弱小流派の陰陽姫【完】

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
84 / 92
5 二人の過去

しおりを挟む

月音の近くにいるようになって緩和されたものの、煌自体に変化あったわけではないから、視えるし、月音から離れれば憑かれやすいのは変わらない。

「そうだね。一度体験してみるといい。合わなかったら別の方法を試す機会にもなる」

碧人がうなずいてくれたので、煌の今後の予定がひとつ加わった。

「わー! 小田切くんと滝行行けるー!」

月音が目に見えて、るんたるんたしている。

今にもスキップし始めそうな勢いだ。

しかし言っていることはかなりいかつい。可愛くない。

「月音。言っておくが滝行はデートじゃないからな? 中途半端な気持ちで臨んだら死ぬからな?」

「う、浮かれてません! 気合い入れてるだけですっ」

ふんす、と父に抗議する月音。

碧人は疑り深い目で娘を見ている。

そしてやり取りを見ていた煌、ひとつ思った。

(滝行って結構危ないんだ……。月音ちゃんが興奮のあまり滝に突っ込んでいかないように見てないと)

『月音係』と言われる煌の本領が発揮されていた。

それぞれの家への分かれ道に差し掛かって、煌は足を停めた。

「あの」

月音と碧人を正面に捉えると、煌が深く頭を下げた。

「小田切くん?」

「俺、視える体質だったけど、陰陽師とか全然わからないので、色々と教えてください」

「ああ、もちろん」

「初心者なのは私も一緒だから、一緒にがんばろうね!」

月音に言われて、煌は気持ちが引き締まった。

『一緒に』

そうだ。一緒にがんばるんだ。

これから、色々なことがあるだろう。

まず煌の家族に、許嫁になる承諾をもらわないといけないし、神崎の家に婿養子に入るための勉強も必要かもしれない。

考え込んでいると、ふと手が温かくなった。

自分の手を見やると、自分より一回り小さな手に包み込まれていた。

そのまま顔をあげると、やわらかい表情をした月音と目が合った。

煌の目線を受け止めて、にこっと微笑む。

「大丈夫だよ。小田切くんの守護霊、めっちゃ強いから」

「ありが――守護霊?」

突拍子もない元気づけに、間抜けな声が出た。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

異世界転生漫遊記

しょう
ファンタジー
ブラック企業で働いていた主人公は 体を壊し亡くなってしまった。 それを哀れんだ神の手によって 主人公は異世界に転生することに 前世の失敗を繰り返さないように 今度は自由に楽しく生きていこうと 決める 主人公が転生した世界は 魔物が闊歩する世界! それを知った主人公は幼い頃から 努力し続け、剣と魔法を習得する! 初めての作品です! よろしくお願いします! 感想よろしくお願いします!

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

こじらせ中年の深夜の異世界転生飯テロ探訪記

陰陽@2作品コミカライズと書籍化準備中
ファンタジー
※コミカライズ進行中。 なんか気が付いたら目の前に神様がいた。 異世界に転生させる相手を間違えたらしい。 元の世界に戻れないと謝罪を受けたが、 代わりにどんなものでも手に入るスキルと、 どんな食材かを理解するスキルと、 まだ見ぬレシピを知るスキルの、 3つの力を付与された。 うまい飯さえ食えればそれでいい。 なんか世界の危機らしいが、俺には関係ない。 今日も楽しくぼっち飯。 ──の筈が、飯にありつこうとする奴らが集まってきて、なんだか騒がしい。 やかましい。 食わせてやるから、黙って俺の飯を食え。 貰った体が、どうやら勇者様に与える筈のものだったことが分かってきたが、俺には戦う能力なんてないし、そのつもりもない。 前世同様、野菜を育てて、たまに狩猟をして、釣りを楽しんでのんびり暮らす。 最近は精霊の子株を我が子として、親バカ育児奮闘中。 更新頻度……深夜に突然うまいものが食いたくなったら。

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

最強無敗の少年は影を従え全てを制す

ユースケ
ファンタジー
不慮の事故により死んでしまった大学生のカズトは、異世界に転生した。 産まれ落ちた家は田舎に位置する辺境伯。 カズトもといリュートはその家系の長男として、日々貴族としての教養と常識を身に付けていく。 しかし彼の力は生まれながらにして最強。 そんな彼が巻き起こす騒動は、常識を越えたものばかりで……。

かわいいは正義(チート)でした!

孤子
ファンタジー
 ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。  手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!  親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

〈銀龍の愛し子〉は盲目王子を王座へ導く

山河 枝
キャラ文芸
【簡単あらすじ】周りから忌み嫌われる下女が、不遇な王子に力を与え、彼を王にする。 ★シリアス8:コミカル2 【詳細あらすじ】  50人もの侍女をクビにしてきた第三王子、雪晴。  次の侍女に任じられたのは、異能を隠して王城で働く洗濯女、水奈だった。  鱗があるために疎まれている水奈だが、盲目の雪晴のそばでは安心して過ごせるように。  みじめな生活を送る雪晴も、献身的な水奈に好意を抱く。  惹かれ合う日々の中、実は〈銀龍の愛し子〉である水奈が、雪晴の力を覚醒させていく。「王家の恥」と見下される雪晴を、王座へと導いていく。

処理中です...