13 / 24
第一章
カイラード殿下のクッキーイベント
しおりを挟む
「君は……カルベロス嬢。久し振りだね」
「そ、そうですねー」
この状況でカイラード殿下を無視して去るわけにも行かず、あたしは招かれるまま殿下の傍へと歩みを進める。
「これ、君のかい? 魔法かなんかで操ってたの?」
「あー……そのような感じです」
この国には魔法が普通に存在している。この学園も魔力を持った者しか入学出来ず、そして貴族に生まれた者は多かれ少なかれ魔力を持っている。更に王族ともなればその力も膨大だ。本格的に魔力が目覚め始める十五歳になると、この学園で魔法の扱いを習う事になっている。
だから、まぁ……クッキーの包みが宙を浮いていても、飛んでいても、そんなに問題ではない。――ではない、筈よね? いや、ビックリはするだろうけど。
「何が入っているの?」
「焼き菓子……です」
「へぇ……もしかして君の手作り?」
「そ、そうですね……」
うわっ、めちゃ食べたそうにしてこっちを見てる! なにその期待している顔! てゆーか、これってアレよね。カイラード殿下のイベントだよね。
「実はその包み、さっきどうやっても開かなくて」
「そうなの?」
そう言ってカイラード殿下はリボンに手を伸ばし、するっとほどかれた。
――うがっ! やっぱりイベント用だったからリボンほどけなかったのか!
「ほどけたけど……」
「そ、そのようですね」
「可愛らしいクッキーだね」
カイラード殿下が自身の膝の上で包みを開くと、そこには絞りクッキー、ボックスクッキー、ジャムサンドクッキーと種類豊富なラインナップだ。夜中に作りすぎじゃないか、これ。
「……お口に合うか分かりませんが、召し上がりますか?」
「あぁ! 是非とも」
凄く嬉しそうに顔を輝かせるカイラード殿下の姿に一瞬クラッとする。さすがメイン攻略対象者、その笑顔ひとつでどれだけのご令嬢が倒れる事か。
「うん、とても美味しい」
「それは、よろしゅうございました……」
キラキラとした笑顔でクッキーを食されるカイラード殿下の傍であたしは、遠い目をして噴水を見ていた。あぁ、これで三つ目のイベントをクリアしてしまった。という事は、そろそろ悪役令嬢であるクレア・ブルックが登場してくるかもしれない。
一応エバーンズとヒューのイベントはこなしてるんだけどなぁ。なんでカイラード殿下のイベント迄しなきゃいけないんだろう。……まさか卒業パーティの断罪劇を目指させてるとか? いやいや、それはマジ勘弁して欲しい。
このカイラード殿下を攻略した日には絶対お花畑になるの分かってるし、悪役令嬢と対立するのも嫌だし、エバーンズとヒューはなんだかタイプじゃないのか萌えないし、ワイアットにはまだ会ってないけど殿下と同じで婚約者居る訳だし、マーカイルはなんかアレだし……。
この先あたし、どう進めば良いんだろう。ヒロインに転生して嬉しかったけど、なんか思ってたのと違うわ。攻略対象者以外との恋愛とかしちゃダメなのかしらね。とか言いつつ、そんな当てもないんだけどさ。
「そ、そうですねー」
この状況でカイラード殿下を無視して去るわけにも行かず、あたしは招かれるまま殿下の傍へと歩みを進める。
「これ、君のかい? 魔法かなんかで操ってたの?」
「あー……そのような感じです」
この国には魔法が普通に存在している。この学園も魔力を持った者しか入学出来ず、そして貴族に生まれた者は多かれ少なかれ魔力を持っている。更に王族ともなればその力も膨大だ。本格的に魔力が目覚め始める十五歳になると、この学園で魔法の扱いを習う事になっている。
だから、まぁ……クッキーの包みが宙を浮いていても、飛んでいても、そんなに問題ではない。――ではない、筈よね? いや、ビックリはするだろうけど。
「何が入っているの?」
「焼き菓子……です」
「へぇ……もしかして君の手作り?」
「そ、そうですね……」
うわっ、めちゃ食べたそうにしてこっちを見てる! なにその期待している顔! てゆーか、これってアレよね。カイラード殿下のイベントだよね。
「実はその包み、さっきどうやっても開かなくて」
「そうなの?」
そう言ってカイラード殿下はリボンに手を伸ばし、するっとほどかれた。
――うがっ! やっぱりイベント用だったからリボンほどけなかったのか!
「ほどけたけど……」
「そ、そのようですね」
「可愛らしいクッキーだね」
カイラード殿下が自身の膝の上で包みを開くと、そこには絞りクッキー、ボックスクッキー、ジャムサンドクッキーと種類豊富なラインナップだ。夜中に作りすぎじゃないか、これ。
「……お口に合うか分かりませんが、召し上がりますか?」
「あぁ! 是非とも」
凄く嬉しそうに顔を輝かせるカイラード殿下の姿に一瞬クラッとする。さすがメイン攻略対象者、その笑顔ひとつでどれだけのご令嬢が倒れる事か。
「うん、とても美味しい」
「それは、よろしゅうございました……」
キラキラとした笑顔でクッキーを食されるカイラード殿下の傍であたしは、遠い目をして噴水を見ていた。あぁ、これで三つ目のイベントをクリアしてしまった。という事は、そろそろ悪役令嬢であるクレア・ブルックが登場してくるかもしれない。
一応エバーンズとヒューのイベントはこなしてるんだけどなぁ。なんでカイラード殿下のイベント迄しなきゃいけないんだろう。……まさか卒業パーティの断罪劇を目指させてるとか? いやいや、それはマジ勘弁して欲しい。
このカイラード殿下を攻略した日には絶対お花畑になるの分かってるし、悪役令嬢と対立するのも嫌だし、エバーンズとヒューはなんだかタイプじゃないのか萌えないし、ワイアットにはまだ会ってないけど殿下と同じで婚約者居る訳だし、マーカイルはなんかアレだし……。
この先あたし、どう進めば良いんだろう。ヒロインに転生して嬉しかったけど、なんか思ってたのと違うわ。攻略対象者以外との恋愛とかしちゃダメなのかしらね。とか言いつつ、そんな当てもないんだけどさ。
1
お気に入りに追加
560
あなたにおすすめの小説
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
今日結婚した夫から2年経ったら出ていけと言われました
四折 柊
恋愛
子爵令嬢であるコーデリアは高位貴族である公爵家から是非にと望まれ結婚した。美しくもなく身分の低い自分が何故? 理由は分からないが自分にひどい扱いをする実家を出て幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱く。ところがそこには思惑があり……。公爵は本当に愛する女性を妻にするためにコーデリアを利用したのだ。夫となった男は言った。「お前と本当の夫婦になるつもりはない。2年後には公爵邸から国外へ出ていってもらう。そして二度と戻ってくるな」と。(いいんですか? それは私にとって……ご褒美です!)
婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪
naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。
「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」
まっ、いいかっ!
持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
ある王国の王室の物語
朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。
顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。
それから
「承知しました」とだけ言った。
ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。
それからバウンドケーキに手を伸ばした。
カクヨムで公開したものに手を入れたものです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
筆頭婚約者候補は「一抜け」を叫んでさっさと逃げ出した
基本二度寝
恋愛
王太子には婚約者候補が二十名ほどいた。
その中でも筆頭にいたのは、顔よし頭良し、すべての条件を持っていた公爵家の令嬢。
王太子を立てることも忘れない彼女に、ひとつだけ不満があった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私はヒロインを辞められなかった……。
くーねるでぶる(戒め)
恋愛
私、砂川明は乙女ゲームのヒロインに転生した。どうせなら、逆ハーレムルートを攻略してやろうとするものの、この世界の常識を知れば知る程……これ、無理じゃない?
でもでも、そうも言ってられない事情もあって…。ああ、私はいったいどうすればいいの?!
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
悪役令嬢と言われ冤罪で追放されたけど、実力でざまぁしてしまった。
三谷朱花
恋愛
レナ・フルサールは元公爵令嬢。何もしていないはずなのに、気が付けば悪役令嬢と呼ばれ、公爵家を追放されるはめに。それまで高スペックと魔力の強さから王太子妃として望まれたはずなのに、スペックも低い魔力もほとんどないマリアンヌ・ゴッセ男爵令嬢が、王太子妃になることに。
何度も断罪を回避しようとしたのに!
では、こんな国など出ていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる