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1 喋るたぬき
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しおりを挟むたぬき姿と同じ黒と茶が混じったような濃い色の茶髪に、大きな目とのぞく八重歯。
見た目だけなら高校生か大学生といったあたりの人懐っこい容姿だ。
浴衣のようなものを身に着けていたので、舞弥はたぬきを窓から投げ捨てなくて済んだ。
舞弥はしゃがんでいる自分の膝に頬杖をつく。
「変化ねえ……なんかもっとないの? パンチの効いた超常能力とか」
「なっ、これで動じないだと!?」
舞弥の反応は黒茶たぬきと納得のいくものではなかったらしく、ショックを受けている。
「いやー、だってさ。たぬきが人間になるって使い古された話だよ。漫画や小説とか、探さなくても見つかるでしょ。こう、いまどきの若者が、ええ!? って驚くくらいのことできないの?」
「なっ……」
黒茶たぬきが絶句していると、
「辛辣だな、人間。俺は嫌いじゃないぞ」
白いたぬきが顔を洗いながら言った。
「君は変化しないの? 白いけどたぬきなの?」
「出来るが、お腹が空くのでもう少し牛乳飲んでからでもいいか? あと白いたぬきもいるぞ」
なんだか白いたぬきはのんびりしていた。
「いいよー。あ、私、朝倉舞弥ね。君たち名前ある?」
「俺は壱(いち)だ。こっちは玉(ぎょく)」
と、白いたぬきが二人分紹介した。
「壱ね。……こっちはタマじゃないの?」
「誰が猫だコラアア! 人間になれとんだろうが!」
人間の姿で地団太を踏む勢いで否定する玉の足を、たぬきの壱がぽかっと叩いた。
「玉、うるさい。舞弥の迷惑になるだろう」
壱が、さらっと舞弥を名前で呼んできた。
「壱は常識あるんだね。今――」
「舞弥ちゃん、いるかいー?」
ピンポーン、とチャイムが鳴ると同時に、外から男性の声がした。
びくうっと肩が跳ねる壱と玉。
「あ、隠れてた方がいいよ。私出てくるね」
はーい、と答えつつ、舞弥は玄関ドアを開けた。
そこにいたのは老齢の男性で、手に袋を持っている。
舞弥は笑顔になった。
「おじーちゃん、こんばんは」
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