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第一章
なんだこれ
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「はい、あーん♡ 美味しいですか? 殿下」
「もぐっ……あぁ、とても美味しいよ」
「…………」
目の前で繰り広げられているこの光景はなんなんだろう。あたしは口をあんぐり開けたまま、持っているスプーンからスープが皿へと流れ落ちていく事すら気にも留める余裕がなかった。
「うっ……なにかな、この暑苦しいお二人は」
「パフィット、スープこぼしてるぞ」
あたしの両横でエバーンズが苦笑いを浮かべ、ヒューはパンを豪快に齧りながらあたしの手元の心配をしてくれている。そしてテーブルを挟んで向かい側に座って「あはは」「うふふ」な光景を繰り広げていらっしゃるのは、カイラード殿下と悪役令嬢パールルーシャ。
――カラン。
持っていたスプーンを置き、あたしは熱々なお二人に自分が直面している疑問をぶつけてみる。
「どうしてお二人がここで食事されてるのですか!?」
「え、さきほど“一緒にいいか?”と許可は取ったぞ」
「そうですけど! ええ、確かにそうですけど!」
そう、確かにいつもの様にエバーンズとヒューと三人で昼食のテーブルを囲んでいた所に、カイラード殿下とパールルーシャが食事の乗ったトレーを持ってやって来て「ここに座って良いか?」と聞かれた。断る理由もないしオッケーしたのだが、まさかこんなラブラブ風景を見せつけられるとは思ってもなかった。
「イチャイチャしたいのなら、お二人だけで食事されれば良いでしょう!?」
「いや、なんとなく。カルベロス嬢の傍はなんだか面白そうなのでな」
「なんとなくですけど、貴方となら仲良くなれると思いましたの」
なんとなく、とかで選ばないで欲しい……。とか話しつつも、互いの腕をツンツンと突つき合ってじゃれるの止めて下さい。めちゃ花飛んでますよね? ここ。
「べふに、いひんひゃほいか? オヘはひゃへはひへも、ひひはらはいひ」
「何言ってるのか分からないから! むしろ何言ってるのかが気になって仕方ないから!」
口の中に食べ物を目一杯詰め込んだままヒューが答えるけど、マジで何言ってるのか分からない。
「“別にいいんじゃないか? オレは誰が居ても、気にならないが”だ、そうだよ」
溜め息をつきつつ、エバーンズが通訳してくれる。いつの間にかなにげに仲良しなんだよな、この二人。
「はぁ……好きにして下さい」
どうせイヤだって言ったら余計に面倒な事になりそうだし。うん、もういいよ。仲良し五人組結成だよ。
「そういえば、もうすぐ君たち一年生は魔力の属性判定だね」
諦めてコーンスープをすすっていると、カイラード殿下が思い出したかのように話題を出して来た。あぁ、属性判定か……。ゲームでの記憶を引っ張り出す。この世界には魔法がある。国によって、魔法を使える人たちの人口比率は変わるのだけど、ここモフテテ王国では王族も貴族も、そして庶民の誰しもが魔力を持って生まれてくる。魔法があって当たり前な国だったりする。
それぞれの持つ魔力量は王族と貴族が群を抜いて高い。一方庶民は魔力量が非常に少ない。せいぜい出来るのが火魔法でランプに灯りを灯したり、水魔法で一口分くらいの水を出したり出来るくらい。中にはそれすら出来ない魔力ほぼゼロな人も居る。そんな人たちの助けとして、魔法を込めて作った魔道具がこの国の民たちの為に日々研究・開発されているのだ。
ここ王立学園は王侯貴族だけでなく庶民でも一定以上の魔力量を持っていると入学出来る。授業料も庶民は無料。その分、王族や貴族の生徒たちの家からぶんだくって賄っているらしい。これも貴族としての務めである。因みに魔力量が少ない特に庶民たちは、街や村にある小さな学校に入学して学ぶ事が出来る。ここも勿論授業料は各地の領主たちが負担している。なのでこの国の識字率はかなり高い。
入学からそろそろ三ヶ月目を迎える頃だが、今までは魔法についての基礎的な知識を教科書を使って学んできた。そして、そろそろ実技授業が開始される事になっている。
「そうですね、来週から実技が始まるらしいです」
エバーンズが殿下に答える。一般的に適性のある属性は一人一つずつという事が多い。そん中、クラスメイトであるエバーンズは魔法師団長の息子だけあって、火・水・土の三つの属性持ちというイレギュラーな存在だ。まだ判定されてないけどね。
「どの属性があるのか楽しみだな。ちなみにオレは風属性だぜ」
二年生のヒューは自分の胸元に光る属性を示すバッジを指差した。あ、このバッジって属性判定した後に各生徒に配られるやつだ。
「私は光と雷だ」
さすが王族。二つもお持ちなのですよね、そして魔力量も結構多い。
「わたくしは闇です……」
少し恥ずかしそうにパールルーシャは言うけど、この世界では闇属性は忌み嫌われている訳ではない。むしろ闇魔法は攻撃力が高いから重宝されている。ただ貴族の令嬢としては、水とか風とかの方が可愛い感じするもんね。仕方ないよね、悪役令嬢だもん。
「結構バラけてるんですね」
あたしはヒロインなので聖属性持ちなのは知ってるんだけどね。聖属性は滅多に現れないから、属性判定のイベントでどよめかれるんだろうなぁ……。
「もぐっ……あぁ、とても美味しいよ」
「…………」
目の前で繰り広げられているこの光景はなんなんだろう。あたしは口をあんぐり開けたまま、持っているスプーンからスープが皿へと流れ落ちていく事すら気にも留める余裕がなかった。
「うっ……なにかな、この暑苦しいお二人は」
「パフィット、スープこぼしてるぞ」
あたしの両横でエバーンズが苦笑いを浮かべ、ヒューはパンを豪快に齧りながらあたしの手元の心配をしてくれている。そしてテーブルを挟んで向かい側に座って「あはは」「うふふ」な光景を繰り広げていらっしゃるのは、カイラード殿下と悪役令嬢パールルーシャ。
――カラン。
持っていたスプーンを置き、あたしは熱々なお二人に自分が直面している疑問をぶつけてみる。
「どうしてお二人がここで食事されてるのですか!?」
「え、さきほど“一緒にいいか?”と許可は取ったぞ」
「そうですけど! ええ、確かにそうですけど!」
そう、確かにいつもの様にエバーンズとヒューと三人で昼食のテーブルを囲んでいた所に、カイラード殿下とパールルーシャが食事の乗ったトレーを持ってやって来て「ここに座って良いか?」と聞かれた。断る理由もないしオッケーしたのだが、まさかこんなラブラブ風景を見せつけられるとは思ってもなかった。
「イチャイチャしたいのなら、お二人だけで食事されれば良いでしょう!?」
「いや、なんとなく。カルベロス嬢の傍はなんだか面白そうなのでな」
「なんとなくですけど、貴方となら仲良くなれると思いましたの」
なんとなく、とかで選ばないで欲しい……。とか話しつつも、互いの腕をツンツンと突つき合ってじゃれるの止めて下さい。めちゃ花飛んでますよね? ここ。
「べふに、いひんひゃほいか? オヘはひゃへはひへも、ひひはらはいひ」
「何言ってるのか分からないから! むしろ何言ってるのかが気になって仕方ないから!」
口の中に食べ物を目一杯詰め込んだままヒューが答えるけど、マジで何言ってるのか分からない。
「“別にいいんじゃないか? オレは誰が居ても、気にならないが”だ、そうだよ」
溜め息をつきつつ、エバーンズが通訳してくれる。いつの間にかなにげに仲良しなんだよな、この二人。
「はぁ……好きにして下さい」
どうせイヤだって言ったら余計に面倒な事になりそうだし。うん、もういいよ。仲良し五人組結成だよ。
「そういえば、もうすぐ君たち一年生は魔力の属性判定だね」
諦めてコーンスープをすすっていると、カイラード殿下が思い出したかのように話題を出して来た。あぁ、属性判定か……。ゲームでの記憶を引っ張り出す。この世界には魔法がある。国によって、魔法を使える人たちの人口比率は変わるのだけど、ここモフテテ王国では王族も貴族も、そして庶民の誰しもが魔力を持って生まれてくる。魔法があって当たり前な国だったりする。
それぞれの持つ魔力量は王族と貴族が群を抜いて高い。一方庶民は魔力量が非常に少ない。せいぜい出来るのが火魔法でランプに灯りを灯したり、水魔法で一口分くらいの水を出したり出来るくらい。中にはそれすら出来ない魔力ほぼゼロな人も居る。そんな人たちの助けとして、魔法を込めて作った魔道具がこの国の民たちの為に日々研究・開発されているのだ。
ここ王立学園は王侯貴族だけでなく庶民でも一定以上の魔力量を持っていると入学出来る。授業料も庶民は無料。その分、王族や貴族の生徒たちの家からぶんだくって賄っているらしい。これも貴族としての務めである。因みに魔力量が少ない特に庶民たちは、街や村にある小さな学校に入学して学ぶ事が出来る。ここも勿論授業料は各地の領主たちが負担している。なのでこの国の識字率はかなり高い。
入学からそろそろ三ヶ月目を迎える頃だが、今までは魔法についての基礎的な知識を教科書を使って学んできた。そして、そろそろ実技授業が開始される事になっている。
「そうですね、来週から実技が始まるらしいです」
エバーンズが殿下に答える。一般的に適性のある属性は一人一つずつという事が多い。そん中、クラスメイトであるエバーンズは魔法師団長の息子だけあって、火・水・土の三つの属性持ちというイレギュラーな存在だ。まだ判定されてないけどね。
「どの属性があるのか楽しみだな。ちなみにオレは風属性だぜ」
二年生のヒューは自分の胸元に光る属性を示すバッジを指差した。あ、このバッジって属性判定した後に各生徒に配られるやつだ。
「私は光と雷だ」
さすが王族。二つもお持ちなのですよね、そして魔力量も結構多い。
「わたくしは闇です……」
少し恥ずかしそうにパールルーシャは言うけど、この世界では闇属性は忌み嫌われている訳ではない。むしろ闇魔法は攻撃力が高いから重宝されている。ただ貴族の令嬢としては、水とか風とかの方が可愛い感じするもんね。仕方ないよね、悪役令嬢だもん。
「結構バラけてるんですね」
あたしはヒロインなので聖属性持ちなのは知ってるんだけどね。聖属性は滅多に現れないから、属性判定のイベントでどよめかれるんだろうなぁ……。
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