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元賢者はエルフの森で肉肉しい店を開いたら、エルフの王子が迫ってくる

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……こうして、魔王復活を食い止めた勇者一行は、世界中の人々に感謝され、その後を幸せに暮らしました。めでたしめでたし。

これが、この世界で吟遊詩人が唄う最新の叙情詩だ。勇者一行のメンバーは、定番の勇者、魔法戦士、聖女、魔法使い、賢者。勇者は、大陸一の王国の姫と結婚し、魔法戦士と聖女も結婚した。魔法使いは、魔王との最終決戦の前に立ち寄った故郷で、幼馴染みの少女にプロポーズし、見事、良い返事を勝ち取った。当然、故郷に帰っていった。結婚式もすぐに行われるだろう。勇者一行は、幸せになったのだ。

ただ、ひとり、売れ残りの賢者を除いて。

「えーと、そういうのはお断りしてます!」

世界に平和が戻り、古代の魔法を自在に操れる賢者イリスはあちこちの王国の王宮で引っ張りだこだった。なんとしても、王族と婚姻関係を結んでもらい、我が国の戦力になってほしい、という思惑だ。
人間扱いではなく、ここまでくると兵器だ。その点、さっさと結婚してしまった者たちは、しつこい勧誘を受けなくて済んだので、だいぶ賢いと言える。

今日もイリスは、イケメン第二王子からのプロポーズを華麗にきっぱり断って、飛ぶ鳥跡を濁さず、綺麗さっぱり城から逃げ出した。

しかし、そうはいってもいつまでも逃げているわけにはいかない。ずっと旅をし続けるにしても、拠点が必要だった。

「もう、あそこに逃げ込むしかない」

悲痛な面持ちで、イリスは呟いた。なるべく、できることなら、最悪の場合にならない限り、行きたくなかった場所に頼るしかないようだ。
なまじっか顔が知られてしまったせいで、各国の要人からマークされているため、おちおち気楽な旅もできない。
宿泊した宿屋の前に、王家の家紋入りの豪華な馬車が停車していたりするのだ。勝手に迎えに来られるのは怖い。

イリスは、故郷にあるエルフの森へと向かった。実家で生活すると、どこで聞きつけてきたのか、どこぞの王国の使者がやってきて、王宮に招待したがるので、実家にはちらっと顔を出すだけにした。

両親は健在で牧場を経営している。弟が後を継ぐと言っていて、今は立派な牧場経営主になるために修行中だ。
イリスは、勇者一行として稼いだ金の大半を実家に納めて、身軽にエルフの森へと向かった。

エルフはきわめて閉鎖的な種族である。魔王と戦うときも、勇者一行の傷を癒やし、数日の宿泊の許可はもらえたが、エルフの腕利きを仲間にすることはできなかった。人間の問題は人間でどうにかせよ、ということだった。
イリスは、小さい頃からエルフの森を遊び場とし、閉鎖的なエルフたちも、類い希な魔法の才能のあるイリスを適度に相手にしてくれていた。
そのおかげで、古代魔法の使い手に成長してしまったのだった。

エルフの森はいつ来ても神秘的だった。木々はいつも緑の葉をつけていて美しく、葉の一枚一枚が煌めいている。木材で作られた建物は、繊細で優美だ。
勝手知ったる場所であるイリスは、すれ違うエルフたちと挨拶を交わしながら、一件の家を目指した。
人間のイリスに、丁寧に古代魔法を教えた元凶の一人、エルフ族のニルスの住まいだ。

「ニルスいるんでしょ!開けてよ」

「さわぐな。わめくな。来ることは分かっていた」

エルフにしては珍しく、眉間に深くしわを寄せ、この世が終わったかのような表情をした青年が、玄関の扉を開けた。
そんな表情をしていても、エルフ。美しいのである。

「ニルス、協力して」

「お前のことだから、一緒に暮らそうと言ってくるのかと思っていた」

「いくらなんでもニルスと一緒に住む勇気はないよ」

イリスは、ニルスが気むずかしく、扱いにくいエルフであることは身にしみて知っている。これからずっとニルスと一緒に住むのは御免被りたい。

「中に入れ。茶ぐらいは入れる」

イリスは言葉に甘えて、ニルスの家にお邪魔した。

ニルスの家はきちんと整頓されていて、掃除も行き渡っている。几帳面な性格が反映されている家だ。ニルスは、魔法でお茶を淹れて、イリスにカップを渡した。
「私、店主になろうかと思って」

「何の話だ」

「エルフの森に住むから、飲食店経営して生活しようと思ってるの」

「何の店を作るつもりだ」

「肉料理専門店」

イリスは、この儚い容姿の持ち主であるエルフ族が野菜ばかり食べているわけではなく、むしろ肉が主食であることを知っている。エルフ達は、エルフの森の豊富な資源を利用して、家畜を飼育し肉を主食としているのである。
しかし、なぜか味付けは単調。塩を振るのみである。たしかに、地産地消なので塩を振るだけで旨いのはわかる。

だけど!イリスは、力一杯主張したい。焼けた肉に甘辛いタレをつけて食べるのも美味しいし、香辛料をたっぷり下味としてつけて、揚げるのも美味しい。人間だからこそ発達させた、肉料理の数々をエルフ族相手に振る舞えば、商売になるのでは無いか、と考えたのだ。

幸い、実家は牧場。牛を一頭買いして、調理すれば安く美味しい肉を提供できる。飲食店の売り上げの肝は、座席数の回転率だ。注文を取るのは部位と量だけにし、味付けは客にやってもらう。牛肉しか出さない。これで坪単価があがれば、儲けも出る。

「世俗的なことは分からないが、肉料理専門店とはよく考えたな。俺にも食わせてくれるなら、魔法で店を出してもいい」

「のった!」

イリスはニルスの、またとない申し出に深く考えずに頷いた。お店のイメージと、間取りなどをニルスに伝え、ニルスの土地に魔法で店舗を作り出した。

エルフの森に、初の牛肉料理専門店が出来た瞬間だった。



気難しいがお人好しエルフのニルスに魔法で、牛肉料理専門店を建ててもらったイリスであったが、すぐに開店というわけにはいかない。色々準備が必要である。
エルフの嗜好調査とお礼も兼ねて、イリスはニルスに手料理を振る舞うことにした。材料は、店舗の前に作られた畑から収穫することにする。

イリスは、「隕石なら簡単に降らせられます」という規格外の古代魔法の使い手だが生活に役立つ魔法はまったく使えない。唯一使えるのは、畑の作物の実りを早めること、美味しく育てることだけである。畑限定の魔法だ。山や林などの木々や草花には、魔法が効かない。

そこで、イリスは店舗の前の畑に唯一の生活に活用できる魔法を使うことにした。

「『貴方は美味しいトマトです!頑張って熟して下さいね』」

畑に植えられているトマトの苗に力一杯魔法をかける。トマトを応援している人にしか見えないが、立派な呪文だ。畑のトマトが花をつけ始めた。

この世界の人間は基本的に魔法を使うことができる。魔法でモンスターを撃退するなんて芸当のできるイリスのような人は稀で、大半の人は魔法でロウソクを灯すのにも苦労する。
『明かりがないと不便なんだ!ロウソクに火よ、灯ってくれ』もロウソクに火をつける呪文だし、『この世の火を司る精霊よ、俺の声を聞き届けよ!希望の光を灯せ』でもロウソクに火を灯すだけの呪文である。そのため、呪文を唱えなくても火がつけられるマッチが発明された。

そうこうしているうちに、トマトの花が萎れ、実がなってきた。イリスは変わらずトマトを励まし続けている。



なんとか、イリスは今日の夕飯の材料になりそうな程度に作物を収穫できた。
トマト、人参、大根、キャベツ、玉ねぎだ。どれも新鮮である。肉は実家に帰省した時に、解体した牛の肩肉をもらい、弟の魔法で冷凍したのでそれを使うことにする。具沢山のスープと、後はニルスから小麦粉とパン種をもらいパンでも焼けば上等だろう。
ホクホク顔で、イリスは店舗兼住居に戻っていった。

その姿をじっと見つめる影に気がつかないで。


ニルスが魔法で作ったキッチンは、大きな暖炉が備え付けられていた。オーブンも暖炉に備わっているし、鍋が置けるように編みも置かれている。その近くにはイリスの身長に合わせた台があり、キッチンとして申し分ない。
イリスはさっそく野菜の下処理を始めた。今日のメニューは、具沢山のトマトスープだ。玉ねぎを微塵切り、人参と大根はいちょう切り、キャベツは一口大に切る。トマトは櫛形の八つ切りに切る。にんにくは、ニルスに小麦粉をもらいに行った時についでにもらってきた。にんにくは微塵切りにする。牛肉の肩ロースの塊は、一口大に切り、塩と胡椒を振った。

次に、パンの製作に取り掛かる。酵母を起こして焼くのが一般的だが、時間がかかるので、パン種をニルスからもらってきた。小麦粉に、水とバター、パン種を入れ、均等につるっとした生地になるまで捏ねる。捏ね終わりの確認に、生地を少しだけちぎって両手の人差し指と親指で生地を伸ばす。薄く綺麗に伸びたので、生地の捏ねは充分のようだ。
四つに分けて、生地を丸く成形する。二次発酵させる時間は、40分程度。その間にオーブンの準備をする。

イリスの手つきは慣れたものだった。オーブンの天板に丸めたパンを並べて、温まったオーブンに入れる。
オーブンの鉄製の蓋を閉めて、焼きあがる間にスープを作る。
鍋にバターを一欠片入れて溶かし、玉ねぎとにんにくを入れる。火が入り始めると、にんにくの食欲をそそる匂いと、玉ねぎの甘い香りがキッチンに広がる。牛肩ロース、人参、大根の順に入れ、油が回ってきたらトマトを入れる。トマトにも油が回ったら水を入れて、塩を少々振る。
具材が柔らかくなるまで、煮込む。柔らかくなったところで、味見をして、少しの塩と胡椒を振り、最後にバターを一欠片落とす。
ちょうど、パンも焼けた。焼きたてパンの香ばしい香りがする。オーブンの扉を開けると、一層、香ばしい香りがした。
ニルスは、上等なパン種を確保しているようだ。

オーブンの天板の上には、丸くてきつね色に焼けたみるからにふわふわのパンがのっかっている。パンを網の上に移し、あら熱を取る。スープ皿を取り出してすぐに、盛り付けられるように準備をした。

イリスが、母屋に居るニルスを呼びに行くと、お客さんが来ていた。もちろん、エルフだ。ニルスと違って、正統派のエルフで、眉間に深すぎるしわも寄っていないし、常に世の中に絶望した表情もしていない。

「あ、お客さん来てるなら……」

さすがにイリスは遠慮しようかと思っていたら、ニルスのお客のエルフがぐいぐい寄ってきた。

「僕、人間に興味があるんだ。人間の料理食べてみたいんだけど、僕も一緒で良い?」

相手に意思を確認しているようで居て、すでに断られないと思っている自信のある声だ。

「ユリウス王子、こいつの料理はそこまで物珍しい者ではありません」

相変わらず眉間に深いしわを刻んだまま、ニルスが止めた。止められると余計に興味がわくのは、人間もエルフも同じで、ユリウス王子はかたくなに、イリスの食事の招待を受けたがった。

「どうぞ、王子も。質素な料理ですが」

イリスは長いものに巻かれた。人間、うまく生きていくためには妥協も必要だ。王子という単語は不吉だが、ユリウス王子はイリスに「兵器になれ」とは言っていないので、まだ、イリスのブラックリスト入りはしていない。

何が楽しいのか分からないが、ユリウスはにこにこ笑顔でイリスの案内を受けていた。その様子にニルスはため息をついて、後をついていった。
ニルスには、常にやっかい事がつきまとう。

イリスはスープを三人分盛り付け、パンを籠に入れてテーブルに運んだ。ユリウスは、興味津々で食べている。

イリスもスープを一口、口に運んだ。旨く出来ている。トマトの酸味と、タマネギの甘さがほどよく良い味を出している。牛肩ロースからも味がでているみたいで、こくのあるスープに仕上がっている。パンは、手に持つとふっくら柔らかなのが指先から伝わってくる。中を割って、パンのきめ細やかな生地がでてくる。一口口に入れれば、小麦の香ばしさと、甘さが口に広がる。

「おいしい」

王子が目を輝かせてスープを絶賛した。

「これって、そこの畑の具材でしょ?育ててたの君だよね?」

「ええ、そうですが」

王子にあの野菜に魔法をかけているところを見られていたのは、少しだけ、イリスには恥ずかしい。あまり精度の良くない魔法だからだ。

「君、魔法って得意なの?」

「いえ、その、私は古代魔法が得意で、魔法はあまり」

「じゃあ、あの魔法だけが使えるの?」

「そうなります」

イリスの答えに、ユリウスはにんまりと笑った。嫌な予感が、イリスの頭によぎる。

「君に興味がわいちゃった、あの大地の魔法は特殊な魔法なんだよ。それが使えるなんて、君のことよく調べたいなぁ」

イリスは、こいつもまたか、と思い警戒する。何かあったら逃げだそうとしているイリスに、ニルスも気がついた。

「君の体質、ぜったい不思議だって。どこかに聖痕があったりしないの?ね、今度、全身くまなく調べさせて」

ユリウスはぐいぐい身を乗り出して、イリスを説得しようとする。

「いや、ちょっとその関係にはまだ早いというか」

なぜ、異性のエルフに自分の全裸をさらさなければならないのだ、とイリスは思った。ここしか安全に住めそうなところは無いので、穏便に済ませたいところである。

「もうちょっと待てば良いの?どのくらい?百年?」

エルフは長寿なので、ちょっとは百年だ。イリスは、ちょっと待ってもらえばいいのか、と思った。

「ちょっと待っててください」

「わかった。死なないように魔法かけるね」

ユリウスが魔法をかける予備動作をし始めたので、イリスは飛び退いた。

「なんで逃げるの?」

「不死の魔法なんて困ります!」

いい加減、二人のやりとりが面倒になったニルスは、ユリウスの説得を始めた。

「ユリウス王子、人は裸を許す相手は、恋人か結婚相手と決まってます」

「エルフもそうだが」

「なら、おわかりですよね」

「……わかった」

ユリウスは、一旦引き下がった。助かった、とイリスが胸をなで下ろし、ニルスに感謝の言葉を言おうとして、ユリウスの言葉に遮られた。

「君が、僕を好きになれば解決する」

ユリウスは、イリスの両手をぐっと握りしめて言った。顔立ちの良さを最大限生かして、ユリウスは微笑んだ。イリスはこういう輩からのアプローチは散々受けていたので、ああ、いつものことか、とはいはい、と流して、食事の片付けを始めた。

「ね、僕のこと好きになった?」

キッチンでの片付けをしているイリスの後をついてまわり、飼い犬のようにイリスを覗き込むようにして、ユリウスは尋ねた。

「すぐに好きにはなりません」

「そうか」

しゅんと、叱られた犬みたいな表情で、それでもイリスの後をついて回った。人間のすることに興味があるのは本当のようだ。

「ニルス、エルフの恋愛観ってなんなの?」

「人間とそう変わらない。神話やおとぎ話にもあるだろう。エルフの女性と人間の男性の恋愛話が」

「逆パターンは無いのでは?男性は、年の取った女は嫌でしょ」

「エルフの魔法を使えば不老になる。心配は無い」

ニルスの回答に余計にイリスは不安になった。研究の興味対象として、不老の魔法をかけられる自分を想像したからだ。

「さて、ユリウス王子。遅くなりますので、お帰りを」

「そうだね。それじゃ、また。明日も会いに来るから」

ユリウスは驚くほどの素直さで、帰って行った。帰り際に、イリスの手にキスを落として。

「そう心配することも無い。ユリウス王子は、人間達と違って、お前を兵器扱いすることはない。単に、人間に興味があるだけだ」

「私の古代魔法を自在に使う力に気がついたんでは無くて?」

「畑の収穫物育てる魔法を気に入ったようだったが」

イリスは、王子との会話を反芻した。たしかに、古代魔法が使えることよりも、植物を育てる魔法の話ばかりしていた。
少しだけ、イリスは王子を見直した。






「おはよう。僕のこと好きになった?」

衝撃の出会いから、数ヶ月。毎日王子は、イリスに会いに来ていた。決まって、好きになったか聞きに来るのだ。相変わらず、体を調べたいとはいうが、無理強いはしてこなかった。

イリスのお店は順調だった。塩味しか食べてこなかったエルフの肉料理に、タレは革命的な味だったらしい。行列の出来る牛肉料理専門店になっていた。
珍しく、今日は店じまいをしてからユリウスが、イリスに会いに来ていた。朝もあったので、一日に二回会うのは今日が、初めてだ。

「ちょっとだけ、外、歩こう」

いつもは、朝、少しだけ近況を話して別れる関係なので、二人で出歩くのは初めてである。イリスはすっかり寒くなったので、革のコートを着てユリウスと並んで歩く。そんなイリスを、ユリウスは熱の宿った優しい目でみつめた。

「どこへ?」

「こっち」

ユリウスの先導で連れてこられたのは、エルフの森の中央にあるマナの木だ。この木があるので、エルフの森は豊かだと言われている。
マナの木に、エルフ達が何かを祈って帰って行く。いつもは見られない光景に、イリスが目を見張る。

「僕、来年も、再来年もできればずっと、君がいてくれたらいいと思うよ。そうしたら、僕の良さが分かって、君の体を調べ放題にできるし」

「まだ、早いわよ」

「知ってる。だから、僕のそばにずっと居て」

ユリウスは、懇願するように、熱いまなざしでイリスを見つめた。イリスは、熱心に見つめてくるユリウスの視線に答えるべきか、迷っていた。
ユリウスの事は嫌いでは無い。研究対象といいながら、優しく誠実に接してくれているユリウスは、他の兵器扱いしてきた人間の王子とは異なっていた。

「わかった」

イリスが頷くと、周囲からわっと歓声があがった。エルフたちが、口々に祝福をする。

「え?なに、この祝福」

「僕の愛を受け入れたんでしょ。マナの木の前で誓うとずっと二人は幸せになるの!」

「え?あれ、告白なの?」

ロマンチックな伝説のあるマナの木を選んで、告白をしたのにも関わらず、イリスにはまったく届いていないと知ると、ユリウスはうなだれた。

「あ……その……ユリウス王子のことは、嫌いじゃ、ないよ」

項垂れているのを、慰めたいと思う程度にイリスは、ユリウスにほだされていた。
ユリウスは、涙目になりつつもイリスの手を引いて、歩き出した。申し訳なく思うイリスは、そのままユリウスについていく。

「ここ、なんだかわかる?」

ちょっとだけ不機嫌なユリウスに言われて、辺りを見回すが、イリスには検討がつかない。エルフの森と言われているだけあって、周囲は木々に囲まれている。連れてこられたのも、木の下だった。

「こっちに立って」

ユリウスに言われるがまま、イリスは木の下に立った。イリスは、上を見上げてよくエルフの森に生えている木であることを確認した。枝になにか仕掛けられているのか、と警戒もしたが、何も無い。丸い葉っぱの塊のような物がぶら下がっているだけだ。

「宿り木の下でキスしよう」

ユリウスは、イリスに近寄って耳元で囁くと彼女の頬に唇を寄せた。

あ、あれは宿り木……!

イリスは、ちゃんと確認しなかったが、丸い葉っぱの塊のような物は、宿り木である。宿り木の下でキスをすると永遠に幸せになれるという「人間」の伝説をユリウスは、実行したのだ。

「僕の気持ち全然届いてないみたいだったから、今度から、ぐいぐい行くね。そして、はやく僕に体を調べさせてね」

「え?ちょっと、まだ、早いかな」

イリスは、キスをされた頬を右手で押さえながら、答えた。ほてる顔を、ユリウスに見られ、嬉しそうに彼が、にんまりと笑っていた。


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みんなの感想(1件)

マナ
2020.12.28 マナ

物珍しい者→珍しい物

解除

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