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二 だったらそれは、

side咲桜14

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「……遙音先輩、今はどうしてるの?」

車中、ふと気になって訊いてみた。笑満に教えてあげられることがあったらいい。

「バイトしつつ独り暮らし。今は降渡が後見役をしている」

「じゃあ、もう施設は出たんだ?」

「出たと言うか……中学二年の頃、家出同然で龍さんとこに転がり込んできた。施設に話しつけるのは手間だったけど、あいつは一人でも大丈夫だと思ったからな。しばらくは龍さんの手伝いって形で預かって、『白』にいたんだ。高校に入ったらバイトして一人暮らし始めた」

「……そうなんだ」

並大抵ではない苦労を、先輩もしているのだ。

誰より、などと比べることは愚で。

配列など意味のないこと。

「遙音と仲良くでもなったのか?」

「遙音先輩? そんなことはないと思うけど?」

なんか流夜くんはいやにそこを気にするな、と感じる。

「遙音先輩と仲良くなるのは笑満の方でしょ」

「……そうなんだろうが……」

納得がいかない。そんな苦い顔が見えた。

すぐにうちについた。

「ありがとうございました。流夜くんも気を付けて」

ベルトを外しながら言うと、返事の代わりのように腕を摑まれた。

「りゅ――?」

「ありがとう。眠れなくなったらまた頼む」

艶っぽい微笑とともに言われ、仕返しを喰らった気分になった。

自分で言いだしたことが、なんとも恥ずかしいことだったと思い知る。

「……はい」

俯き加減で答えても、声はちゃんと届いたらしい。

今日は、流夜くんは家にはあがらず、そのまま吹雪さんの許へ向かった。いろいろあって、煙吹いたり爆発しかけた顔をもとに戻す努力をしつつ、「ただいま」と声をかけた。電気がついているので、在義父さんはもう帰っているようだ。

「おかえりー」

在義父さんに迎えられるのは珍しい。今は、ジャケットは脱いでいるけど、在義父さんは家でも基本スタイルがスーツだった。いつでも出られるように、らしい。現場主義な在義父さんだった。

「流夜くんは?」

「吹雪さんのとこに行くって」

「そうかい。少し文句つけようと思ったんだが……」

「………」

それを想定して家まで入らなかったのかもしれない。

「遅くなったこと? いつもとあまり変わんない時間だけど……」

鞄を椅子に置いて、エプロンをかける。作っておいたものをあっためなおすだけだけど、習慣だった。

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