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緑の紅玉
25.パーティー前夜
しおりを挟むロンドンは11月に入ると、クリスマス一色になる。ショーウィンドウも、ショッピングビルもクリスマス飾りに彩られ、一年で一番華やかになる。
今年のクリスマスは、日本へ帰ろうかと思っていると仕事帰りにスミスさんからクリスマスの予定を聞かれた。
「日本に帰ろうかと思っています」
「そうなの。丁度良かったわ。マリアと一緒に日本へ帰るのね。私はクリスマスの時期はロンドンを留守にするから。貴女を一人で残すのも危ないし、どうしようかと思っていたの」
「スミスさんは、どちらに?」
「ロサンゼルスよ。娘が居るの。今年は孫も生まれたから楽しみだわ。そう、だから少し早めにみんなでクリスマスパーティーをしようと思うの」
スミスさんとは、階下で別れて私へ二階の共有スペースへ向かった。いつもなら、一人用のカウチか三人座りのソファでぐうたらしているミトンがいるはずだったが、今日は違った。
圧倒的美少年エーミルが一人用のカウチに座り、三人座りのソファでミトンが毛を逆立ててエーミルに威嚇をしていた。
エーミルは、他に見たことが無いほどの美少年だ。豪奢な金髪に透き通るような白い肌、意志の強そうな眉に、アメジスト色の瞳をキラキラ光らせている。細身なのに筋肉質な体型で、名門校の制服を着ていた。それがまた、本当によく似合っているのだ。長い足を組んで座っているのがとても絵になる。猫を挑発しているので無ければ。
対して、全身の毛を逆立てているのは、前足、後ろ足の先だけが白い黒猫ミトンだ。マリアの飼い猫だが本当の姿は使い魔らしい。人語を話す賢いネコチャンだ。
「何度も言うが、マリアは俺の第一夫人だ」
ミトンが威嚇しながら言った。ミトンは、マリアのことを第一夫人と思っている。マリア本人がどう思っているか、私は知らない。
「黙って聞いていれば。マリアは僕の花嫁だ。当たり前だろう。使い魔と婚姻する魔女がどこにいる。ドラゴン族である僕の花嫁に相応しい」
どうやら、マリアを巡って争いをしているようだ。「エメラルドの習作」事件の時は二人で話す時間も無かったようだけれど、今日、鉢合わせして揉めているみたい。
睨み合っている一人と一匹を横目に、ミトンの隣に座る。ぽんぽんと膝を叩いて、ミトンを自分の膝の上に座らせようとするが、ミトンに鼻で笑われた。
――か……かわいく……か……可愛い。
鼻で笑っていようと、ミトンは美猫である。私も含めて四人の妻を持つハーレムを形成している猫だけのことはある。
多少、冷たくされても憎めないのがミトンだ。
「帰ってきたかナオ。さっそく買い物に行け。マリアの手伝いをするんだ」
テーブルの上に乗ったメモをエーミルは顎で指した。
「これ、エーミルが頼まれたんじゃないの?」
「外は寒い」
「エーミルが行ったら、マリアが喜ぶと思うけど」
私はテーブルの上に置かれたメモを手に取った。内容は、七面鳥一匹に、にんにく、セロリなどの香味野菜などだ。完全にクリスマスディナーの材料だ。
「パーティーは明日だ。サリーも張り切っているから、ごちそうがでてくるだろう」
スミスさんの事を「サリー」と名前を呼ぶのはミトンだけである。ミトンの第二夫人はスミスさんなのだ。スミスさんは、良い人オーラがでているのでミトンも安心して甘えているようである。よくミトンがブラッシングしてもらっているのをみかける。私には一度もブラッシングさせてくれたことないのに。
「お前も付いてこい。僕、一人じゃ買いに行けない」
以前は、誇りが高すぎるエーミルだったが、最近はちょっと丸くなって他人を頼ることを知ったようだ。ドラゴン族だし、人間の振りをして学校に通っているが寮生活なので人間の習慣が分からないことが多々あるみたいだ。
私は一つ返事で、エーミルと買い物へ行くことにした。
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