上 下
13 / 54
本編

第一王子来店

しおりを挟む
「ろ……ロブ様……」
「開店おめでとう、アリー! 早速来ちゃったよ」

 笑顔全開で出迎えられたわたしは、定食屋という場違いな場所にこの国の第一王子が居るという事に眩暈がしそうになった。まぁ、わたしとお姉さまだって侯爵令嬢なのだけど。そんなわたしにお構いなしに青い薔薇の花束を差し出された。

「あ、ありがとう御座います。ロブ様」

 店内で食事していた数人のお客さんは勿論、スタッフ一同唖然としている。お姉さまだけはニコニコしてらっしゃるけどね。あまり動じない方だからなぁ、お姉さまは。ロブ殿下はお忍びの恰好をしていらっしゃるけど、そのキラキラとした王子な佇まいはオーラが隠しきれてない。王子だとは思われなくても、何処かのお坊ちゃんとは絶対思われていると思う。受け取った花束をベッキーへと渡し、ロブ殿下を店の隅まで引っ張って行く。

「何やってるんですか、こんな所で。てかなんでここの事知ってるの!?」
「お祝いに来たんだけど? それにグレンは俺の側近だからね、情報は普通に入ってくるよ」

 あぁ、そうだった。お姉さまの婚約者のグレン様はロブ殿下の側近だった。

「いやいや、そもそもこんな所に来ちゃダメでしょ。王子様なんですよ、ロブ殿下は」
「だけど、俺だってアリーの手料理が食べたかったんだよ」
「て、手料理って…………」

 仕事として作っていたわたしはロブ殿下の言葉に顔を赤くする。た、確かに、手料理と言われればそうなんだけど……。

「で、お薦めはどの料理?」

 もはや止め様子もないロブ殿下は、食べる気満々だ。わたしは諦めて、メニューの説明をする。どれも美味しく作っている自信作ではあるけど、目玉だった天むすはもう売り切れてしまったので今はアジフライ定食が私の中では一番のお薦めだ。

「じゃあ、それを二つ」

 そう言うと、連れて来た護衛騎士らしき男性と一緒に空いているテーブルへとつかれた。あの護衛の男性はロブ殿下がいつも連れていらっしゃる方だ。よほど優秀で信頼されているんだろう。厨房に戻り、アジフライを揚げる。その間に定食の小鉢をトレーに乗せていく。このトレーごとテーブルに出すのが定食の醍醐味だったりする。運ぶのも楽だし、ただテーブルに料理を並べていくより見た目も良いので一石二鳥だ。

 熱々のアジフライを乗せたトレーをベッキーと一緒に殿下の元へと運んでいく。目の前に置かれた料理を見てロブ殿下が目を輝かせた。そんなに食べたかったんですか、わたしの料理……。

「このアジフライには、そこの備え付けているソースか醤油をお好みでかけて食べても良いですし、キャベツの横にあるタルタルソースを付けても美味しいですよ」

 わたしが説明をすると「よし、全部やってみよう」と楽しそうに顔を綻ばせた。その様子に何だか子供みたいだなぁ、なんて思ってしまう。年上のお兄ちゃん的存在だけど、たまにこうやって子供っぽい一面も見え隠れするのよね。

 早速食べようとするロブ殿下に、わたしはこそっと耳打ちをする。

「あの、わたしが作ったものだから安全は保障しますが、お毒見はされなくて大丈夫なのですか?」

 耳打ちされたロブ殿下は何故かもの凄く目を見開かれたのだけど、そんなに驚かれる事言ったかしら。というか、何だかロブ殿下の耳が少し赤くなっている。それを向かいに座っている護衛の方が面白そうに見てらっしゃった。

「耳に不意打ちとは……あ、いや……うん……だ、大丈夫だよ。普段も、その、こうやって……だな、外食はしているからな」

 赤くなった耳に手を当てて、しどろもどろになりながら答えるロブ殿下にわたしは首を傾げた。いつもスマートなロブ殿下なのに、何だか珍しい反応だわ。

「ご心配なさらなくて大丈夫ですよ、アリエッタ嬢。ちょっと色々と浮かれてらっしゃるだけですから」
「お前は余計な事は言わなくて良い」
「はぁ……それでは、ごゆっくりなさって下さいね」

 わたしはベッキーと厨房の方へと戻る。厨房の方から殿下達の姿を見ていると、凄く嬉しそうに食事をされているのが見える。あんなに顔を綻ばせて食事されている殿下を見るのは珍しい。そんなに美味しいと思って貰えたのかな? それならわたしも嬉しいけど。

 ペロリと完食された殿下たちは「美味しかった、また明日も来る」と言って帰られた。え、明日も来るの? とビックリしたのは言うまでもない。殿下も公務などで忙しいと思うのに、大丈夫なのだろうか。
しおりを挟む
感想 43

あなたにおすすめの小説

【完結】転生したので悪役令嬢かと思ったらヒロインの妹でした

果実果音
恋愛
まあ、ラノベとかでよくある話、転生ですね。 そういう類のものは結構読んでたから嬉しいなーと思ったけど、 あれあれ??私ってもしかしても物語にあまり関係の無いというか、全くないモブでは??だって、一度もこんな子出てこなかったもの。 じゃあ、気楽にいきますか。 *『小説家になろう』様でも公開を始めましたが、修正してから公開しているため、こちらよりも遅いです。また、こちらでも、『小説家になろう』様の方で完結しましたら修正していこうと考えています。

幽霊じゃありません!足だってありますから‼

かな
恋愛
私はトバルズ国の公爵令嬢アーリス・イソラ。8歳の時に木の根に引っかかって頭をぶつけたことにより、前世に流行った乙女ゲームの悪役令嬢に転生してしまったことに気づいた。だが、婚約破棄しても国外追放か修道院行きという緩い断罪だった為、自立する為のスキルを学びつつ、国外追放後のスローライフを夢見ていた。 断罪イベントを終えた数日後、目覚めたら幽霊と騒がれてしまい困惑することに…。えっ?私、生きてますけど ※ご都合主義はご愛嬌ということで見逃してください(*・ω・)*_ _)ペコリ ※遅筆なので、ゆっくり更新になるかもしれません。

【完結】熟成されて育ちきったお花畑に抗います。離婚?いえ、今回は国を潰してあげますわ

との
恋愛
2月のコンテストで沢山の応援をいただき、感謝です。 「王家の念願は今度こそ叶うのか!?」とまで言われるビルワーツ侯爵家令嬢との婚約ですが、毎回婚約破棄してきたのは王家から。  政より自分達の欲を優先して国を傾けて、その度に王命で『婚約』を申しつけてくる。その挙句、大勢の前で『婚約破棄だ!』と叫ぶ愚か者達にはもううんざり。  ビルワーツ侯爵家の資産を手に入れたい者達に翻弄されるのは、もうおしまいにいたしましょう。  地獄のような人生から巻き戻ったと気付き、新たなスタートを切ったエレーナは⋯⋯幸せを掴むために全ての力を振り絞ります。  全てを捨てるのか、それとも叩き壊すのか⋯⋯。  祖父、母、エレーナ⋯⋯三世代続いた王家とビルワーツ侯爵家の争いは、今回で終止符を打ってみせます。 ーーーーーー ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。 完結迄予約投稿済。 R15は念の為・・

【短編】隣国から戻った婚約者様が、別人のように溺愛してくる件について

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
転生したディアナの髪は老婆のように醜い灰色の髪を持つ。この国では魔力量の高さと、髪の色素が鮮やかなものほど賞賛され、灰や、灰褐色などは差別されやすい。  ディアナは侯爵家の次女で、魔力量が多く才能がありながらも、家族は勿論、学院でも虐げられ、蔑まされて生きていた。  親同士がより魔力の高い子を残すため――と決めた、婚約者がいる。当然、婚約者と会うことは義務的な場合のみで、扱いも雑もいい所だった。  そんな婚約者のセレスティノ様は、隣国へ使節団として戻ってきてから様子がおかしい。 「明日は君の誕生日だったね。まだ予定が埋まっていないのなら、一日私にくれないだろうか」 「いえ、気にしないでください――ん?」  空耳だろうか。  なんとも婚約者らしい発言が聞こえた気がする。 「近くで見るとディアナの髪の色は、白銀のようで綺麗だな」 「(え? セレスティノ様が壊れた!?)……そんな、ことは? いつものように『醜い灰被りの髪』だって言ってくださって構わないのですが……」 「わ、私は一度だってそんなことは──いや、口には出していなかったが、そう思っていた時がある。自分が浅慮だった。本当に申し訳ない」 別人のように接するセレスティノ様に困惑するディアナ。  これは虐げられた令嬢が、セレスティノ様の言動や振る舞いに鼓舞され、前世でのやりたかったことを思い出す。 虐げられた才能令嬢×エリート王宮魔術師のラブコメディ

転生モブは分岐点に立つ〜悪役令嬢かヒロインか、それが問題だ!〜

みおな
恋愛
 転生したら、乙女ゲームのモブ令嬢でした。って、どれだけラノベの世界なの?  だけど、ありがたいことに悪役令嬢でもヒロインでもなく、完全なモブ!!  これは離れたところから、乙女ゲームの展開を楽しもうと思っていたのに、どうして私が巻き込まれるの?  私ってモブですよね? さて、選択です。悪役令嬢ルート?ヒロインルート?

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました

かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中! そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……? 可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです! そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!? イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!! 毎日17時と19時に更新します。 全12話完結+番外編 「小説家になろう」でも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】記憶が戻ったら〜孤独な妻は英雄夫の変わらぬ溺愛に溶かされる〜

凛蓮月
恋愛
【完全完結しました。ご愛読頂きありがとうございます!】  公爵令嬢カトリーナ・オールディスは、王太子デーヴィドの婚約者であった。  だが、カトリーナを良く思っていなかったデーヴィドは真実の愛を見つけたと言って婚約破棄した上、カトリーナが最も嫌う醜悪伯爵──ディートリヒ・ランゲの元へ嫁げと命令した。  ディートリヒは『救国の英雄』として知られる王国騎士団副団長。だが、顔には数年前の戦で負った大きな傷があった為社交界では『醜悪伯爵』と侮蔑されていた。  嫌がったカトリーナは逃げる途中階段で足を踏み外し転げ落ちる。  ──目覚めたカトリーナは、一切の記憶を失っていた。  王太子命令による望まぬ婚姻ではあったが仲良くするカトリーナとディートリヒ。  カトリーナに想いを寄せていた彼にとってこの婚姻は一生に一度の奇跡だったのだ。 (記憶を取り戻したい) (どうかこのままで……)  だが、それも長くは続かず──。 【HOTランキング1位頂きました。ありがとうございます!】 ※このお話は、以前投稿したものを大幅に加筆修正したものです。 ※中編版、短編版はpixivに移動させています。 ※小説家になろう、ベリーズカフェでも掲載しています。 ※ 魔法等は出てきませんが、作者独自の異世界のお話です。現実世界とは異なります。(異世界語を翻訳しているような感覚です)

処理中です...