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エメラルドの習作
1.世界で一番ツイてない日
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「今すぐ出てってくれないか」
私は一年一緒に住んだ彼氏から、まさに今、家から追い出されようとしている。荷物をまとめる時間さえくれない。
「荷物ぐらいまとめさせてくれたっていいでしょう」
「早くしろ!もうすぐエリーが来る」
「元はといえば、ビルがいけないんでしょ?」
「俺とエリーは真実の愛で結ばれたんだ。エリーは俺の子を妊娠している。お前が出て行くのが正論だろう」
「人はそれを浮気っていうの!」
「お前みたいな、気持ち悪い女に本気になると思っていたのか!黄色い猿が!!」
私は荷物を鞄に詰めている手を止めて、思いっきりビルの頬を張り飛ばした。日本人を侮辱する差別用語を口に出すような男と私は付き合っていたのか。
「あんたが口説いて来たんじゃ無いの」
今思えば、日本人の女の体に興味があっただけだったんだろう。私の「見えないモノが見えてしまう」コンプレックスに対して、出会ってから別れるまで、一度も理解を示してくれたことが無かった。
「何が、妖精や幽霊が見えるだ、頭おかしいだろ!さっさと出て行け!!天使のようなエリーには、お前みたいな醜い奴を会わせるわけにはいかないっ」
本当に身近な物しか旅行鞄に詰めることしかできなかったが、この辺りが限界だろう。この男そろそろ私に暴力を振るってきそうだ。
私は、二人で暮らしたフラットを転げるようにして飛び出した。あまりに急いでいたからか、フラットの廊下で、一人の男性と正面衝突しそうになった。
とっさに謝って、私はフラットから逃げ出した。
あの男と、二人で一緒に暮らすと最初にフラットを見たときは、この人と結婚するかも、と思ったものだったが……。
とにかく、今日の泊まる場所を確保しなくちゃ。今からホテル……といってもロンドン市内はホテルも高いし、今後のことを考えるとなるべくホテル暮らしは避けたい。
一晩泊めてくれそうな友人を探すしか無いか。
●○●○
「ナオ、まだシェアメイト探してる?」
派遣の仕事が急遽休みになって、暇な時間をどう過ごそうかとリージェンツ・パークの木陰で芝生の上に座って人の流れを見ていた。
私が元彼のフラットを飛び出したときに、泊めてくれた同僚のリタがわざわざ私に会いに来てくれた。
「探してる。いい人いるの?」
「いい人……とは言い難いのだけれど……その……ナオはシェアメイトなかなか決まらないみたいだし……日本人は、寛容だから、きっと……うまくいくと思って」
リタはだいぶ言葉を選びながら言った。そんなに言いよどむ人物ってどんな人なんだろう。
リタは、せっかちな所があるけれど人をあまり悪く言うような人では無い。栗色の髪の毛はふわふわっとしていて、丸顔は愛嬌があるし、いつも優しい笑顔を浮かべていて、全身で「いい人!」というオーラがにじみ出ている。
そんなリタを困らせる相手って、相当ヤバイ人なんじゃ……。
「やっぱやめ……」
「さ、気の変わらないうちに行きましょう」
リタは私を立ち上がらせると、やや強引に連れ出した。
え?ちょっと……かなり不安なんだけど。
私は一年一緒に住んだ彼氏から、まさに今、家から追い出されようとしている。荷物をまとめる時間さえくれない。
「荷物ぐらいまとめさせてくれたっていいでしょう」
「早くしろ!もうすぐエリーが来る」
「元はといえば、ビルがいけないんでしょ?」
「俺とエリーは真実の愛で結ばれたんだ。エリーは俺の子を妊娠している。お前が出て行くのが正論だろう」
「人はそれを浮気っていうの!」
「お前みたいな、気持ち悪い女に本気になると思っていたのか!黄色い猿が!!」
私は荷物を鞄に詰めている手を止めて、思いっきりビルの頬を張り飛ばした。日本人を侮辱する差別用語を口に出すような男と私は付き合っていたのか。
「あんたが口説いて来たんじゃ無いの」
今思えば、日本人の女の体に興味があっただけだったんだろう。私の「見えないモノが見えてしまう」コンプレックスに対して、出会ってから別れるまで、一度も理解を示してくれたことが無かった。
「何が、妖精や幽霊が見えるだ、頭おかしいだろ!さっさと出て行け!!天使のようなエリーには、お前みたいな醜い奴を会わせるわけにはいかないっ」
本当に身近な物しか旅行鞄に詰めることしかできなかったが、この辺りが限界だろう。この男そろそろ私に暴力を振るってきそうだ。
私は、二人で暮らしたフラットを転げるようにして飛び出した。あまりに急いでいたからか、フラットの廊下で、一人の男性と正面衝突しそうになった。
とっさに謝って、私はフラットから逃げ出した。
あの男と、二人で一緒に暮らすと最初にフラットを見たときは、この人と結婚するかも、と思ったものだったが……。
とにかく、今日の泊まる場所を確保しなくちゃ。今からホテル……といってもロンドン市内はホテルも高いし、今後のことを考えるとなるべくホテル暮らしは避けたい。
一晩泊めてくれそうな友人を探すしか無いか。
●○●○
「ナオ、まだシェアメイト探してる?」
派遣の仕事が急遽休みになって、暇な時間をどう過ごそうかとリージェンツ・パークの木陰で芝生の上に座って人の流れを見ていた。
私が元彼のフラットを飛び出したときに、泊めてくれた同僚のリタがわざわざ私に会いに来てくれた。
「探してる。いい人いるの?」
「いい人……とは言い難いのだけれど……その……ナオはシェアメイトなかなか決まらないみたいだし……日本人は、寛容だから、きっと……うまくいくと思って」
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そんなリタを困らせる相手って、相当ヤバイ人なんじゃ……。
「やっぱやめ……」
「さ、気の変わらないうちに行きましょう」
リタは私を立ち上がらせると、やや強引に連れ出した。
え?ちょっと……かなり不安なんだけど。
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