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3 誘惑
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「……ま、琴理様、ご体調がすぐれませんか……?」
宮旭日邸の心護の離れに帰宅した琴理は、着替えたあと詩から講義を受けていた。
講義と言っても、花薗にいた頃は知ることが出来なかった、宮旭日内部の話を教えられているところだ。
詩に教えてくれるよう頼んでいた、淋里派の人物なども含めて。
詩の何度目かの呼びかけにやっと気づいた琴理がはっと顔をあげる。
「す、すみません……ちょっとぼうっとしてしまって……」
詩は、そうですよね、とうなずいた。
「宮旭日に来られてから、緊張のし通しですから……今日はここまでにしましょうか?」
「いえ。なるべく多くのことを知っておきたいので、時間のゆるす限り教えてください」
「かしこまりました……。ですが、今日は夕食後の勉強はやめておきましょう」
「え――」
戸惑う琴理に、詩は穏やかに告げる。
「休むことも仕事のうちですよ。仕事、なんて言い方をしたらご気分を害してしまうかもしれませんが、しっかりと休養を取る。大人になるにつれて、おろそかになりがちで、大事なことです」
「……はい」
詩に言われたことをその通りだと思った琴理は、小さくうなずいた。
限界突破で頑張ることは出来るが、いつかガタは来る。
今まで琴理のスケジュールは教師陣が組んでいて、休養の時間もしっかりと入っていた。
宮旭日に場を移すことは急遽決まってしまったが、花薗の手を離れたことで、琴理自身が選択していくことも一気に増えた。
「ではあとは少し変えまして、昨日お伝えそびれました涙子と主彦のことを」
「あ、はいっ」
涙子と主彦にお付き合いがあるのでは? と琴理が訊いたことへの返事だ。
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