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3 舞弥、風邪をひく
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しおりを挟む「大丈夫?」
舞弥が体を起こしながら問うてきた。
壱はせき込むのをなんとか収めて、舞弥の方を向いた――が、なんだか恥ずかしい。
「す、すまない……舞弥の方こそ大丈夫か? 今――昼すぎたから、結構寝られたと思うが……途中で寒いと言っていた」
誤魔化すように首をめぐらせ、時計で時間を確認する。針は二時を回っていた。
「そうなの? 今はだいぶ楽になったよ。あ、だから一緒に寝ててくれたんだ? ありがとう壱」
舞弥にはにかんだ笑顔で言われて、壱はどきっとした。咄嗟に目を逸らす。
「そ、そうか。熱を測った方がいい。昼の薬も飲むんだろう? 大家殿が持ってきたおかゆを温めて来よう」
言いつつ、壱は舞弥の布団から離れた。
途中で舞弥のことは見ずにテーブルの上の体温計を布団へ投げた。
おかゆは半分ほど食べて残りは冷蔵庫に仕舞っていたので、壱はそれを取り出して電子レンジであたためだした。
背伸びしたり、ぴょいと台の上に乗ったり、器用なものである。
布団に残された舞弥は、何度か瞬いてから、壱が言ったように熱を測った。
「………」
なんとなく舞弥は膝を抱えて黙ってしまった。
(……え~? 私、壱のこと抱え込んでたよね? 寒いって言ったって壱からそんなことするとは思えないし……むしろ、年頃の娘が破廉恥な! とか怒りそうなとこあるし……私が引きずり込んだんじゃない!? は、恥ずかしすぎる……! ごめん壱!)
なかなか混乱していた。
(だってだってだって、私、夢だと思ってたのに……)
夢の中で、舞弥はとても温かった。
舞弥よりも大きな誰かがその腕に包んでくれていて、心の底からぽかぽかする心地だったのだ。
誰だろうと思って顔をあげると、その人は白い髪をしていた。
見たことのない顔。老人というわけではなかった。青年である。
ただ、目をつむったその人は、綺麗な面立ちをしているな……と思って、舞弥はまた目を開けようとして――たぬきの壱が目に入ったのだ。
つまり目覚めたら、たぬきの壱が舞弥の腕の中にいた。
(え? え? え? どういうこと? どっちが夢? こっちが現実だよね? 私知らない人と一緒にいるとか考えるくらいふしだらだったの!? ショック!)
「舞弥、おかゆだ。薬もある」
頭を抱えて苦悩していると、壱がお皿を載せたお盆を持ってきてくれた。
ちゃんと、スプーンと薬用の水もある。
「壱って彼氏力高いよね……」
「は? なんだそれは。人間にはそんな指標があるのか? は、はれんちなっ」
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