19 / 101
1 悪魔との契約
18
しおりを挟む+++
宮旭日邸は退鬼師の宗家らしく、広大な土地を有している。
車のまま門を入って左右に分かれる道があり、車は左手に曲がった。
すぐにたどり着いたのが、和風の二階建ての邸だ。
右側に曲がるともうひとつの離れがあり、心護の両親である当主夫妻が住む母屋は真っすぐ行った先にあるのだそう。
心護に導かれて、公一が開けた扉をくぐる。
来る途中で花園の家には帰さずに宮旭日邸に連れて帰ると言われたときはあんぐりと開いた口が閉じなかった。
てっきり花園邸に送られ、家の執事からこっぴどくお説教か……と思っていたので、何故そうなる、と混乱した。
だが道中の公一の説明によれば、琴理は、今ごろは既に宮旭日の家に慣れるためにこの家で生活していてもおかしくなかったらしい。
『おかえりなさいませ』
絢爛豪華というよりはシンプルで上品といった和造りの扉から入ると、いきなり声がそろった。驚いた琴理の肩がびくっと跳ねる。
玄関に入ってすぐに並んで出迎えたのは、この棟で働いているであろう人たち。
それぞれ動きやすい和服姿をしているが、こんな時間まで働く恰好でいいのだろうか、と思った。
だが、続く公一の言葉でわざわざ起きていてくれたと琴理は知った。
「皆さん、遅くまでご苦労様です。琴理様はご無事ですので、手はず通りに」
『はい』
公一の言葉にそう答えるのは、老齢の男性ひとりと若い男性がひとり、そして公一と同年代くらいの女性がひとりと、若い女性がひとりだった。
やはり琴理が勝手に家を抜け出たことを知って、待機してくれていたのだ。
申し訳なさに琴理がうつむき気味になると、
「さあさ、琴理様、こちらへどうぞ。ご無事で何よりです」
「それでは心護様、琴理様をお部屋へご案内いたします」
「え、あ、あの?」
女性二人に囲まれた琴理は、あっという間に連れていかれてしまった。
心護に問う余裕もないくらいの素早さで、「これからしばかれる!?」と心配になった。
なにせ、こんな夜更けにやってくる許嫁なんて非常識過ぎる。
そんな不安から琴理がガチガチに緊張していると、
「琴理様に関しましては若君が非常識過ぎるのでご心配することはありませんよ」
琴理を連れてきた二人の女性のうちの、公一と同年代くらいのひとりが、蒼白になる琴理にそう言った。
にっこりと笑顔だったので、琴理から少し力が抜ける。
害意のある笑みではなかったのだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

顔も知らない旦那さま
ゆうゆう
恋愛
領地で大災害が起きて没落寸前まで追い込まれた伯爵家は一人娘の私を大金持ちの商人に嫁がせる事で存続をはかった。
しかし、嫁いで2年旦那の顔さえ見たことがない
私の結婚相手は一体どんな人?

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。

五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

邪魔しないので、ほっておいてください。
りまり
恋愛
お父さまが再婚しました。
お母さまが亡くなり早5年です。そろそろかと思っておりましたがとうとう良い人をゲットしてきました。
義母となられる方はそれはそれは美しい人で、その方にもお子様がいるのですがとても愛らしい方で、お父様がメロメロなんです。
実の娘よりもかわいがっているぐらいです。
幾分寂しさを感じましたが、お父様の幸せをと思いがまんしていました。
でも私は義妹に階段から落とされてしまったのです。
階段から落ちたことで私は前世の記憶を取り戻し、この世界がゲームの世界で私が悪役令嬢として義妹をいじめる役なのだと知りました。
悪役令嬢なんて勘弁です。そんなにやりたいなら勝手にやってください。
それなのに私を巻き込まないで~~!!!!!!
私に告白してきたはずの先輩が、私の友人とキスをしてました。黙って退散して食事をしていたら、ハイスペックなイケメン彼氏ができちゃったのですが。
石河 翠
恋愛
飲み会の最中に席を立った主人公。化粧室に向かった彼女は、自分に告白してきた先輩と自分の友人がキスをしている現場を目撃する。
自分への告白は、何だったのか。あまりの出来事に衝撃を受けた彼女は、そのまま行きつけの喫茶店に退散する。
そこでやけ食いをする予定が、美味しいものに満足してご機嫌に。ちょっとしてネタとして先ほどのできごとを話したところ、ずっと片想いをしていた相手に押し倒されて……。
好きなひとは高嶺の花だからと諦めつつそばにいたい主人公と、アピールし過ぎているせいで冗談だと思われている愛が重たいヒーローの恋物語。
この作品は、小説家になろう及びエブリスタでも投稿しております。
扉絵は、写真ACよりチョコラテさまの作品をお借りしております。

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる