弱小流派の陰陽姫【完】

桜月真澄

文字の大きさ
上 下
6 / 92
1 弱小流派の陰陽師

しおりを挟む

「そこで亡くなられた方の、飼い犬さんだね、この子。手を合わせてくれた小田切くんにお礼が言いたくてついてきちゃったって言ってる」

「月音ちゃんすげーな。霊体? と会話できるんだ」

「いや、むしろ私、会話しか出来ないの。本来の陰陽師ならこの子を成仏させるまでが仕事なんだけど、私そういうの苦手で……だから、はい」

と、月音は制服のポケットから紙切れを何枚も取り出した。

「何それ」

「符って言うんだけど、父様が作ったものなの」

長さは手のひらより長く、横幅は手のひらの半分ほどの大きさの紙には、それぞれ違う文様が書き込まれている。

煌にはまったく読めない。

それをずらっと見せる月音。

「私が妖異や異形と会話しか出来ないから、父様が作ったこれで対処してるの。この子には成仏してほしいから……これだ」

一枚抜き取った月音は、それを異形崩れの額のあたりに張り付ける。

するとぽっと符が光に変わって、異形崩れとともに消えていった。

「うわ……何度見てもすごいね……」

「本当ならここまで自分ひとりの力でできなくちゃだめなんだけどね」

そっと、月音は手を合わせる。

どうかあの子が、成仏しますように……。

「でも飼い主思いなわんこなのになんで肩が重いとか出たんだろ?」

「小田切くんが霊媒体質だから、あの子本体じゃなくてあの子についていたよくないものにあてられたんじゃないかな。あの子を送ったことでそれも散ったから、もう大丈夫だと思うけど……」

さらに言うなら、人間に害意がない霊体が必ずしも悪影響を及ぼさないわけではない。

今回は月音が口にした通りの理由の可能性が高いが、体質的に妖異や異形を集めやすい煌には伝えておいた方がいいだろうか……。

それとも、無駄に不安にさせてしまうだけだろうか……。

「それにしても小田切くん、今までよく大丈夫だったね?」

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

悪女の指南〜媚びるのをやめたら周囲の態度が変わりました

結城芙由奈 
恋愛
【何故我慢しなければならないのかしら?】 20歳の子爵家令嬢オリビエは母親の死と引き換えに生まれてきた。そのため父からは疎まれ、実の兄から憎まれている。義母からは無視され、異母妹からは馬鹿にされる日々。頼みの綱である婚約者も冷たい態度を取り、異母妹と惹かれ合っている。オリビエは少しでも受け入れてもらえるように媚を売っていたそんなある日悪女として名高い侯爵令嬢とふとしたことで知りあう。交流を深めていくうちに侯爵令嬢から諭され、自分の置かれた環境に疑問を抱くようになる。そこでオリビエは媚びるのをやめることにした。するとに周囲の環境が変化しはじめ―― ※他サイトでも投稿中

ソロ冒険者のぶらり旅~悠々自適とは無縁な日々~

にくなまず
ファンタジー
今年から冒険者生活を開始した主人公で【ソロ】と言う適正のノア(15才)。 その適正の為、戦闘・日々の行動を基本的に1人で行わなければなりません。 そこで元上級冒険者の両親と猛特訓を行い、チート級の戦闘力と数々のスキルを持つ事になります。 『悠々自適にぶらり旅』 を目指す″つもり″の彼でしたが、開始早々から波乱に満ちた冒険者生活が待っていました。

付与魔術師の成り上がり〜追放された付与魔術師は最強の冒険者となる。今更戻って来いと言われてももう遅い〜

平山和人
ファンタジー
Sランクパーティーに所属する付与魔術師のカイトは役立たずを理由にパーティーから追放される。 しかし、彼らは気づかなかった。カイトの付与魔法がパーティーを支えていたことに、パーティーのサポートをしたおかげでカイトが最強であることに。 追放されたカイトは美少女たちを集めて新たなパーティーを作り、カイトは最強の冒険者として世界中に名を轟かせていくことになる。 一方、カイトを追放したパーティーはカイトを失ったことで、没落の道をたどり、やがて解散することになる。

ダンジョン探索者に転職しました

みたこ
ファンタジー
新卒から勤めていた会社を退職した朝霧悠斗(あさぎり・ゆうと)が、ダンジョンを探索する『探索者』に転職して、ダンジョン探索をしながら、おいしいご飯と酒を楽しむ話です。

〈銀龍の愛し子〉は盲目王子を王座へ導く

山河 枝
キャラ文芸
【簡単あらすじ】周りから忌み嫌われる下女が、不遇な王子に力を与え、彼を王にする。 ★シリアス8:コミカル2 【詳細あらすじ】  50人もの侍女をクビにしてきた第三王子、雪晴。  次の侍女に任じられたのは、異能を隠して王城で働く洗濯女、水奈だった。  鱗があるために疎まれている水奈だが、盲目の雪晴のそばでは安心して過ごせるように。  みじめな生活を送る雪晴も、献身的な水奈に好意を抱く。  惹かれ合う日々の中、実は〈銀龍の愛し子〉である水奈が、雪晴の力を覚醒させていく。「王家の恥」と見下される雪晴を、王座へと導いていく。

かわいいは正義(チート)でした!

孤子
ファンタジー
 ある日、親友と浜辺で遊んでからの帰り道。ついていない一日が終わりを告げようとしていたその時に、親友が海へ転落。  手を掴んで助けようとした私も一緒に溺れ、意識を失った私たち。気が付くと、そこは全く見知らぬ浜辺だった。あたりを見渡せど親友は見つからず、不意に自分の姿を見ると、それはまごうことなきスライムだった!  親友とともにスライムとなった私が異世界で生きる物語。ここに開幕!(なんつって)

チートな転生幼女の無双生活 ~そこまで言うなら無双してあげようじゃないか~

ふゆ
ファンタジー
 私は死んだ。  はずだったんだけど、 「君は時空の帯から落ちてしまったんだ」  神様たちのミスでみんなと同じような輪廻転生ができなくなり、特別に記憶を持ったまま転生させてもらえることになった私、シエル。  なんと幼女になっちゃいました。  まだ転生もしないうちに神様と友達になるし、転生直後から神獣が付いたりと、チート万歳!  エーレスと呼ばれるこの世界で、シエルはどう生きるのか? *不定期更新になります *誤字脱字、ストーリー案があればぜひコメントしてください! *ところどころほのぼのしてます( ^ω^ ) *小説家になろう様にも投稿させていただいています

婚約破棄されなかった者たち

ましゅぺちーの
恋愛
とある学園にて、高位貴族の令息五人を虜にした一人の男爵令嬢がいた。 令息たちは全員が男爵令嬢に本気だったが、結局彼女が選んだのはその中で最も地位の高い第一王子だった。 第一王子は許嫁であった公爵令嬢との婚約を破棄し、男爵令嬢と結婚。 公爵令嬢は嫌がらせの罪を追及され修道院送りとなった。 一方、選ばれなかった四人は当然それぞれの婚約者と結婚することとなった。 その中の一人、侯爵令嬢のシェリルは早々に夫であるアーノルドから「愛することは無い」と宣言されてしまい……。 ヒロインがハッピーエンドを迎えたその後の話。

処理中です...