呪われたあやかしと密やかな婚約。【完】

桜月真澄

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3 舞弥、風邪をひく

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(そうだな……言うなら俺の呪いも、俺の責任だったのかもしれない……)

じっと、自分の手を見てみた。

玉とつるむようになってから、幼かった玉の世話や巻き込まれる面倒ごとでほぼ忘れかけていたが、これが自分の本来の姿ではなかったのだ。

つい最近、龍神の水鏡で久方ぶりに己の姿を思い知らされた。

(……あの姿なら、舞弥の傍にいてもふさわしくないとは思われないだろうか?)

ふとそんなことを考えて、壱ははっとした。

自分は榊のような神格ではない。

神格は巫女を持つが、自分はただのあやかしだ。

あやかしは人間の巫女は持たない。

「……ちょっと龍神に喧嘩売ってくる」

「はあ!? ちょ、やめろよバカ! なんでそんな空恐ろしいこと考えるんだバカ! 命知らずかバカ!」

よいせ、と立ち上がりかけた壱に、玉がバカ三連発を浴びせる。

その勢いに壱はちょっとショックを受けた。

壱の、格を考えたらとんでもない発言に玉はまだ泡食っている。

「お前! そんなことしたら死ぬぞ! 俺はいやだかんな! 舞弥も嫌だと思うぞ!」

昔馴染みの榊は壱を殺すようなことはしないだろうが――というより、あやかし七翁を手にかけようとするあやかしや神格はいないだろう。

あやかしの礎(いしずえ)である七翁は、ひとつとして欠けてはならないから。

神格に等しく敬われてきた。畏(おそ)れられてきた。壱の場合は、呪いを受ける前は、であるが。

たぬきの姿になり、壱に向けられる眼差しは変わった。

(今はたぬき姿のあやかしに過ぎないがな)

「話戻すぞ。舞弥の勘違いというか、気のせいだったってことか?」

「たぶんな。害悪あるようなのはいなかったし、舞弥を見ているあやかしもいなかった。いなかったが……」

「なんだ?」

「……なんだか、店で見たことある客が近くを歩いていてな……しばらく舞弥と同じ道を歩いているようだった」

「男か?」

壱の声が緊迫した。

「いや、女だ。よく店に来る客で、控えめな感じというのか。大人しそうな客だ」

女? 客の女が舞弥のあとをつけていた……?

「その女はどこまで来た?」

「わからん……俺、きょろきょろしてたから、アパートが近づくといなくなっていたと思う……」

そこまで喋って、玉は食事――否、味見を再開した。

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