上 下
28 / 30
緑の紅玉

28.宝石の正体について

しおりを挟む
「その気持ち悪いのは何?」
 
 あまりの気持ち悪さに私は両手をスカートの腿の辺りに擦り付ける。マリアが右の眉を高くあげて意味ありげにこちらを見ている。
 
 あ、分かった。
 
「表に出てきてはいけない幻想の品物ってこと?」
 
「そうね。もうちょっとよく調べてみる必要があるけれど、こんなものどこから持ってきたのかしら」
 
 マリアは気味悪くないのか、机の引き出しからルーペを取り出して宝石を観察している。表に裏に角度を色々変えてじっくりと念入りに見ていた。
 
「それ、何なの」
 
「詳細なことはわからないけれど、どういったものに利用するのかということなら答えられるわ。タリスマンにするために使うの」
 
 タリスマンとは魔術的なお守りでマリアも依頼されて作ることがあるようだ。最もこんなふうに不気味な石を使って作ることは最近はしていないと言っていた。
 最近……?と気になることをマリアは言っていたが、ここで深く考えると闇の底に突っ込んでいきそうなのでやめておくことにした。
 
「これが何でできているか調べて欲しいんだけど、できそう?」
 
 一人用のソファに腰掛けているジェームズにマリアはペリドットを渡した。ジェームズも気持ち悪がらず受け取っている。
 気味悪くないの?
 
「これだけ立派な物が無くなったらどこかで話題になっていそうな物だが」
 
 ジェームズは先ほどの私と同じようにペリドットを太陽の光に透かしてみている。
 
「中に入っているのはエルフかニンフか?」
 
「ニンフ……と言いたいところ。そこらへんも詳しい人に調査してほしいの」
 
 何でも知っていそうなマリアでも知らないことがあるようだ。知らないというより確証が得られないって感じかな。
 
「それはこちらMI6で調べるとしよう。それでは失礼する」
 
 ジェームズは来た時と同じように一礼して帰っていった。先ほどフラットにやって来るなりマリアが件のペリドットを渡して話をしたのでジェームズの要件は何も聞いていない。元々ジェームズが用があってこちらに来るとマリアが言っていたはず。

「ジェームズの用件を聞かなくてよかったの?」
 
「ジェームズはクリスマスプレゼントの需要を確認しに来ただけよ」
 
「何も聞かれてないけど?」
 
「十分調べられたから、尋ねる必要がなかったんでしょ」
 
 え? えっ、どういうこと?
 
 私の頭の中が疑問符で埋まりそうだ。誰にも何も聞いてないけれどクリスマスプレゼントの需要が分かったの?
 ジェームズってエスパーとか心の中を読んだりとかそういう力があったりするとか。
 
「ジェームズは、エスパーじゃないわ。ドラゴン族よ」
 
 マリアこそ、私の心の中を読んでいるみたい!



 調査結果はすぐに出た。というか、マリアが強引に出させた。明日の夜はクリスマスパーティーだし、週末は日本へ行く。事件解決に割り当てる時間がいつもより少ないのだ。
 マリアの厳しい取り立ての犠牲者になったのは、正真正銘、秘密情報部の職員であるレイ・ラッセル・キューザックだ。
 秘密情報部の本部ではなくレイのフラットへ押しかけた。彼は、こういう調査には向いていて、ジェームズが依頼するならここだろうとマリアは当たりをつけてやってきたのだ。
 レイは綺麗好きなのだろう。掃除が行き届いて整理整頓された部屋にパソコンとモニタが何台も並べられている。最初は嫌がっていたのに、マリアの口八丁に踊らされて休暇中のレイは、あの妖精入りの宝石を分析している。
 
「よくこんな物見つけましたね」
 
 天然パーマなのかふわふわの黒髪をかき上げながらレイは言った。青い瞳に髪色と同じ黒縁の眼鏡。インテリっぽい。
 
「七面鳥の体内から出てきたの。クリスマスプレゼントよ」
 
 気の利いたジョークだと思ったのか、レイは笑ったが私もマリアも真顔だったのですぐに笑みを引っ込める。
 
「本当に?」
 
「本当。オーブンで丸焼きしようとした七面鳥から出てきた」
 
「すぐにその肉屋を捕まえたほうがいいかもしれないですね」
 
 レイはモニタに映し出した宝石の分析結果を指した。
 
「宝石のように見える部分は、大半が樹脂でできています。問題は、中身。これは本物ですよ」
 
 あの宝石の中の人らしきモノについて、地球上のあらゆる動物の骨格の特徴と一致させようとしたがどれも一致しなかった。かろうじて、人の骨格に近い。もし、人が五センチぐらいの大きさになれば、骨格が一致するだろうと思われた。
 
「よくできたミニチュアならいいんですが。こっちの資料を見てください」
 
 レイがパソコンを操作して、画像付きのデータを表示させる。そこには、宝石の中にいた人とよく似た特徴を持つ人らしき者の画像があった。
 
「ニンフのデータと一致」
 
 幻想動物と言われる「現実には存在しない生き物たち」の骨格や生態、特徴などをデータベースで秘密情報部で管理している。レイはそのデータにアクセスして、宝石の中身の人物と骨格や特徴の共通点を分析したのだ。
 
「誰がやったか知りませんが、ニンフを捕まえて樹脂の中に入れて固めるなんて悪趣味です」
 
「え? 中に入れて固めたの?」
 
 思わず声を上げてしまった。「虫入り琥珀」みたいにして自然に作られた物かと思っていたら全然違った!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

失踪した悪役令嬢の奇妙な置き土産

柚木崎 史乃
ミステリー
『探偵侯爵』の二つ名を持つギルフォードは、その優れた推理力で数々の難事件を解決してきた。 そんなギルフォードのもとに、従姉の伯爵令嬢・エルシーが失踪したという知らせが舞い込んでくる。 エルシーは、一度は婚約者に婚約を破棄されたものの、諸事情で呼び戻され復縁・結婚したという特殊な経歴を持つ女性だ。 そして、後日。彼女の夫から失踪事件についての調査依頼を受けたギルフォードは、邸の庭で謎の人形を複数発見する。 怪訝に思いつつも調査を進めた結果、ギルフォードはある『真相』にたどり着くが──。 悪役令嬢の従弟である若き侯爵ギルフォードが謎解きに奮闘する、ゴシックファンタジーミステリー。

ペルソナ・ハイスクール

回転饅頭。
ミステリー
私立加々谷橋高校 市内有数の進学校であるその学校は、かつてイジメによる自殺者が出ていた。 組織的なイジメを行う加害者グループ 真相を探る被害者保護者達 真相を揉み消そうとする教師グループ 進学校に潜む闇を巡る三つ巴の戦いが始まる。

壁の花は謎を解く

しぎ
ミステリー
パーティ会場の隅で壁の花となった令嬢。彼女に話しかけた青年は次々と風変わりな問題を出し始めた… ウミガメのスープ風謎解きです。

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

カフェ・シュガーパインの事件簿

山いい奈
ミステリー
大阪長居の住宅街に佇むカフェ・シュガーパイン。 個性豊かな兄姉弟が営むこのカフェには穏やかな時間が流れる。 だが兄姉弟それぞれの持ち前の好奇心やちょっとした特殊能力が、巻き込まれる事件を解決に導くのだった。

自殺のち他殺

大北 猫草
ミステリー
【首吊り自殺した女性が刺殺体で見つかった!?】 モデルをしている花山香が、失踪から一ヶ月後に刺殺体で見つかった。 容疑者として逮捕された田中満は、花山香と交際していたと供述する。 また、彼女は首を吊って自殺をしていたとも主張しており、殺害に関しては否認していた。 不可解な状況はいったいどうして生まれたのか? 会社の後輩で田中に恋心を寄せる三船京子、取調べを行う刑事の草野周作を巻き込みながら事件は意外な結末を迎える。

魔女の虚像

睦月
ミステリー
大学生の星井優は、ある日下北沢で小さな出版社を経営しているという女性に声をかけられる。 彼女に頼まれて、星井は13年前に裕福な一家が焼死した事件を調べることに。 事件の起こった村で、当時働いていたというメイドの日記を入手する星井だが、そこで知ったのは思いもかけない事実だった。 ●エブリスタにも掲載しています

影蝕の虚塔 - かげむしばみのきょとう -

葉羽
ミステリー
孤島に建つ天文台廃墟「虚塔」で相次ぐ怪死事件。被害者たちは皆一様に、存在しない「何か」に怯え、精神を蝕まれて死に至ったという。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に島を訪れ、事件の謎に挑む。だが、彼らを待ち受けていたのは、常識を覆す恐るべき真実だった。歪んだ視界、錯綜する時間、そして影のように忍び寄る「異形」の恐怖。葉羽は、科学と論理を武器に、目に見えない迷宮からの脱出を試みる。果たして彼は、虚塔に潜む戦慄の謎を解き明かし、彩由美を守り抜くことができるのか? 真実の扉が開かれた時、予測不能のホラーが読者を襲う。

処理中です...