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本編
リップル王女のお茶会
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今日はリップル王女から招かれて王宮でのお茶会に来ていた。手土産にクッキーを焼いて持参したので、近くに居るメイドに渡した。するとすぐさま、そのクッキーが盛り付けられたお皿をメイドがテーブルへと運んで来てくれた。この時点で既に毒見はされているという事だろう。
「まぁ! アリエッタはお菓子もお上手なのですね」
「いえ、たいしたものではありませんけど……」
今日のは真ん中にジャムを乗せて焼き上げた簡単なクッキーだ。リップル王女は嬉しそうにクッキーを手に取り、口へと運ばれる。
「サクサクですわ~この苺ジャムがまた甘酸っぱくてとても美味しいです」
「気に入って頂けて良かったです」
ほっと胸を撫で下ろしながら、わたしもクッキーに手を伸ばす。
「私、アリエッタがロビウムシス殿下の婚約者候補だと聞いて驚きましたの。クリストファー殿下と結婚されるとばかり思っておりましたから」
「そうですよね……わたくし自身も今の現状に驚いております」
「……ここだけの話、アリエッタはどちらの殿下の事をお慕いしておりますの?」
声を潜めてリップル王女がわたしに問いかけて来た。どちらの殿下……ロブ殿下とクリス殿下の事だろうか?
「どちらのと申しましても……」
「これは私の勝手な想像なのですけど、クリストファー殿下の事はお慕いしていらっしゃらなかった……とお見受けしておりましたけど。如何ですか?」
「まぁ……そうですね。彼とは良くも悪くも幼馴染でしたね」
傍目にもそんな風に見えてしまっていたのか……苦笑いするしかない。まぁ、貴族の婚約とはそういうものが多いのだけど。
「やはりそうなのですね! では、ロビウムシス殿下の事は如何なのですか?」
「…………お慕い、して……おります」
正直に話して良いものなのか迷ったが、嘘をついても仕方ない。
「では、ロビウムシス殿下とは両想いという事ですわね。素敵ですわ~」
「……え?」
リップル王女の反応にどう対応して良いか分からない。一応、王太子妃の座を競うライバルという立場にある彼女が何故かうっとりとした表情で両手を胸の前に組んで頬を染めておられる。
「えっと……あの、リップル殿下?」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと取り乱してしまいましたわ」
「はぁ……」
リップル王女はお茶を一口飲み、ニコリと微笑まれる。
「私ね、実はお慕いしてるお方がおりますの。一国の王女ですから自分の好きな様に相手を選べないのは分かっているのですけど、それでも恋には憧れを抱いておりますの。ですからお二人の様に相思相愛な恋愛にきゅんきゅんしてしまいますの~」
「きゅんきゅん…………」
なんだか既視感を覚えるその言動に、ふとピンクの少女を思い出す。
「あの…………変な事をお伺いしますけど……“キス抱き”とか“スマホ”とか、意味分かったりします?」
「…………!」
わたしの言葉にリップル王女が目をパチクリさせて何やら口をパクパクとさせている。そして、わたしの方へと顔を寄せて小声で囁く様に答える。
「……お仲間、ですの? もしかして」
「……ですわね」
途端にリップル王女は飛び跳ねる様に立ち上がり、わたしへ抱き付いて来た。
「嬉しいですわ! ずっと一人で悩み続けて来ましたの~こんな形でお仲間に会えるなんて!」
「リップル殿下、落ち着いて下さいっ」
離れた場所で控えているメイド達が、リップル王女の行動におろおろとしているのが見える。
「……失礼致しました。えーと、アリエッタはいつから、そうだと?」
「幼い頃です。クリス殿下と婚約する少し前ですね。リップル殿下は?」
「私は生まれた時からですの。あちらのコンフォーネ王国を舞台にした別のゲームの方に転生しただけかと思ってたんですけど、外交でロビウムシス殿下とお会いして“キス抱き”の方も存在してるんだと気付きましたの」
「え! コンフォーネ王国が舞台の別のゲームもあるんですか!?」
「同じゲーム会社から出ている“桃色☆ファンタジア”というゲームですわ。そちらでは私はただのモブ扱いですけどね。お兄様が攻略対象者ですのよ」
「あ、そのゲームなら名前だけは知ってます」
乙女ゲーム好きなわたしだったけど、さすがに全部の乙女ゲームを知ってる訳ではない。それにしても転生者同士というだけで、急に親近感がわくのは不思議だ。プリメラともそうだったけど、気心のしれた友人という様な感覚になってしまう。でも、リップル王女が良い方で本当に良かった。
「それにしても、何故アリエッタが婚約者候補に? クリストファー殿下と婚約破棄になったのなら、断罪されたりしませんでしたの?」
「それが……実は、ヒロインが……」
わたしがヒロインのプリメラの話をすると、リップル王女はそれはもう可笑しそうに笑われた。
「私もプリメラに会ってみたいですわ! 王宮に呼ぶ事は難しいでしょうから……そうだわ、アリエッタの邸で会う事は出来ませんの?」
「出来ない事はないと思いますけど……プリメラさんにも聞いてみませんと」
「是非、お願い致しますわ!」
なんだかんだで仲良くなったわたし達は、このゲームのヒロインであるプリメラと三人で会うという話になったのだった。
「まぁ! アリエッタはお菓子もお上手なのですね」
「いえ、たいしたものではありませんけど……」
今日のは真ん中にジャムを乗せて焼き上げた簡単なクッキーだ。リップル王女は嬉しそうにクッキーを手に取り、口へと運ばれる。
「サクサクですわ~この苺ジャムがまた甘酸っぱくてとても美味しいです」
「気に入って頂けて良かったです」
ほっと胸を撫で下ろしながら、わたしもクッキーに手を伸ばす。
「私、アリエッタがロビウムシス殿下の婚約者候補だと聞いて驚きましたの。クリストファー殿下と結婚されるとばかり思っておりましたから」
「そうですよね……わたくし自身も今の現状に驚いております」
「……ここだけの話、アリエッタはどちらの殿下の事をお慕いしておりますの?」
声を潜めてリップル王女がわたしに問いかけて来た。どちらの殿下……ロブ殿下とクリス殿下の事だろうか?
「どちらのと申しましても……」
「これは私の勝手な想像なのですけど、クリストファー殿下の事はお慕いしていらっしゃらなかった……とお見受けしておりましたけど。如何ですか?」
「まぁ……そうですね。彼とは良くも悪くも幼馴染でしたね」
傍目にもそんな風に見えてしまっていたのか……苦笑いするしかない。まぁ、貴族の婚約とはそういうものが多いのだけど。
「やはりそうなのですね! では、ロビウムシス殿下の事は如何なのですか?」
「…………お慕い、して……おります」
正直に話して良いものなのか迷ったが、嘘をついても仕方ない。
「では、ロビウムシス殿下とは両想いという事ですわね。素敵ですわ~」
「……え?」
リップル王女の反応にどう対応して良いか分からない。一応、王太子妃の座を競うライバルという立場にある彼女が何故かうっとりとした表情で両手を胸の前に組んで頬を染めておられる。
「えっと……あの、リップル殿下?」
「あぁ、ごめんなさい。ちょっと取り乱してしまいましたわ」
「はぁ……」
リップル王女はお茶を一口飲み、ニコリと微笑まれる。
「私ね、実はお慕いしてるお方がおりますの。一国の王女ですから自分の好きな様に相手を選べないのは分かっているのですけど、それでも恋には憧れを抱いておりますの。ですからお二人の様に相思相愛な恋愛にきゅんきゅんしてしまいますの~」
「きゅんきゅん…………」
なんだか既視感を覚えるその言動に、ふとピンクの少女を思い出す。
「あの…………変な事をお伺いしますけど……“キス抱き”とか“スマホ”とか、意味分かったりします?」
「…………!」
わたしの言葉にリップル王女が目をパチクリさせて何やら口をパクパクとさせている。そして、わたしの方へと顔を寄せて小声で囁く様に答える。
「……お仲間、ですの? もしかして」
「……ですわね」
途端にリップル王女は飛び跳ねる様に立ち上がり、わたしへ抱き付いて来た。
「嬉しいですわ! ずっと一人で悩み続けて来ましたの~こんな形でお仲間に会えるなんて!」
「リップル殿下、落ち着いて下さいっ」
離れた場所で控えているメイド達が、リップル王女の行動におろおろとしているのが見える。
「……失礼致しました。えーと、アリエッタはいつから、そうだと?」
「幼い頃です。クリス殿下と婚約する少し前ですね。リップル殿下は?」
「私は生まれた時からですの。あちらのコンフォーネ王国を舞台にした別のゲームの方に転生しただけかと思ってたんですけど、外交でロビウムシス殿下とお会いして“キス抱き”の方も存在してるんだと気付きましたの」
「え! コンフォーネ王国が舞台の別のゲームもあるんですか!?」
「同じゲーム会社から出ている“桃色☆ファンタジア”というゲームですわ。そちらでは私はただのモブ扱いですけどね。お兄様が攻略対象者ですのよ」
「あ、そのゲームなら名前だけは知ってます」
乙女ゲーム好きなわたしだったけど、さすがに全部の乙女ゲームを知ってる訳ではない。それにしても転生者同士というだけで、急に親近感がわくのは不思議だ。プリメラともそうだったけど、気心のしれた友人という様な感覚になってしまう。でも、リップル王女が良い方で本当に良かった。
「それにしても、何故アリエッタが婚約者候補に? クリストファー殿下と婚約破棄になったのなら、断罪されたりしませんでしたの?」
「それが……実は、ヒロインが……」
わたしがヒロインのプリメラの話をすると、リップル王女はそれはもう可笑しそうに笑われた。
「私もプリメラに会ってみたいですわ! 王宮に呼ぶ事は難しいでしょうから……そうだわ、アリエッタの邸で会う事は出来ませんの?」
「出来ない事はないと思いますけど……プリメラさんにも聞いてみませんと」
「是非、お願い致しますわ!」
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