16 / 17
8—3
しおりを挟む
ハッと気が付いたログナがその場から跳ね起きた。
「ここは!?」
辺りを見回すとそこは丸太小屋の前で、側には沈黙したままの魔法陣が敷かれている。周りには草原が果てしなく広がり、ピンク色のメルヘンな羊の姿は無い。どうやらスタート地点へ戻されたらしい。
近くで寝ていた二人を起こし、先程の場所まで歩きながら状況を整理する。
「これは強制的に眠らされるやつだ!」
「マジか……じゃぁやっぱりあれが夢羊だな」
「図鑑にも催眠の魔術を使うってあった。多分眠ったらゲームオーバーでスタート地点に戻されるんだ」
「なんてこった! どうすりゃいいんだよ!!」
「とにかく眠らされる前にあれを何とかしないと……」
柵の側、その奥に群をなすメルヘンな羊を三人が見据える。
この状態で眠くなる事はないから、恐らく夢羊が柵を越えてくると魔術が発動するのだろう。それさえ阻止する事が出来れば……。
最初の一頭が柵を越えて来ようかというタイミングで、クラインとキースが得物を構えた。
「襲って来る気配ねぇし、一回攻撃してみるか!!」
キースが地を蹴ると、体勢を低くしたまま一頭目の羊に肉薄した。煌めいた双剣が羊の体毛目掛けて二筋の光の線を作る。が、ダメージどころか傷もつけられなかった。ふわふわの羊毛が斬撃を全て無効化してしまっている。
越えて来た二頭目を、今度はクラインの槍が殴打する。が、衝撃は体毛によって吸収されてしまうのか、ダメージは全く無いようだ。
三頭目をログナの放った矢が貫いた。かに思えたが、頭に当たるかという寸前に全身を体毛で覆い、頭を守られてしまった。矢は体に刺さったように見えているが、実際は毛の部分で止まっているのだろう。
打撃も斬撃も効かないとはあったが、矢も効かないとは。本当にどうしようと二人を見れば、案の定というべきか、既に眠らされている。
そちらに一瞬気を取られたログナに、矢が刺さったままの羊が突進して来た。
「うわあ!!」
そうしてログナも再び別の意味で眠らされてしまった。
「気絶もアウトっぽい……」
とりあえず三人で大きな溜め息を吐き出す。
攻撃が効かない。柵を越えられたら発動する魔術。突破口が全くわからない。もう既にお手上げだ。
海の家よりも断然ムズイしキツい。これが本当にEランクかよと、悪態をついてしまいたくなる。
とにかく寝たら駄目なのは分かった。ならば寝ずに済む方法を考える事にする。
三度目は一人ずつ向かってみる事にした。最初に行ったのはキースだ。ログナとクラインの二人は、ログナが魔眼で狙える位置で待機する事にしたのだ。
「駄目だ。一人だとそもそも羊が現れない」
念の為ログナとクラインも交代で一人で柵まで進んでみたが、結果はキースと一緒だった。
いい作戦だと思ったのだが、ここが迷宮でパーティでの攻略で訪れているとなると、そういった小細工は通用しないようだ。
ならば今度は羊を見ないようにする作戦で近づいてみた。催眠の魔術の発動条件が夢羊が柵を越える事ならば、それを視界に入れなければいいと考えたのだ。が、やはり無謀な作戦だったようで、タックルからの気絶で結局振り出しに戻ってしまった。
今度はとにかく体を動かしまくって眠気を吹き飛ばす作戦で行ってみる。
もうやけになったと言われても仕方の無い作戦名だったが、とにかく効かないと分かっても三人で攻撃しまくった。10匹くらいまでは耐えられたが、やはり夢羊が柵を越え出すと無理だった。
「どーすりゃいんだよ!! こんなもん完全に無理だろ!」
「羊数えてよく眠れたのは初めてだな」
「そんな呑気な事言ってる場合かよ!?」
「いっその事三人で一匹捕まえて、毛刈り取ってみるか? 羊毛だけなら手に入るだろう」
「大群にタックルされて終わりだよ!!」
キースとクラインがいつもの調子で軽口を叩き合っている間、ログナはじっと考え込んでいた。何かが頭の隅でずっと引っ掛かっている。
「あーあ。せめてあの羊がギルマスのおっさんとかだったらなぁ」
「そんなもん面白すぎて寝るどころでなくなるな」
「だっろ?」
「なぁ……攻略法って、もしかしてそれなんじゃないか?」
「「え?」」
そもそも『塔』と言いながら『サイロ』だったのも不思議だった。そこからもうこの迷宮の罠に嵌っていたのだとしたら。
サイロ=牧場と、思考を誘導するものだったとしたら。丸太小屋も、納屋に置かれた農機具も。
全てが『羊』を連想させる為の布石だったとしたら。
「そもそもここは既に夢の中なんじゃないかな?」
夢とは寝て見るものだ。ここが既に夢の世界なら、外からやってくる冒険者は異物でしかない。だから夢を見させる為に眠らせる。
夢羊がその誘引剤だとするならば、その誘引剤自体を変えてしまえばいいのではなかろうか。
「仮説だけどな」
「でも、『変える』って、一体どうやって?」
「変えようねぇんじゃ……」
「多分大丈夫……ここが夢の世界ならね!」
最初にここに来た時、既に牧場だと思い込んでいた。牧場にいるのなんて牛や羊、鶏や馬なんかを連想する。
そもそも目的が羊だったし、案の定羊を見て『この牧場にいるのは羊なんだ』と、無意識のうちに思わされた。
これがこの迷宮の、いやここのボスの思惑だったのだ。羊を連想さえさせてしまえば、あとは催眠の魔術でのこのこやってきた冒険者を眠らせ、自分まで辿り着けなくしてしまえばいいだけなのだから。
「次目覚めた最初の奴が『ギルマス』と叫ぶ。それでオレ達全員の意識をギルマス一択に。もし駄目なら一旦迷宮を出て入り直す」
「分かった」
「よっしゃぁ!! 今度こそやってやんぜ!!!」
そうして三人は、もう何度目か分からない眠りへとついたのだった。
「ここは!?」
辺りを見回すとそこは丸太小屋の前で、側には沈黙したままの魔法陣が敷かれている。周りには草原が果てしなく広がり、ピンク色のメルヘンな羊の姿は無い。どうやらスタート地点へ戻されたらしい。
近くで寝ていた二人を起こし、先程の場所まで歩きながら状況を整理する。
「これは強制的に眠らされるやつだ!」
「マジか……じゃぁやっぱりあれが夢羊だな」
「図鑑にも催眠の魔術を使うってあった。多分眠ったらゲームオーバーでスタート地点に戻されるんだ」
「なんてこった! どうすりゃいいんだよ!!」
「とにかく眠らされる前にあれを何とかしないと……」
柵の側、その奥に群をなすメルヘンな羊を三人が見据える。
この状態で眠くなる事はないから、恐らく夢羊が柵を越えてくると魔術が発動するのだろう。それさえ阻止する事が出来れば……。
最初の一頭が柵を越えて来ようかというタイミングで、クラインとキースが得物を構えた。
「襲って来る気配ねぇし、一回攻撃してみるか!!」
キースが地を蹴ると、体勢を低くしたまま一頭目の羊に肉薄した。煌めいた双剣が羊の体毛目掛けて二筋の光の線を作る。が、ダメージどころか傷もつけられなかった。ふわふわの羊毛が斬撃を全て無効化してしまっている。
越えて来た二頭目を、今度はクラインの槍が殴打する。が、衝撃は体毛によって吸収されてしまうのか、ダメージは全く無いようだ。
三頭目をログナの放った矢が貫いた。かに思えたが、頭に当たるかという寸前に全身を体毛で覆い、頭を守られてしまった。矢は体に刺さったように見えているが、実際は毛の部分で止まっているのだろう。
打撃も斬撃も効かないとはあったが、矢も効かないとは。本当にどうしようと二人を見れば、案の定というべきか、既に眠らされている。
そちらに一瞬気を取られたログナに、矢が刺さったままの羊が突進して来た。
「うわあ!!」
そうしてログナも再び別の意味で眠らされてしまった。
「気絶もアウトっぽい……」
とりあえず三人で大きな溜め息を吐き出す。
攻撃が効かない。柵を越えられたら発動する魔術。突破口が全くわからない。もう既にお手上げだ。
海の家よりも断然ムズイしキツい。これが本当にEランクかよと、悪態をついてしまいたくなる。
とにかく寝たら駄目なのは分かった。ならば寝ずに済む方法を考える事にする。
三度目は一人ずつ向かってみる事にした。最初に行ったのはキースだ。ログナとクラインの二人は、ログナが魔眼で狙える位置で待機する事にしたのだ。
「駄目だ。一人だとそもそも羊が現れない」
念の為ログナとクラインも交代で一人で柵まで進んでみたが、結果はキースと一緒だった。
いい作戦だと思ったのだが、ここが迷宮でパーティでの攻略で訪れているとなると、そういった小細工は通用しないようだ。
ならば今度は羊を見ないようにする作戦で近づいてみた。催眠の魔術の発動条件が夢羊が柵を越える事ならば、それを視界に入れなければいいと考えたのだ。が、やはり無謀な作戦だったようで、タックルからの気絶で結局振り出しに戻ってしまった。
今度はとにかく体を動かしまくって眠気を吹き飛ばす作戦で行ってみる。
もうやけになったと言われても仕方の無い作戦名だったが、とにかく効かないと分かっても三人で攻撃しまくった。10匹くらいまでは耐えられたが、やはり夢羊が柵を越え出すと無理だった。
「どーすりゃいんだよ!! こんなもん完全に無理だろ!」
「羊数えてよく眠れたのは初めてだな」
「そんな呑気な事言ってる場合かよ!?」
「いっその事三人で一匹捕まえて、毛刈り取ってみるか? 羊毛だけなら手に入るだろう」
「大群にタックルされて終わりだよ!!」
キースとクラインがいつもの調子で軽口を叩き合っている間、ログナはじっと考え込んでいた。何かが頭の隅でずっと引っ掛かっている。
「あーあ。せめてあの羊がギルマスのおっさんとかだったらなぁ」
「そんなもん面白すぎて寝るどころでなくなるな」
「だっろ?」
「なぁ……攻略法って、もしかしてそれなんじゃないか?」
「「え?」」
そもそも『塔』と言いながら『サイロ』だったのも不思議だった。そこからもうこの迷宮の罠に嵌っていたのだとしたら。
サイロ=牧場と、思考を誘導するものだったとしたら。丸太小屋も、納屋に置かれた農機具も。
全てが『羊』を連想させる為の布石だったとしたら。
「そもそもここは既に夢の中なんじゃないかな?」
夢とは寝て見るものだ。ここが既に夢の世界なら、外からやってくる冒険者は異物でしかない。だから夢を見させる為に眠らせる。
夢羊がその誘引剤だとするならば、その誘引剤自体を変えてしまえばいいのではなかろうか。
「仮説だけどな」
「でも、『変える』って、一体どうやって?」
「変えようねぇんじゃ……」
「多分大丈夫……ここが夢の世界ならね!」
最初にここに来た時、既に牧場だと思い込んでいた。牧場にいるのなんて牛や羊、鶏や馬なんかを連想する。
そもそも目的が羊だったし、案の定羊を見て『この牧場にいるのは羊なんだ』と、無意識のうちに思わされた。
これがこの迷宮の、いやここのボスの思惑だったのだ。羊を連想さえさせてしまえば、あとは催眠の魔術でのこのこやってきた冒険者を眠らせ、自分まで辿り着けなくしてしまえばいいだけなのだから。
「次目覚めた最初の奴が『ギルマス』と叫ぶ。それでオレ達全員の意識をギルマス一択に。もし駄目なら一旦迷宮を出て入り直す」
「分かった」
「よっしゃぁ!! 今度こそやってやんぜ!!!」
そうして三人は、もう何度目か分からない眠りへとついたのだった。
0
お気に入りに追加
3
あなたにおすすめの小説
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
チートがちと強すぎるが、異世界を満喫できればそれでいい
616號
ファンタジー
不慮の事故に遭い異世界に転移した主人公アキトは、強さや魔法を思い通り設定できるチートを手に入れた。ダンジョンや迷宮などが数多く存在し、それに加えて異世界からの侵略も日常的にある世界でチートすぎる魔法を次々と編み出して、自由にそして気ままに生きていく冒険物語。
【R18】童貞のまま転生し悪魔になったけど、エロ女騎士を救ったら筆下ろしを手伝ってくれる契約をしてくれた。
飼猫タマ
ファンタジー
訳あって、冒険者をしている没落騎士の娘、アナ·アナシア。
ダンジョン探索中、フロアーボスの付き人悪魔Bに捕まり、恥辱を受けていた。
そんな折、そのダンジョンのフロアーボスである、残虐で鬼畜だと巷で噂の悪魔Aが復活してしまい、アナ·アナシアは死を覚悟する。
しかし、その悪魔は違う意味で悪魔らしくなかった。
自分の前世は人間だったと言い張り、自分は童貞で、SEXさせてくれたらアナ·アナシアを殺さないと言う。
アナ·アナシアは殺さない為に、童貞チェリーボーイの悪魔Aの筆下ろしをする契約をしたのだった!
蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる
フルーツパフェ
大衆娯楽
転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。
一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。
そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!
寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。
――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです
そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。
大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。
相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。
ゴミアイテムを変換して無限レベルアップ!
桜井正宗
ファンタジー
辺境の村出身のレイジは文字通り、ゴミ製造スキルしか持っておらず馬鹿にされていた。少しでも強くなろうと帝国兵に志願。お前のような無能は雑兵なら雇ってやると言われ、レイジは日々努力した。
そんな努力もついに報われる日が。
ゴミ製造スキルが【経験値製造スキル】となっていたのだ。
日々、優秀な帝国兵が倒したモンスターのドロップアイテムを廃棄所に捨てていく。それを拾って【経験値クリスタル】へ変換して経験値を獲得。レベルアップ出来る事を知ったレイジは、この漁夫の利を使い、一気にレベルアップしていく。
仲間に加えた聖女とメイドと共にレベルを上げていくと、経験値テーブルすら操れるようになっていた。その力を使い、やがてレイジは帝国最強の皇剣となり、王の座につく――。
※HOTランキング1位ありがとうございます!
※ファンタジー7位ありがとうございます!
勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す
大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。
その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。
地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。
失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。
「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」
そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。
この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に
これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。
転生者は力を隠して荷役をしていたが、勇者パーティーに裏切られて生贄にされる。
克全
ファンタジー
第6回カクヨムWeb小説コンテスト中間選考通過作
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門日間ランキング51位
2020年11月4日「カクヨム」異世界ファンタジー部門週間ランキング52位
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる