上 下
277 / 299
六 わりーわりー、足が滑った。

side咲桜6

しおりを挟む

「…………」

そう返せないのが、今の自分の位置だ。

生徒というしばりの。

……でも。

「すきですよ。ずっと、絶対」

「――え」

顔をあげた宮寺先生と目が合った。

「えっ! ご、ごめん! そうだよね、別にすきになっちゃいけないとかないよね、だからあの――泣き止んでください!」

懇願された。

……泣き?

頬に触ってみると、涙がまとわりついてきた。な、何故泣く! 自分!

焦って困って顔をこすっていると、隣で宮寺先生も困っていた。

「すみません、なんか踏み込んだこと訊いちゃって……。教師と付き合う、とかはないけど、すきでいるくらいは気持ちの問題だよね。……――ただ、あの
「そこまで、宮寺」

ふっと、視界が昏くなった。雲? 違う。隙間から太陽の光を見せているのは、大きな手だった。

しおりを挟む

処理中です...