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1 悪魔との契約
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しおりを挟む「こういうことなんです、琴理様。若君は琴理様のことになるとアホの子になってしまって……」
「と言うか残念な人間になってしまうのです。本当に普段どこからあんな『完璧な跡取り』をやる余裕があるのかと、この屋敷で働く者たちは不思議なくらいで。ああ、ですがこの体たらくが琴理様のせいというわけではありません。琴理様がいないとダメなのも皆わかっていますので」
「なんだかわたしのせいでダメな人にしてしまっている気がするのですが……」
「そのようなことはありません。お二人が……七つくらいの頃でしょうか。お逢いになる約束があった日のことですが、琴理様が熱を出されて取りやめになったことがあるのです。そのときの若君の使えなさ……落ち込みようと言ったらなかったので、ここの皆は、琴理様のことを若君にとってのとんでもなく素晴らしい原動力だと思っております」
今公一は、『使えなさ』と言った気がする。
しかしとんだ風評被害だ。
琴理にそんな力はないし、何ならまともに心護と喋ったのは今日が初めてだというのに。
その反面、琴理は納得がいった。
屋敷の人たちが琴理に対して歓迎的だったのは、そういう理由からだったのか……。
「まあ否定は出来ないんだけど」
否定してほしかった。
そんな琴理の心の声は、口には出なかった。
「そういうことだから、俺は琴理と妹君を間違えていないし、目の前にいる琴理が許嫁でとても嬉しいと思っている」
と、また照れたような笑顔を見せるから、琴理の心臓は慌ただしくなってしまう。
幼い頃に許嫁が決まっていただけあって、琴理は恋愛とは無縁だった。
周りが異性と親しくすることを許さなかったし、琴理もそういうことを求めていなかった。
そのため、こんなに近くに『異性』がいることに慣れておらず、どうしていいかわからない。
すぐ隣に、心護がいる。
「あ、の……」
「うん?」
「……っ、夜が明けてからでいいので、わたしから家に連絡をしてもいいですか……っ?」
琴理はいっぱいいっぱいになりながら、うつむき加減でそんなことを口にした。
花園の家と公一がどのようなやり取りをしたかはわからないが、行方不明騒ぎにでもしていたら大変だ。
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