうになるのを堪えてその場を後にした。

処理中です...