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第八話 朝から大変なのだけど
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「おはよう、迎えに来たよリアノラ嬢」
翌朝から、それは始まった。まさに白馬の王子様というべきだろうか。白馬の二頭引きの真っ白で大きな馬車に乗って、イーロイズ殿下はジェノワール男爵家の前に現れた。玄関ポーチから優雅にわたくしをエスコートして馬車に乗り込むと、とびっきりの笑顔でわたくしを見つめ続けている。
「はい、これ。次に渡そうと思っていた本だよ」
「……あ、りが、とう御座います」
差し出された本を渋々受け取る。本の表紙には『オルプルート王国の英雄たち』と書かれている。……うん、完全にバレてますわね。歴史書の続きを渡されるくらいだもの。受け取った本を遠い目をしながら鞄にしまった。
それにしても……イーロイズ殿下はどういうおつもりなのだろう。殿下はリアノラを好きになったんじゃなかったの? と、ニコニコと微笑ながらこちらを見ている殿下の顔をチラチラと見返す。リアノラと学園で出逢われる迄は一生懸命わたくしのご機嫌を取ろうとしておられたけど……。
「あぁ、リアノラ嬢。一つ注意しておきたい事がある」
「はい……何ですか?」
「学園内では、なるべく私の傍に居る様に。特にマークやスベントには近付かない方がいいと思うよ」
「は?」
マーク・ハイランツ様とは魔術師団長のご令息で、スベント・カラップ様は騎士団長のご令息。お二人とも、このゲームの攻略対象者ですわね。そういえば、リアノラは既に逆ハー状態を作っているんでしたわ。何処までイベントをこなしているのかは知らないけど、リアノラの代わりにイチャイチャする自信は正直言ってわたくしにはありませんわ。
けれど……あの自称神様の提示した条件の一つ“真実の愛を見つける”をクリアする為には、逆ハー状態を壊さない様にしなければいけないのかも……うーん。とにかく、仲良くはしておいた方が良いのよねきっと。
「君に愛を囁くのは私だけで十分だからね」
「なっ……」
なんて事をおっしゃるのだろうか。顔も良いのに、口から零れる言葉までもが甘いだなんて卑怯だわ。ドキドキする胸の高鳴りを気づかれたくなくて、顔を下へと向ける。
「さぁ、到着した様だから一緒に降りよう」
「は……はい……」
乗り込んだ時と同じく見事にエスコートされて馬車から降りる。王子の馬車は、他の貴族たちが利用する馬車停めとは別の場所に王族専用の馬車停めが用意されており、生徒たちの目には触れずに馬車から降りる事が出来た。
「それでは殿下、わたくし……私はこれで……」
ふうっ……と一息ついて、校舎の中へと逃げ込もうとしたわたくしの手を殿下が掴んで引き止めた。
「何処へ行くの? 教室まで送り届けるんだから、このまま一緒に行けばいい」
「えっ……」
有無を言わさずにわたくしの手を引いて歩きだされる殿下。まさか手を繋いだ状態で教室まで行くというのだろうか。わたくしは慌てて殿下の手を振りほどこうとするけれど、繋がれた手は全然離れてくれない。
「殿下っ、困ります!」
「私とリアノラ嬢はラブラブなんだろ? 何が困るのかな」
「そっ、それは……」
思わず言葉に詰まる。――そう、わたくしはリアノラ。これまでも散々、仲の良さをアピールされて来たじゃない。これはリアノラにとっては普通の事な筈。でも、でも……今のリアノラがわたくしだって殿下は知っている。それなのに、何故こんな事をするの。
「……何故、こんな真似をするのですか。殿下はいじわるです」
入れ替わったわたくしの事をからかっておられるのだわ。だから、こんな風にわざと大切になさるのだわ。イチャイチャしたいのなら、本物のリアノラとだけすればいいじゃない。何も今のわたくしに見せつける様にされなくても……。
「こんな事されなくても、殿下がリアノラを好きな事は分かっております。いつでもカナルディアは身を引きますのでリアノラと婚約されれば良いのですわ」
わたくしは無理矢理手を振りほどいて、殿下の制止の声を無視してその場を離れた。廊下を走るわたくしは淑女らしくないけど、どうせ今はリアノラの姿なのだから気にしない。どんどん駆けて行き、人気の無い裏庭へと辿り着いた。
唇を噛みしめ、瞳に涙をにじませる。なんでこんな思いをしなければいけないのだろう。わたくしは最初から、この身を引く事を選んで行動していた筈だ。悪役令嬢なんだから仕方ないと、ずっと自分に言い聞かせて来た。なのに、今になってこんなに揺らいでしまっている。
「殿下なんて……嫌いですわ」
好きになりたくない。辛い思いをしたくない。だからお願いだから、わたくしに構わないで欲しいのに……。
翌朝から、それは始まった。まさに白馬の王子様というべきだろうか。白馬の二頭引きの真っ白で大きな馬車に乗って、イーロイズ殿下はジェノワール男爵家の前に現れた。玄関ポーチから優雅にわたくしをエスコートして馬車に乗り込むと、とびっきりの笑顔でわたくしを見つめ続けている。
「はい、これ。次に渡そうと思っていた本だよ」
「……あ、りが、とう御座います」
差し出された本を渋々受け取る。本の表紙には『オルプルート王国の英雄たち』と書かれている。……うん、完全にバレてますわね。歴史書の続きを渡されるくらいだもの。受け取った本を遠い目をしながら鞄にしまった。
それにしても……イーロイズ殿下はどういうおつもりなのだろう。殿下はリアノラを好きになったんじゃなかったの? と、ニコニコと微笑ながらこちらを見ている殿下の顔をチラチラと見返す。リアノラと学園で出逢われる迄は一生懸命わたくしのご機嫌を取ろうとしておられたけど……。
「あぁ、リアノラ嬢。一つ注意しておきたい事がある」
「はい……何ですか?」
「学園内では、なるべく私の傍に居る様に。特にマークやスベントには近付かない方がいいと思うよ」
「は?」
マーク・ハイランツ様とは魔術師団長のご令息で、スベント・カラップ様は騎士団長のご令息。お二人とも、このゲームの攻略対象者ですわね。そういえば、リアノラは既に逆ハー状態を作っているんでしたわ。何処までイベントをこなしているのかは知らないけど、リアノラの代わりにイチャイチャする自信は正直言ってわたくしにはありませんわ。
けれど……あの自称神様の提示した条件の一つ“真実の愛を見つける”をクリアする為には、逆ハー状態を壊さない様にしなければいけないのかも……うーん。とにかく、仲良くはしておいた方が良いのよねきっと。
「君に愛を囁くのは私だけで十分だからね」
「なっ……」
なんて事をおっしゃるのだろうか。顔も良いのに、口から零れる言葉までもが甘いだなんて卑怯だわ。ドキドキする胸の高鳴りを気づかれたくなくて、顔を下へと向ける。
「さぁ、到着した様だから一緒に降りよう」
「は……はい……」
乗り込んだ時と同じく見事にエスコートされて馬車から降りる。王子の馬車は、他の貴族たちが利用する馬車停めとは別の場所に王族専用の馬車停めが用意されており、生徒たちの目には触れずに馬車から降りる事が出来た。
「それでは殿下、わたくし……私はこれで……」
ふうっ……と一息ついて、校舎の中へと逃げ込もうとしたわたくしの手を殿下が掴んで引き止めた。
「何処へ行くの? 教室まで送り届けるんだから、このまま一緒に行けばいい」
「えっ……」
有無を言わさずにわたくしの手を引いて歩きだされる殿下。まさか手を繋いだ状態で教室まで行くというのだろうか。わたくしは慌てて殿下の手を振りほどこうとするけれど、繋がれた手は全然離れてくれない。
「殿下っ、困ります!」
「私とリアノラ嬢はラブラブなんだろ? 何が困るのかな」
「そっ、それは……」
思わず言葉に詰まる。――そう、わたくしはリアノラ。これまでも散々、仲の良さをアピールされて来たじゃない。これはリアノラにとっては普通の事な筈。でも、でも……今のリアノラがわたくしだって殿下は知っている。それなのに、何故こんな事をするの。
「……何故、こんな真似をするのですか。殿下はいじわるです」
入れ替わったわたくしの事をからかっておられるのだわ。だから、こんな風にわざと大切になさるのだわ。イチャイチャしたいのなら、本物のリアノラとだけすればいいじゃない。何も今のわたくしに見せつける様にされなくても……。
「こんな事されなくても、殿下がリアノラを好きな事は分かっております。いつでもカナルディアは身を引きますのでリアノラと婚約されれば良いのですわ」
わたくしは無理矢理手を振りほどいて、殿下の制止の声を無視してその場を離れた。廊下を走るわたくしは淑女らしくないけど、どうせ今はリアノラの姿なのだから気にしない。どんどん駆けて行き、人気の無い裏庭へと辿り着いた。
唇を噛みしめ、瞳に涙をにじませる。なんでこんな思いをしなければいけないのだろう。わたくしは最初から、この身を引く事を選んで行動していた筈だ。悪役令嬢なんだから仕方ないと、ずっと自分に言い聞かせて来た。なのに、今になってこんなに揺らいでしまっている。
「殿下なんて……嫌いですわ」
好きになりたくない。辛い思いをしたくない。だからお願いだから、わたくしに構わないで欲しいのに……。
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