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第十一話 医務室ってだけでラブラブシーンの定番ですわね
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「大丈夫かい」
医務室で午後の授業を休ませて貰っていたわたくしの元に、イーロイズ殿下がやって来た。手には二つの通学鞄がある。わたくしの鞄を教室まで取りに行って下さったのね……。
「……だいぶ、良くなりました」
身体を起こそうとすると「そのままで良い」と制止された。朝、イーロイズ殿下に酷い醜態を見せてしまったわたくしは殿下の顔を見る事もはばかられ、とても気まずい。
「ジェノワール男爵家には使いを出してあるから、迎えが来るまでここで休んでなさい」
「……ありがとう御座います、殿下」
イーロイズ殿下はベッドの横の椅子へと腰掛けると、少し複雑そうな表情をされた。
「どうか、されたのですか?」
朝とは違い、沢山休んだからなのか気分的にも少し落ち着いたわたくしは殿下の表情の意味がよく分からず疑問を口に出した。
「……ねぇ、リアノラ嬢。ディアは何故私を避け様とするのだろうね」
「…………」
「私はね、初めてディアと出会った時から彼女の事が愛おしくて堪らないんだ」
「で、殿下?」
イーロイズ殿下は自分の唇に人差し指を当てて、わたくしを黙らせる。そしてまるで遠い昔話をするかの様に淡々と思いを吐き出していく。
「彼女は私が、いつか彼女を嫌いになってしまう……と言っていたけれど、むしろ逆に愛しさが増していくばかりで……狂おしいほどなんだ」
いきなり愛の告白めいた発言をされるイーロイズ殿下に、わたくしは口をパクパクさせながら恥ずかし過ぎて両手で顔を覆う。な、なんて大胆な発言をされますの……。
「私が恋焦がれるのも、この腕の中に抱きしめたいと思うのも、ディア唯一人だけだ」
エスカレートする発言に泣きそうになりながら耐えていたら、ふいにギシッ……とベッドが軋む音がした。え? と思っている間もなく……
「……愛している。だから早く元に戻って、私の可愛いディア」
耳元へと心地良い低音ボイスが囁かれたと同時に殿下の息がかかり、耳をくすぐる。
「ひゃあああ!?」
思わず奇声をあげて飛び起きたら、悪戯そうな笑顔を見せる殿下と目が合った。
「なっ……なっ……」
上手く言葉が紡げないわたくしを、椅子へと座ったまま楽しそうに見ておられる。
「今のは全部ディアに向けて呟いた私の本心だから、ディアに伝えてくれたら嬉しいな」
「あ……うぅ……」
「……それじゃ、私はこれで帰るよ。また明日の朝、邸まで迎えに行く」
恐らくわたくしは顔だけでなく、全身真っ赤になっているのではないかしら。殿下の後ろ姿を見送った後、ベッドの上で先程の殿下からの言葉を思い出して一人身悶える。
イーロイズ殿下はリアノラを好きになってはいなかった!? 今でもわたくしの事を好きでいてくれたという事に、とても甘酸っぱい気持ちが溢れてくる。だけど素直に喜ぶ事が出来ない。だってわたくしは悪役令嬢なんですもの……。攻略対象者であるイーロイズ殿下は、ヒロインであるリアノラと“真実の愛”を見つけて、わたくしは婚約破棄される運命にある。
ここがゲームの中の世界である以上、きっとそれは逃れられない運命の筈。せめてリアノラがイーロイズ殿下ルートを攻略する気が無いのならば、話は別かもしれないけど……あのリアノラは攻略する気満々でいる。
「……リアノラは……いえ、知奈美はどうしていつもわたくしから大切な人を奪うのかしら」
前世でも彼氏を作る度に知奈美は奪っていった。そして奪って暫くすると、興味を無くしてポイ捨てを繰り返す。思い出しても溜め息が出てしまう。そんなリアノラと仲良くするだなんて、出来る訳がないのだ。
なんで入れ替わりだなんて面倒な事になってしまったのだろう。再びわたくしは大きな溜め息をつくのだった。
医務室で午後の授業を休ませて貰っていたわたくしの元に、イーロイズ殿下がやって来た。手には二つの通学鞄がある。わたくしの鞄を教室まで取りに行って下さったのね……。
「……だいぶ、良くなりました」
身体を起こそうとすると「そのままで良い」と制止された。朝、イーロイズ殿下に酷い醜態を見せてしまったわたくしは殿下の顔を見る事もはばかられ、とても気まずい。
「ジェノワール男爵家には使いを出してあるから、迎えが来るまでここで休んでなさい」
「……ありがとう御座います、殿下」
イーロイズ殿下はベッドの横の椅子へと腰掛けると、少し複雑そうな表情をされた。
「どうか、されたのですか?」
朝とは違い、沢山休んだからなのか気分的にも少し落ち着いたわたくしは殿下の表情の意味がよく分からず疑問を口に出した。
「……ねぇ、リアノラ嬢。ディアは何故私を避け様とするのだろうね」
「…………」
「私はね、初めてディアと出会った時から彼女の事が愛おしくて堪らないんだ」
「で、殿下?」
イーロイズ殿下は自分の唇に人差し指を当てて、わたくしを黙らせる。そしてまるで遠い昔話をするかの様に淡々と思いを吐き出していく。
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いきなり愛の告白めいた発言をされるイーロイズ殿下に、わたくしは口をパクパクさせながら恥ずかし過ぎて両手で顔を覆う。な、なんて大胆な発言をされますの……。
「私が恋焦がれるのも、この腕の中に抱きしめたいと思うのも、ディア唯一人だけだ」
エスカレートする発言に泣きそうになりながら耐えていたら、ふいにギシッ……とベッドが軋む音がした。え? と思っている間もなく……
「……愛している。だから早く元に戻って、私の可愛いディア」
耳元へと心地良い低音ボイスが囁かれたと同時に殿下の息がかかり、耳をくすぐる。
「ひゃあああ!?」
思わず奇声をあげて飛び起きたら、悪戯そうな笑顔を見せる殿下と目が合った。
「なっ……なっ……」
上手く言葉が紡げないわたくしを、椅子へと座ったまま楽しそうに見ておられる。
「今のは全部ディアに向けて呟いた私の本心だから、ディアに伝えてくれたら嬉しいな」
「あ……うぅ……」
「……それじゃ、私はこれで帰るよ。また明日の朝、邸まで迎えに行く」
恐らくわたくしは顔だけでなく、全身真っ赤になっているのではないかしら。殿下の後ろ姿を見送った後、ベッドの上で先程の殿下からの言葉を思い出して一人身悶える。
イーロイズ殿下はリアノラを好きになってはいなかった!? 今でもわたくしの事を好きでいてくれたという事に、とても甘酸っぱい気持ちが溢れてくる。だけど素直に喜ぶ事が出来ない。だってわたくしは悪役令嬢なんですもの……。攻略対象者であるイーロイズ殿下は、ヒロインであるリアノラと“真実の愛”を見つけて、わたくしは婚約破棄される運命にある。
ここがゲームの中の世界である以上、きっとそれは逃れられない運命の筈。せめてリアノラがイーロイズ殿下ルートを攻略する気が無いのならば、話は別かもしれないけど……あのリアノラは攻略する気満々でいる。
「……リアノラは……いえ、知奈美はどうしていつもわたくしから大切な人を奪うのかしら」
前世でも彼氏を作る度に知奈美は奪っていった。そして奪って暫くすると、興味を無くしてポイ捨てを繰り返す。思い出しても溜め息が出てしまう。そんなリアノラと仲良くするだなんて、出来る訳がないのだ。
なんで入れ替わりだなんて面倒な事になってしまったのだろう。再びわたくしは大きな溜め息をつくのだった。
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