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2 宮旭日の許嫁
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しおりを挟む「はい、涙子です。……えっ、もうですか? わかりました。一度戻ります」
少し驚いた様子で電話を切った涙子は、そのまま琴理を見てきた。
「琴理様のお荷物が届いたとのことです。詩さまが今お屋敷を離れているので、私に確認に戻ってほしいとのことでした。すぐに済むとのことですが、ここまで来てしまいましたから……」
敷地内に車が入るための門がすぐ近くに見えるので、もうひとつの離れまでは半分という位置なのだろう。
今、離れに女性がいないので涙子に戻ってほしいということなら、琴理も、自分の荷物を男性に見られるのはちょっと抵抗があるから問題はない。
「でしたらこの辺りを少し見させてもらっているので、用事が終わったらまた戻ってきてもらえますか?」
「わかりました。本気で急ぎますので、大きくは動かれませんようにお願い致します」
「はい」
心配する涙子に答えて、琴理は日傘を受け取った。
そしてダッシュの勢いで駆けていく涙子の背中を見送る。
「そこまで急がれなくても……」
琴理から苦笑がこぼれてしまうくらい俊足の涙子だった。
さて、と、くるりと周りを見渡す。
車が通れるように整えられた道路。
脇には植え込みが並んでいて、季節の花が植えられている。今は満開を迎えるチューリップだ。
(このお花を見ているだけでも癒されますね……)
日傘を太陽の方に向けて植え込みの淵にしゃがみこむ。
「綺麗です……」
色とりどりの花を眺めながら、思いっきり空気を吸い込む。
はじまりの時期は、周りが変わっていくことに若干の焦りを感じるが、やはり心地いいものでもある。
「おうおう娘、随分のんびりしちまってるがいいのか?」
「………」
姿は見せずに影から話しかける声がした。
「……あなたと話すことはないと思うのですが」
「そんなこと言うなよ。退鬼師の家に堂々と入れる魔族なんて珍しいんだ。面白い話でも聞かせろよ」
「……そんなものはありません」
――と、琴理がぶっきら棒に答えたとき、
「どうしたの? お腹痛いの?」
ふっと、男の声が降ってきた。
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