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本編
婚約破棄されてますけど……その続き
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「はい、存じてはおります」
ええ、存在だけですけどね。全く関わった事ありませんが。
「彼女は非常に優秀な女性だ」
「…………はい?」
「そしてとても美しい」
「は?」
クリス殿下は目を閉じて、ココレシア嬢の姿を思い浮かべている様だ。わたしはむしろ、話の展開が余計に見えなくなって混乱している。そりゃ確かにココレシア嬢はとても美しい方だと思う。深窓の令嬢とでも言うのだろうか、プラチナブロンドに深いグリーンの大きな瞳がとても儚げで庇護欲をそそるお方だ。
「私は彼女に心を奪われてしまったのだ」
「……」
クリス殿下の発言に口をあんぐりと開けてしまいそうになった。あー……そういう事ですか。元々わたし達の間に恋愛感情は無く、幼馴染ではあるけれど形だけの婚約者だ。
「要するに、クリス殿下はココレシア嬢と結婚されたいという事ですか?」
「そうだ、だから私と君との婚約は解消される」
「破棄でなく、解消と受け取って宜しいのですよね?」
「ん? どちらでも変わらないだろう」
いやいや、変わらない訳ないでしょう! 婚約破棄と婚約解消じゃ、我が侯爵家への風当たりが違ってくるんだけど。そんな事も分からないなんて……あぁ、そうだった、クリス殿下はあまり頭が回るお方ではなかったわ。
「婚約を取り消される事自体は別に構わないのですが」
「おお、そうか」
あからさまに嬉しそうな顔をするクリス殿下。いや、まぁ別に良いんだけどさ。少しは現婚約者に配慮しようよ。
「こちらに落ち度がなく、そちらの都合で婚約を無くすというのであれば“婚約破棄”ではなく“解消”か“白紙撤回”として頂くのが流儀かと」
「なるほど。確かにそうだな、分かった。そうしよう」
「この事は陛下にはもう許可を取られているのですか?」
「ああ、ここに書類を貰っている」
ゴソゴソと執務机の引き出しを開けて書類を出そうとしているクリス殿下。中から丸まった羊皮紙や、壊れた羽ペンの羽部分だけとか、何かよく分からない小石だとか、色々机の上に出て来る。……小学生の机の中みたいでちょっとドン引きする。子供の頃から全然成長してないのよね、と母親の様な生暖かい視線でその様子を見つめるわたし。
「殿下、そこじゃなくて、こっちの引き出しに入れているのを見ましたよ」
「ん、そうだったかな」
わたしの後ろに控えていたクリス殿下の側近のオーフェンが痺れを切らしたのか、殿下の傍に回り込む。オーフェンが指摘した場所を開けると、その書類はすぐに見つかった様だ。
「お、あった。これだ、これ」
広げられた書類は何故か下の方に茶色い染みが出来ているけど……まさかこれ、食べこぼしとかじゃないよね。クリス殿下ならあり得そうだけど、ここは敢えて見ない振りをしておこう。
「あ、婚約解消って書いてありますね」
「うん、そうだな。良かったなアリー、解消だ」
「あは……ソウデスネ」
なんだろ、なんかいつも疲れるわークリス殿下と居ると。
国王陛下と王妃陛下は珍しく恋愛結婚だった。それはわたしの両親も同じ。身分的に格差があれば色々問題もあるが、我が侯爵家は代々宰相を輩出している名門貴族の一つだ。特に問題は見当たらない。そもそも婚約させたがったのは、政略的な事ではなく王妃陛下とわたしの母が学生時代からの親友だったからというのも大きな理由だった。
それにしても王族との婚約がクリス殿下の一存で簡単に解消出来るとは思わなかったけど、既に陛下が許可を出したというのが少々不思議だ。陛下は腹の内が見えないお方だから、今回の件も何か考えがあっての事なのかもしれない。
「では、この書類はネリネ侯爵家の邸に送らせるので速やかに手続きを頼むぞ」
「畏まりました、クリス殿下」
「あ、それからアリー」
「はい」
「婚約は無くなったが、オレ達はこれからも幼馴染だ。改めて宜しくな」
「……はい、クリス様」
わたし達は昔の様に、自然に微笑み合った。お互い嫌いあっての婚約解消ではない。ただ、クリス殿下が恋をされただけだ。……そういや、クリス殿下って何故わたしを婚約者に選ばれてたのだろう。気心の知れた幼馴染だから? まぁ、今更そんな事いっか。
ええ、存在だけですけどね。全く関わった事ありませんが。
「彼女は非常に優秀な女性だ」
「…………はい?」
「そしてとても美しい」
「は?」
クリス殿下は目を閉じて、ココレシア嬢の姿を思い浮かべている様だ。わたしはむしろ、話の展開が余計に見えなくなって混乱している。そりゃ確かにココレシア嬢はとても美しい方だと思う。深窓の令嬢とでも言うのだろうか、プラチナブロンドに深いグリーンの大きな瞳がとても儚げで庇護欲をそそるお方だ。
「私は彼女に心を奪われてしまったのだ」
「……」
クリス殿下の発言に口をあんぐりと開けてしまいそうになった。あー……そういう事ですか。元々わたし達の間に恋愛感情は無く、幼馴染ではあるけれど形だけの婚約者だ。
「要するに、クリス殿下はココレシア嬢と結婚されたいという事ですか?」
「そうだ、だから私と君との婚約は解消される」
「破棄でなく、解消と受け取って宜しいのですよね?」
「ん? どちらでも変わらないだろう」
いやいや、変わらない訳ないでしょう! 婚約破棄と婚約解消じゃ、我が侯爵家への風当たりが違ってくるんだけど。そんな事も分からないなんて……あぁ、そうだった、クリス殿下はあまり頭が回るお方ではなかったわ。
「婚約を取り消される事自体は別に構わないのですが」
「おお、そうか」
あからさまに嬉しそうな顔をするクリス殿下。いや、まぁ別に良いんだけどさ。少しは現婚約者に配慮しようよ。
「こちらに落ち度がなく、そちらの都合で婚約を無くすというのであれば“婚約破棄”ではなく“解消”か“白紙撤回”として頂くのが流儀かと」
「なるほど。確かにそうだな、分かった。そうしよう」
「この事は陛下にはもう許可を取られているのですか?」
「ああ、ここに書類を貰っている」
ゴソゴソと執務机の引き出しを開けて書類を出そうとしているクリス殿下。中から丸まった羊皮紙や、壊れた羽ペンの羽部分だけとか、何かよく分からない小石だとか、色々机の上に出て来る。……小学生の机の中みたいでちょっとドン引きする。子供の頃から全然成長してないのよね、と母親の様な生暖かい視線でその様子を見つめるわたし。
「殿下、そこじゃなくて、こっちの引き出しに入れているのを見ましたよ」
「ん、そうだったかな」
わたしの後ろに控えていたクリス殿下の側近のオーフェンが痺れを切らしたのか、殿下の傍に回り込む。オーフェンが指摘した場所を開けると、その書類はすぐに見つかった様だ。
「お、あった。これだ、これ」
広げられた書類は何故か下の方に茶色い染みが出来ているけど……まさかこれ、食べこぼしとかじゃないよね。クリス殿下ならあり得そうだけど、ここは敢えて見ない振りをしておこう。
「あ、婚約解消って書いてありますね」
「うん、そうだな。良かったなアリー、解消だ」
「あは……ソウデスネ」
なんだろ、なんかいつも疲れるわークリス殿下と居ると。
国王陛下と王妃陛下は珍しく恋愛結婚だった。それはわたしの両親も同じ。身分的に格差があれば色々問題もあるが、我が侯爵家は代々宰相を輩出している名門貴族の一つだ。特に問題は見当たらない。そもそも婚約させたがったのは、政略的な事ではなく王妃陛下とわたしの母が学生時代からの親友だったからというのも大きな理由だった。
それにしても王族との婚約がクリス殿下の一存で簡単に解消出来るとは思わなかったけど、既に陛下が許可を出したというのが少々不思議だ。陛下は腹の内が見えないお方だから、今回の件も何か考えがあっての事なのかもしれない。
「では、この書類はネリネ侯爵家の邸に送らせるので速やかに手続きを頼むぞ」
「畏まりました、クリス殿下」
「あ、それからアリー」
「はい」
「婚約は無くなったが、オレ達はこれからも幼馴染だ。改めて宜しくな」
「……はい、クリス様」
わたし達は昔の様に、自然に微笑み合った。お互い嫌いあっての婚約解消ではない。ただ、クリス殿下が恋をされただけだ。……そういや、クリス殿下って何故わたしを婚約者に選ばれてたのだろう。気心の知れた幼馴染だから? まぁ、今更そんな事いっか。
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