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4 知られていた壱
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しおりを挟む舞弥は絶句した。この前美也と会ったとき一緒にいた人物を、玉が龍神様だと言ってびびっていた。
恋人だから巫女となる。その図式はなんとなくわかったが――
舞弥は壱をきっと睨んだ。
「早く言ってよー! 巫女さんが美也ちゃんならそうって教えといてよ! 私一晩眠れずに悩んだのにー!」
「え、ごめん?」
「ちょっと壱翁様!? 舞弥ちゃん泣かさないでくださいます!?」
ぐじゃぐじゃの顔の舞弥の涙を、美也が手巾で拭う。そしてこそっと訊いた。
「舞弥ちゃん、もしかして『巫女さん』に妬いてた?」
「……は、はあ!?」
「可愛い~、舞弥ちゃん可愛い~」
美也が舞弥にぎゅう~っと抱き着く。舞弥は一人で空回りしていたのが悔しくてされるがままだがぶすっとした顔を貫き通した。
「お、おい壱、龍神様って……」
動揺からか、玉がマスコットのまま喋った。
壱は特に気にせず答える。
「榊のことだが?」
「いや―――! 最高神簡単に現れないでくんない!? 俺はモブ妖異にすぎないんだー!」
突如奇声をあげた毛玉に、美也の両肩が跳ねた。
「だ、誰っ? ほかにも誰かいるのっ?」
きょろきょろする美也に、舞弥はカバンを前に出す。
「美也ちゃん、この毛玉だよ。たぬきのあやかしで、玉っていうの。龍神様が強すぎて怖いんだって」
説明を受けた美也は、興味津々と毛玉の玉を見た。
「へー。玉さん、初めまして、清水美也といいます」
「りゅ、龍神様の、み、巫女殿、玉といいます、どうか俺の事は無視してください。俺は背景になじむ系のあやかしなんですっ」
毛玉がぶるぶる震えながら訴えた。
その言葉を聞いて、美也はふふっと笑う。
「大丈夫だと思います。玉さんのお友達が出来るかもしれません」
美也がにこやかに言うので、舞弥は首を傾げた。どういう意味だろう。
「行こ、舞弥ちゃん。みんなを紹介するね」
そう言って、美也は舞弥の腕を引いて階段をのぼりはじめた。
残された壱も後に続く。舞弥と美也が何をこそこそ話していたかはわからないが、なんだか気になっていた。
そして階段を上り切った舞弥が見たのは――
「何これ可愛い!」
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