悪役令嬢に転生かと思ったら違ったので定食屋開いたら第一王子が常連に名乗りを上げてきた

咲桜りおな

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本編

“本気”入りました

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 昨日はプリメラの問いに結局答える事が出来なかった。ロブ殿下からの求婚にかなり動揺している自分が居る。今日会ったらどんな顔したら良いんだろう……溜息つきつつ、邸の外へと出ると馬車停めに朝陽に髪を輝かせて立つ王子の姿があった。

「ろ、ロブ殿下!?」
「おはよう、アリー。これから店に行くんだろう? 迎えに来たよ」

 唖然とするわたしの手を取り、ロブ殿下がお忍び用に使っているのか家紋無しの地味な馬車へと導かれる。

「こんな馬車でごめんね。でも座り心地は良く作ってあるから安心して」
「いや、あの、ロブ殿下……」
「これから出来るだけ毎日、朝は迎えに来るからね」
「……あ、うっ」

 眩いほどの笑顔でそう告げられ、何も言えなくなる。いつの間にかベッキーもブラッドに連れられて馬車に乗り込んで来ていた。ロブ殿下の横にわたしは座らせられ、ベッキーは向かいの席にブラッドと並んで座っている。うん、ベッキーも戸惑っているわ。

「あの、お忙しいんじゃないんですか? わざわざ送って頂かなくてもだいじょ……」
「俺がアリーに会いたいんだ、ダメかい?」

 食い気味に言葉が被せられた。素敵な笑顔を向けられるけど、これはアレだ。有無を言わさぬ王子スマイルだ。

「……お、お願い致しますわ」
「うん、素直が一番だ」

 そして何の前触れもなくわたしの頬へと手を当てられる。思わずビクッと身体が硬直するけど、そんなわたしにお構い無しで頬を優しく撫でられる。む、胸がっ! きゅーーって、きゅーーーーって苦しいんですけど。心臓もバクバクバクバク煩い。

 わたし達の向かい側で、ベッキーとブラッドがこちらを見ない様に気を遣ってくれてるのが見える。

「ロ……ブで、んかっ……皆が一緒に居るので、その、こーいうのは……」
「気にする必要はない。そうだな? ブラッド」
「……はい、アリエッタ嬢、こちらはお気になさらずに」
「ほら、ね?」

 ね? じゃ、なーい! こっちが気になるってば。ベッキーなんて完全にこれ見よがしに窓の外を見てるから! 通り過ぎる木々の数まで数え始めちゃってるから!

「ずっとこうやってアリーの頬を撫でてみたいと思っていたんだ。想像以上に柔らかくて癖になりそうだよ」
「ふ……ぐふぅ」
「今日も俺のアリーは可愛いね。このまま連れ去ってしまいたい」
「はぅ……」

 もはや擬音しか紡げなくなってるし、頭グルグルするし、胸は苦しいし、やっぱり泣きそうだし、もうっ、もうっ、朝から何の拷問ですかこれは。頬の感触を楽しまれた後は、わたしの髪をすくように何度も撫で、更にその後はずっとわたしの手を握られたまま店の中まで送り届けられてしまった。

「送って頂いてありがとう御座いました」
「うん、また後で食事に来るよ。……あ、それから」

 急に肩先を抱き寄せられて、頬へとちゅっと唇が押し付けられた。

「ひゃっ!?」
「今日も大好きだよ、アリー」
「なっ……なっ……」
「じゃあ、仕事頑張って」

 ロブ殿下は悪戯っぽい表情でウインクを投げつけ、何事も無かったかの様に店の外へと出て行かれた。わたしは殿下の唇の感触が残る頬を手で押さえたまま、口をパクパクとさせるしか出来なかった。

 な、なんて自由な人なのっ!

「ふえ…………」

 朝から思いっきりロブ殿下のペースに巻き込まれ、ドキドキさせられまくって、胸が苦しくて仕方なくて、その場にへたり込んだ。もう、死にそうなんですけど……攻略対象者の本気、こわいよー。

「お嬢様、大丈夫ですかっ!?」
「ベッキー……朝から刺激が強いよぉ~」
「心中お察しいたします……」

 苦笑いを浮かべて目を逸らさないでー! お姉さまも可哀想な子を見る様な目で見ないでー! ロマノもケイトも知らない振りしないで~。
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