2 / 83
1 龍神様と水鏡
1
しおりを挟む「あいつら今日も腹立つことしかしなかった。ほんと害悪」
『こら美也。いくら気が立っても言葉遣いを荒くしては駄目だ。人間性が出る』
「だって―――! 今日も朝から晩まで用事ばっか言いつけられて勉強する時間もなかったんですよ~。ほんと榊さんが話聞いてくれてなかったらコーヒーと称して醤油出してた」
『お前は随分たくましく育ったなあ……』
――清水美也は、自分に与えられた小さな部屋で机に向かい喋っていた。
その前に誰かがいるわけではない。
美也が向かっているのは机に置かれた手のひらサイズの鏡。
その鏡に映るのは美也ではなく、かつて美也が『かおだけいいおにいさん』と呼んだ青年だ。
――名を榊(さかき)、と美也に教えた。
「ねえ、榊さんって全然変わらないですよね」
『そうか? 小さな子供はすぐに成長するが、ある程度年を取ると目に見えて変わらないだけだよ』
「そうなのかな? それにこの、手品もすごいですよね。私携帯電話持つこと許されてないから、これがないと榊さんに逢えなかった」
手品、と美也が言ったのは、榊の姿を映す鏡のことだった。
『美也のために作ったものだ。俺も美也に逢いたかったからな』
「……っ、か、軽いこという男は女を騙すってテレビが言ってた」
『お前まだそんなこと言うのか。一体俺は何年越しの詐欺をするつもりなんだ』
榊が、呆れたとため息をつく。
「だって榊さん、顔だけはいいし」
『性格は悪いって?』
榊がからかうように返せば、美也はうっと言葉に詰まった。
榊は謎の多い人物だが、優しい人だとわかっている。
「そ、そんなことはないけど……」
『まあ、警戒していてくれた方がいい。俺も女性をたぶらかす奴だなんて噂が立つのは嫌だ』
特に悪く思っていないようで、榊はそんなことを言った。
「榊さん、ご近所で変な噂でもあるの?」
『いや? ないが……』
「そう、なら――」
美也が言いかけたとき、階段をあがってくる音がした。
二階に部屋を持つのは美也と従姉の奏(かなで)のみなので、奏が自分の部屋に来たのだろう。
おじやおばなら階下から大声で呼びつける。
そして、
「美也、コーヒー。カフェインないやつ」
0
お気に入りに追加
6
あなたにおすすめの小説
【完結】私だけが知らない
綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話
ラララキヲ
恋愛
長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。
初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。
しかし寝室に居た妻は……
希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──
一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……──
<【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました>
◇テンプレ浮気クソ男女。
◇軽い触れ合い表現があるのでR15に
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾は察して下さい…
◇なろうにも上げてます。
※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)
最愛の側妃だけを愛する旦那様、あなたの愛は要りません
abang
恋愛
私の旦那様は七人の側妃を持つ、巷でも噂の好色王。
後宮はいつでも女の戦いが絶えない。
安心して眠ることもできない後宮に、他の妃の所にばかり通う皇帝である夫。
「どうして、この人を愛していたのかしら?」
ずっと静観していた皇后の心は冷めてしまいう。
それなのに皇帝は急に皇后に興味を向けて……!?
「あの人に興味はありません。勝手になさい!」
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
性欲排泄欲処理系メイド 〜三大欲求、全部満たします〜
mm
ファンタジー
私はメイドのさおり。今日からある男性のメイドをすることになったんだけど…業務内容は「全般のお世話」。トイレもお風呂も、性欲も!?
※スカトロ表現多数あり
※作者が描きたいことを書いてるだけなので同じような内容が続くことがあります
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる