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第三話 イーロイズ王子 心の葛藤をぼやいてみる

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 最初は俺の一目惚れだった。

 母上が開いたお茶会には、五歳から十歳までの上位貴族の令嬢が国中から集められた。そう、俺の婚約者を決める為だ。父上と母上はこの国の国王と王妃ではあるが、元々は幼馴染からの恋愛結婚だった。自分達がそうだったので、俺の婚約者決めに対しても政略的な婚約は無理強いをして来なかった。

 俺が五歳を迎えた時から毎年こうやってお茶会を開催しているが、今迄は俺の気に入る様な令嬢は現れなかった。今年で三年目。俺は八歳だった。どうせ今年も“王子”という肩書と、どうやら美形に生まれたらしいこの容姿につられて寄って来る様な令嬢しか居ないんだろう……そう、タカをくくっていた。

 そこに現れたのがカナルディアだった。

 彼女を一目見た瞬間――俺は息を飲んだ。五歳になったばかりだと言うのに、凛とした佇まいと気品溢れる所作。他の令嬢がまるで畑の中のカボチャの様だ。俺の目にはカナルディアしか見えなかった。

 母上に頼んでカナルディアをテーブルに呼んで貰った。緊張しながら彼女と会話を交わしてみると、打てば響くように会話が弾む。なんだ、これ。こんなに話が合う令嬢は初めてだ。そう思った。

「読書などはするのか?」
「はい、最近は古代ミグス帝国の滅亡についての書物をよく読みます」

 古代ミグス帝国!? 我がコンフォーネ王国誕生より二千年程前に栄えていた巨大な帝国だ。五歳の令嬢が読むには難しくはないだろうか。いや、俺だって家庭教師から丁度今その時代の勉強を習っているところだぞ。

「カナルディア嬢は歴史が好きなのか?」
「そうですね、この世界が大好きなので色んな事を知りたいのです。あとは魔道書も好きですね」

 なんと! 古代文明だけでなく、魔道書まで読むというのか!こんな令嬢は初めてだ。俺はカナルディアの内面にも興味を持った。美しい見目だけでなく、探究心が強い様だ。彼女なら、この国の事を沢山勉強して、いずれは立派な王妃として俺の隣りに立ってくれるだろう。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

 お茶会の後、俺は父上と母上にカナルディアを婚約者にしたいと強請った。カナルディアはケシュクリー公爵家の令嬢だったので身分的にも問題はない。だが、婚約を打診したケシュクリー公爵家からは色よい返事を最初貰えなかった。

 それに納得のいかない俺は、直接ケシュクリー公爵家へ乗り込んで直談判した。どうやらケシュクリー公爵とその夫人は婚約を受け入れたいとの返答だったのだが、カナルディア自身が嫌がっている様だった。カナルディアと二人で話がしたいからと、公爵と夫人には少し席を外して貰った。

「何故そんなに嫌がるのだ。私の事が嫌なのか?」
「いいえっ、そんな事はありません。……ですが、わたくしは殿下に相応しくは無いと思うのです」
「私は君ほど相応しい令嬢は他に居ないと思うが」
「……殿下は、いずれ、わたくしを嫌いになってしまわれると思います」

 カナルディアがギュっとスカートの裾を握りしめながら小さな声で呟いた。俺がカナルディアを嫌いになる? こんなに恋しく思っているのに、俺の想いが伝わらないのか。

「私はカナルディアを好いている。信じて貰えないか?」
「っ! ……勿体ないお言葉です」
「この婚約は国王陛下の承諾も得ている。申し訳ないが君に断る権限はない」
「…………わか……りました」

 何かを決意したかの様に顔を上げて、カナルディアが真っ直ぐに俺を見た。力強くて吸い込まれそうな、深い海の様な紺色の瞳に俺は酔いそうになる。こんな気持ちになったのは初めてだ。やはり俺の気持ちを揺さぶるのは、カナルディアだけだと確信する。

「では、改めて正式に婚約の書類を送らせる。良いな」
「はい」

 多少強引だったかもしれないが、これでカナルディアと婚約が出来た。俺は上機嫌で王城に帰った。素晴らしい女性を見つけれた。そして何より、愛おしくてしかたない。沢山愛して、カナルディアからも愛して貰える様に努力をしよう。

 俺はそう決意したのだが……なかなか、それは上手く行かなかった。カナルディアは、俺の事を見ようとしてくれないのだ。そして何故か俺に怯えている。それでも俺は、王子妃教育で城に登城したカナルディアをお茶に誘ったり、休日にはデートに誘ったりと頑張った。

 だけど不思議な事に、カナルディアは俺を嫌いな様には見えなかった。むしろ、好意を持たれてると思う事が多々あった。なのに怖がっている。怖がっているのに、時折恥ずかしそうな、嬉しそうな笑顔を見せて来る。

 なんとも変わった令嬢だ。まぁ、そんな変わった所が気に入っているのだが。

 どうしたらカナルディアが俺を見てくれるのか悩んでいた。そんな時、俺はピンクの髪の少女と出会ったんだ。彼女はガンガン俺にアピールをしてくるので正直引いてしまっていた。こういう女性は苦手だ。だけど、いつまで経ってもなかなか振り向いてくれないカナルディアに、俺は少し疲れてしまっていた。

 そして普段、他の令嬢の事には無関心なカナルディアが何故かピンク頭のリアノラ嬢には反応した。彼女が俺に何かをすると、カナルディアは彼女に対して文句を言う。あのカナルディアがだ!

 これには驚いた。ズルいかもしれない。だけどそれだけ俺は、必死だったんだ。カナルディアが俺の事に対して興味を持ってくれてる? そう思うだけで心が躍った。
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