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第一章
ヒューの気持ち
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それから数日後――。あたしがエバーンズから求婚されたという噂があっという間に学園には広まっていた。家族以外は誰も知らない筈なのに、何故か知られている。頭を抱えるあたしにエバーンズは「ごめんね、何処から漏れたんだろう……」なんて言っているけど、あたしは知っている。これはマジャナン侯爵家がわざと広めた噂だという事を。
ゲーム中盤辺りでエバーンズルートを選択していた場合、婚約の打診すらまだ受けていない状態でエバーンズとの噂が学園中に広がる。それに驚くヒロインとエバーンズだけど、エバーンズはこれ幸いにとヒロインへ自分の想いを打ち明けて来るのだ。それまで仲の良い友人としか見ていなかったヒロイン(プレイヤーとしてはガッツリ攻略中なのだけど)は、この事をきっかけにエバーンズの事を意識し始めるようになる。
そしてゲーム後半のメインパートである魔物退治を一緒にしていく内に、エバーンズの事を好きになっていき二人は結ばれる……といった流れになっている。実際に婚約するのはエンディング直前だ。そして後に販売された追加ファンディスクでは、実はあの噂はマジャナン侯爵家がわざと流してあたしの外堀を埋めていったのだったと明かされる。
可愛い顔して腹黒いエバーンズの策略に落ちちゃったんだよね、ヒロインは。エンディング後はなかなかなヤンデレっぷりを披露してくれるエバーンズだけど、ヒロインは幸せそうなのでゲームとしてはお腹いっぱい大満足なエバーンズルートだったりする。そう、ゲームだからそれでも良いのよ。
だけど、ここは現実――――。あたしは今、とっても困った事態に陥っていた。
「……本当なのか、エバーンズと婚約するって」
「いや、まだ決まった訳じゃ……」
只今ヒューとのイベントが起きてしまっています……。何故か誰も居ない空き教室で、更に何故かヒューから壁ドンされて問い詰められています。いつものヒューと違って、凄く真剣な顔でしかも少し怒っているみたいでちょっと怖い。
両手で逃げ場を塞がれているので、身動きが取れないし。それになにより、顔が近い! もの凄く近いよ、ヒュー!
「オレの気持ち、少しは届いているかと思っていたけど……違ってたみたいだな」
「あのね、ヒュー。ちょっと落ち着こう、ねっ?」
「こうなったらちゃんと気持ちを伝えるよ、パフィット」
「いやいやいや、ダメだから! それ言っちゃまだダメだから! お願いちょっと待っ……」
「オレはお前の事が好……もががががっ」
「だめーっ!」
相変わらずシナリオ通りな台詞で告白をかましてくるヒューの口を無理矢理両手で塞ぐ。だけどそんなかよわい少女の手なんて、あっという間に解かれて「好きだっ!!」と叫ばれてしまった。あたしの両手首はそのまま壁へと押し付けられて……更にヒューとの距離が近くなる。
「…………好き、なんだ。オレを選んでくれ、頼む」
「ヒュー……」
情熱的な告白の後に、泣きそうに呟かれた言葉――。イベントそのままの台詞だけど、画面越しで見ていたのと実際に体験するのでは全然違う。
「返事は今じゃなくていい、待つから」
そう言ってヒューは教室を出て行った。残されたあたしは、その場に崩れ落ちる。
「……っ、は、破壊力半端なさすぎ……さすが攻略対象者……」
ドキドキが止まらない胸を押さえて蹲る。何あの泣きそうな表情…………こっちまで泣きそうになっちゃった。だけど、あたしは未だにエバーンズもヒューも、恋愛対象として見れていない。どうにかしないといけないと思いつつ、答えが出せずにここまで来てしまった。
「どうしたらいいの……このままじゃ、ただ二人を弄んでるだけだわ」
「……まさに、その通りだな」
突然聞こえて来た声に驚いて振り向くと、教室の入口にマーカイルが立っていた。
ゲーム中盤辺りでエバーンズルートを選択していた場合、婚約の打診すらまだ受けていない状態でエバーンズとの噂が学園中に広がる。それに驚くヒロインとエバーンズだけど、エバーンズはこれ幸いにとヒロインへ自分の想いを打ち明けて来るのだ。それまで仲の良い友人としか見ていなかったヒロイン(プレイヤーとしてはガッツリ攻略中なのだけど)は、この事をきっかけにエバーンズの事を意識し始めるようになる。
そしてゲーム後半のメインパートである魔物退治を一緒にしていく内に、エバーンズの事を好きになっていき二人は結ばれる……といった流れになっている。実際に婚約するのはエンディング直前だ。そして後に販売された追加ファンディスクでは、実はあの噂はマジャナン侯爵家がわざと流してあたしの外堀を埋めていったのだったと明かされる。
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だけど、ここは現実――――。あたしは今、とっても困った事態に陥っていた。
「……本当なのか、エバーンズと婚約するって」
「いや、まだ決まった訳じゃ……」
只今ヒューとのイベントが起きてしまっています……。何故か誰も居ない空き教室で、更に何故かヒューから壁ドンされて問い詰められています。いつものヒューと違って、凄く真剣な顔でしかも少し怒っているみたいでちょっと怖い。
両手で逃げ場を塞がれているので、身動きが取れないし。それになにより、顔が近い! もの凄く近いよ、ヒュー!
「オレの気持ち、少しは届いているかと思っていたけど……違ってたみたいだな」
「あのね、ヒュー。ちょっと落ち着こう、ねっ?」
「こうなったらちゃんと気持ちを伝えるよ、パフィット」
「いやいやいや、ダメだから! それ言っちゃまだダメだから! お願いちょっと待っ……」
「オレはお前の事が好……もががががっ」
「だめーっ!」
相変わらずシナリオ通りな台詞で告白をかましてくるヒューの口を無理矢理両手で塞ぐ。だけどそんなかよわい少女の手なんて、あっという間に解かれて「好きだっ!!」と叫ばれてしまった。あたしの両手首はそのまま壁へと押し付けられて……更にヒューとの距離が近くなる。
「…………好き、なんだ。オレを選んでくれ、頼む」
「ヒュー……」
情熱的な告白の後に、泣きそうに呟かれた言葉――。イベントそのままの台詞だけど、画面越しで見ていたのと実際に体験するのでは全然違う。
「返事は今じゃなくていい、待つから」
そう言ってヒューは教室を出て行った。残されたあたしは、その場に崩れ落ちる。
「……っ、は、破壊力半端なさすぎ……さすが攻略対象者……」
ドキドキが止まらない胸を押さえて蹲る。何あの泣きそうな表情…………こっちまで泣きそうになっちゃった。だけど、あたしは未だにエバーンズもヒューも、恋愛対象として見れていない。どうにかしないといけないと思いつつ、答えが出せずにここまで来てしまった。
「どうしたらいいの……このままじゃ、ただ二人を弄んでるだけだわ」
「……まさに、その通りだな」
突然聞こえて来た声に驚いて振り向くと、教室の入口にマーカイルが立っていた。
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