10 / 88
1 悪魔との契約
9
しおりを挟む琴理が入った山は大きな公園の一部なので、手入れもされていて下草のない山を突き進み、道路に出た。ところで、壮年の男性が蒼白な顔でそう言ってきた。
四十歳を過ぎたあたりだろうか。傍らには乗用車があり、男性は普段着だ。
一般的な乗用車なので、心護が私的な目的でここへ来たことがわかる。
「ああ。夜中に起こして悪かった。琴理はこのままうちへ連れて行く。花園へは、一晩預かると連絡をしておいてくれ」
「承知しました。琴理様は手当など必要ではないですか?」
男性に問われ、琴理は首を傾げた。
何故自分がここにいることが前提のように話しているのだろう。
だが、先に質問に答えねば。
「は、はい……怪我はしておりません……」
琴理が答えると、男性はほっと肩から力を抜いた。
「車にお乗りください。ブランケットもありますので、お体を冷やさないようになさってください」
「は、はい……」
心護に導かれて、車に乗り込む。
何故ここまで自分に畏(かしこ)まるのだろう――そう思ったが、琴理は心護の許嫁、宮旭日家の人間にとっては捨て置けない存在なのだろう。勝手に決まっていた婚約とはいえ。
琴理を車の後部座席に押し込んだ心護は、琴理が「暑い」と言いたくなるほどブランケットでぐるぐる巻きにしてきた。
桜の時期は終わったとはいえ、まだ四月。夜は肌寒い。
が、限度というものがある。
「み、宮旭日様、少し待っていただけますか」
「何をだ?」
「ちょっと苦しいのです。こうも巻き寿司状態にされては……」
「あ。……悪い」
やりすぎたことに気づいた心護は、はっと手を止めた。
やっと巻き寿司から抜け出した琴理は、膝の上に一枚だけ借りて、心護に頭を下げた。
「かようなご足労をおかけしてしまい、大変申し訳ありません。このような時間に車を出させてしまったことも、申し訳ありませんでした」
心護と、運転をしている男性にも向けて頭を下げた。
「それと……もし誤解させてしまっていたらと思いお伝えするのですが、先ほどのあ――あの、言われたことに関しましては、わたしの妹のことなのです」
「……妹?」
心護は首を傾げる。
0
お気に入りに追加
10
あなたにおすすめの小説
散々許嫁の私を否定にしたくせになぜ他の人と結婚した途端に溺愛してくるのですか?
ヘロディア
恋愛
許嫁の男子と険悪な関係であった主人公。
いつも彼に悩まされていたが、ある日突然、婚約者が変更される。
打って変わって紳士な夫に出会い、幸せな生活を手に入れた彼女だったが、偶然元許嫁の男と遭遇し、意表を突かれる発言をされる…
裏切りの代償
志波 連
恋愛
伯爵令嬢であるキャンディは婚約者ニックの浮気を知り、婚約解消を願い出るが1年間の再教育を施すというニックの父親の言葉に願いを取り下げ、家出を決行した。
家庭教師という職を得て充実した日々を送るキャンディの前に父親が現れた。
連れ帰られ無理やりニックと結婚させられたキャンディだったが、子供もできてこれも人生だと思い直し、ニックの妻として人生を全うしようとする。
しかしある日ニックが浮気をしていることをしり、我慢の限界を迎えたキャンディは、友人の手を借りながら人生を切り開いていくのだった。
他サイトでも掲載しています。
R15を保険で追加しました。
表紙は写真AC様よりダウンロードしました。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
婚姻初日、「好きになることはない」と宣言された公爵家の姫は、英雄騎士の夫を翻弄する~夫は家庭内で私を見つめていますが~
扇 レンナ
恋愛
公爵令嬢のローゼリーンは1年前の戦にて、英雄となった騎士バーグフリートの元に嫁ぐこととなる。それは、彼が褒賞としてローゼリーンを望んだからだ。
公爵令嬢である以上に国王の姪っ子という立場を持つローゼリーンは、母譲りの美貌から『宝石姫』と呼ばれている。
はっきりと言って、全く釣り合わない結婚だ。それでも、王家の血を引く者として、ローゼリーンはバーグフリートの元に嫁ぐことに。
しかし、婚姻初日。晩餐の際に彼が告げたのは、予想もしていない言葉だった。
拗らせストーカータイプの英雄騎士(26)×『宝石姫』と名高い公爵令嬢(21)のすれ違いラブコメ。
▼掲載先→アルファポリス、小説家になろう、エブリスタ
竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える
たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー
その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。
そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!
処女ということを友達からバカにされ続けてきたけど、私はイケメン皇太子からの寵愛を受けて処女であることを保っているので問題ありません。
朱之ユク
恋愛
普通の女の子なら学園の高等部を卒業するまでには彼氏を作って処女を卒業すると言われているけれども、スカーレットは美人なのにずっと彼氏を作らずに処女を保ち続けてきた。それをスカーレットの美貌に嫉妬した友達たちはみんなでスカーレットが処女であることをバカにしていたけど、実はスカーレットは皇太子からの寵愛を受けていた18歳になるまで皇太子のための純潔を保っていただけだった。
いまさらその事実をしって、取り繕ってきてももう遅い。
スカーレットは溺愛皇太子と寵愛結婚をして幸せに暮らしていこうと思います。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる