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2 宮旭日の許嫁
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しおりを挟む「………え?」
「己の力を磨くことは積極的でしたが、跡継ぎということには消極的で……宮旭日の中枢は困った状態だったのです」
「知りませんでした……」
「琴理様の存在で、心護様は変わられましたから」
「? わたしですか?」
「はい。琴理様とお逢いになった心護様は、琴理様と婚約するためにはどうしたらいいのかと考えられたのです。そして旦那様がお示しになられたひとつの答えが、宮旭日の最高権力者――つまりは当主となることでした。それから心護様は、跡取りとなることを目指し始めました。今の心護様があるのは、琴理様と出逢われたからです。『完璧な跡取り』は、琴理様と出逢われたから、存在したのです」
そう言って、にこりとほほ笑む涙子。
琴理はまたひとつ、知らなかった心護を知った。
「……ありがとうございます」
「あっ、そんな、お礼を言うのはこちらですっ」
「いえ。涙子さんから聞いていなかったら、知らないままだったと思います。だから、ありがとうございます」
「琴理様……」
涙子の声が揺れていた。琴理は、心護の周囲にいる人から心護の過去を聞くしか出来ない。
だからこそ、こうして話してくれる人は琴理にとってありがたい存在だ。
「これからも、どうぞ教えてください」
「はい……っ。もちろんですっ」
感極まった声の涙子が目元を手で拭った。それを見て琴理はハンカチを差し出す。
「わたしはまだまだ至らないところばかりだと思います。どうぞ、ご指導の方もよろしくお願いします」
「こちらこそ、お気になることなどありましたら仰ってください」
「はい。お互いに、よろしくお願いしますね」
「はいっ」
笑みを向け合う琴理と涙子。
琴理にはわからなかった自分への信頼の理由を少しずつ知っていって、宮旭日の中に居場所を見つけていく感覚だ。
「あっ、申し訳ありません。少し電話に出ます」
「はい」
涙子が斜め掛けにして持っている小さなカバンから携帯電話を取り出して言った。
ちらりと画面が見えたが、『鳴上東二』と出ていた。
心護の離れの執事で、涙子の叔父だ。
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