最強退鬼師の寵愛花嫁

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
48 / 88
2 宮旭日の許嫁

18

しおりを挟む

「はい、涙子です。……えっ、もうですか? わかりました。一度戻ります」

少し驚いた様子で電話を切った涙子は、そのまま琴理を見てきた。

「琴理様のお荷物が届いたとのことです。詩さまが今お屋敷を離れているので、私に確認に戻ってほしいとのことでした。すぐに済むとのことですが、ここまで来てしまいましたから……」

敷地内に車が入るための門がすぐ近くに見えるので、もうひとつの離れまでは半分という位置なのだろう。

今、離れに女性がいないので涙子に戻ってほしいということなら、琴理も、自分の荷物を男性に見られるのはちょっと抵抗があるから問題はない。

「でしたらこの辺りを少し見させてもらっているので、用事が終わったらまた戻ってきてもらえますか?」

「わかりました。本気で急ぎますので、大きくは動かれませんようにお願い致します」

「はい」

心配する涙子に答えて、琴理は日傘を受け取った。

そしてダッシュの勢いで駆けていく涙子の背中を見送る。

「そこまで急がれなくても……」

琴理から苦笑がこぼれてしまうくらい俊足の涙子だった。

さて、と、くるりと周りを見渡す。

車が通れるように整えられた道路。

脇には植え込みが並んでいて、季節の花が植えられている。今は満開を迎えるチューリップだ。

(このお花を見ているだけでも癒されますね……)

日傘を太陽の方に向けて植え込みの淵にしゃがみこむ。

「綺麗です……」

色とりどりの花を眺めながら、思いっきり空気を吸い込む。

はじまりの時期は、周りが変わっていくことに若干の焦りを感じるが、やはり心地いいものでもある。

「おうおう娘、随分のんびりしちまってるがいいのか?」

「………」

姿は見せずに影から話しかける声がした。

「……あなたと話すことはないと思うのですが」

「そんなこと言うなよ。退鬼師の家に堂々と入れる魔族なんて珍しいんだ。面白い話でも聞かせろよ」

「……そんなものはありません」

――と、琴理がぶっきら棒に答えたとき、

「どうしたの? お腹痛いの?」

ふっと、男の声が降ってきた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

処女ということを友達からバカにされ続けてきたけど、私はイケメン皇太子からの寵愛を受けて処女であることを保っているので問題ありません。

朱之ユク
恋愛
 普通の女の子なら学園の高等部を卒業するまでには彼氏を作って処女を卒業すると言われているけれども、スカーレットは美人なのにずっと彼氏を作らずに処女を保ち続けてきた。それをスカーレットの美貌に嫉妬した友達たちはみんなでスカーレットが処女であることをバカにしていたけど、実はスカーレットは皇太子からの寵愛を受けていた18歳になるまで皇太子のための純潔を保っていただけだった。  いまさらその事実をしって、取り繕ってきてももう遅い。  スカーレットは溺愛皇太子と寵愛結婚をして幸せに暮らしていこうと思います。

生贄

竹輪
恋愛
十年間王女の身代わりをしてきたリラに命令が下る。 曰く、自分の代わりに処女を散らして来いと……。 **ムーンライトノベルズにも掲載しています

王女、騎士と結婚させられイかされまくる

ぺこ
恋愛
髪の色と出自から差別されてきた騎士さまにベタ惚れされて愛されまくる王女のお話。 性描写激しめですが、甘々の溺愛です。 ※原文(♡乱舞淫語まみれバージョン)はpixivの方で見られます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

完結 若い愛人がいる?それは良かったです。

音爽(ネソウ)
恋愛
妻が余命宣告を受けた、愛人を抱える夫は小躍りするのだが……

慰み者の姫は新皇帝に溺愛される

苺野 あん
恋愛
小国の王女フォセットは、貢物として帝国の皇帝に差し出された。 皇帝は齢六十の老人で、十八歳になったばかりのフォセットは慰み者として弄ばれるはずだった。 ところが呼ばれた寝室にいたのは若き新皇帝で、フォセットは花嫁として迎えられることになる。 早速、二人の初夜が始まった。

処理中です...