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1 悪魔との契約
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しおりを挟む(お、俺の琴理?)
そんな扱いをしてくる人、琴理には一人も心当たりがない。
驚いて見上げると、一度も琴理を真っすぐに見てきたことのない顔が、真っすぐに琴理を見ていた。
「み、やあさひ様……?」
「琴理、無事か、何もないか」
「は、はい……」
宮旭日心護の鬼気迫る様子に押されて、琴理はこくりとうなずいた。
初めてまともに見る心護の容姿は、評判通り今風のイケメンだった。
鼻筋が通っていて顔の輪郭も小さく、全体的に清潔感がある。
そのとき、空中に浮いたままの男が、心護から距離を取った。
「宮旭日って、お前あれか? 退鬼師の」
男は退鬼師の存在も知っていたのか、そう言った。
そのために距離を取ったのかと、琴理の頭の中の冷静な部分が分析する。
「そう、宮旭日の人間だ。貴様はなんだ? 鬼ではないな?」
掴んでいた琴理の手を離して、背中にかばうように立つ心護。
男は両手を広げて肩をすくめてみせた。
「まーね。俺は悪魔ですよ、いわゆる。宮旭日はあくまで退鬼師だから、俺は範囲外だろ?」
そう言ってニヤッと笑う男を、心護は睨みつける。
「……そうだな。祓魔師(ふつまし)の性分でもある御門(みかど)や小路(こうじ)の者なら、お前も斬るだろうがな」
「怖いね。でも残念ながら、俺がその娘の用があったんじゃねーよ。俺がその娘に呼び出されたんだよ」
「……はっ?」
「その娘が、俺に叶えてほしい願いがあるんだと。ああ、詳しくは言えないから。これでも契約には厳しいんだよ、悪魔業界」
秘密だ、というように、口元に指を一本立てて、「しー」と声を出す男。
「琴理が……こいつを呼んだのか?」
心護に驚きの顔で問われ、琴理は息を呑んだ。
知られてしまった。仮にも退鬼師の家の娘が――しかも宗家に嫁入りする立場の娘が、悪魔なんかを呼び出したなんて知られたら――これがあれか! 愛理が言っていた婚約破棄の第一歩!
――だが、琴理の本来の目的はまったく別のところにある。
最近では婚約のことなんかどうでもいいと思っていたくらいだ。
どうする、なんと言うのが、いい?
「あの、わたし……」
「もしかして俺との婚約が嫌だったか? こんな怪しさ百点の輩(やから)に頼もうとまで追い詰めてしまっていたか?」
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