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第一章

魔術師団長と騎士団長のご令息

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 ゲーム開始から二日目。あたしは細心の注意を払いながら登校し、無事にカイラード殿下と遭遇する事もなく自身の教室へと辿り着いた。黒板に書かれている座席表に従い、決められた座席に着く。あたしの席は丁度真ん中の列の一番後ろだった。ブルーニクスも同じクラスで、廊下側の一番後ろだ。

 前の方の座席はどうやら高位貴族の方々が占めている様で、貴族とはいえ末席に近い男爵家や庶民の生徒たちは後方の席に追いやられている。むしろ一番後ろの方が教師の目から遠いし、楽で嬉しいんだけど高位貴族たちは違うのかしらね。まぁ、貴族だらけの学園だから庶民とかほぼ居ないんだけどさ。

「うわ、君メチャクチャ可愛いね。僕、エバーンズ・マジャナン。宜しくね」
「あ、パフィット・カルベロスです」

 急に話し掛けて来たのは若草色の髪をしたちょっと軽そうな少年だ。

 ――エバーンズだわ! へぇ、このタイミングで話し掛けて来るのね。

 ゲーム通りに爽やかな笑顔を貼り付けたエバーンズは、攻略対象者の一人で魔術師団長であるマジャナン侯爵家の嫡男だ。一見、人懐こそうで優しい雰囲気だけど実は腹黒さのあるヤンデレ気質担当。攻略対象者の中でも彼だけがクラスメイトとして登場する。

 ――エバーンズは熱狂的なファンが多いのよね。可愛い顔とのギャップ萌えってやつで。

 改めて目の前に居るエバーンズの顔を見つめる。二重の瞳は少し垂れ目気味で、ぷにぷにと柔らかそうな頬と薄い唇。あぁ……カッコ可愛いわぁ。ふふ、エバーンズなら婚約者も居ないし狙ってみても良いかな。

 そう思いながら彼の背中を目で追っていると、美しい女性を見つける度にあたしと同じ様に声を掛けては挨拶をしていく。

「……そうだった。あんな顔してプレイボーイだったわ」

 一気に熱が引いてガックリと項垂れる。エバーンズは最初から馴れ馴れしくて、冷たい態度を取らないから勘違いしやすいのだけど実は攻略対象者の中でも一番難易度が高い。なかなか本気になってくれないのだ。

「保留……て事にしよう、うん」

 気持ちを切り替えて、今度は昼休みに裏庭へと足を運んでみた。確かここで騎士団長の息子、ヒュー・トッドスキウム公爵令息との出逢いイベントが起こった筈……。

「あ……確かあの出逢いイベントって誰かが蹴り飛ばして来たサッカーボールを顔面キャッチしそうになって、それをヒューが助けてくれるってやつだ」
「危ないっ!」

 出逢い方を思い出してると急に誰かの叫び声が聞こえた。思わず条件反射で拳を握り、グーパンチで飛んできたボールをはじき返した。

 どっこぉおおおおん!…………。

 派手な音を響かせてサッカーボールは勢い良く空の彼方へと消えていく。あちゃ、やってしまった。

 そしてすぐ近くには、あたしを助けようと恰好良く片足を上げたままフリーズするヒュー・トッドスキウムの姿が。

「…………」
「…………」

 暫し互いに見つめ合った後、再びどこからともなくサッカーボールが二個あたしめがけて飛んで来た。そして今度こそ恰好良くそのボールをヒューが蹴り返そうとしたのだけど、いきなり姿を見せたブルーニクスが二個とも謎の剣で串刺しにした。

「え、なにその、まがまがしい雰囲気の剣。てかなんで防いじゃうかな」
「これは俺が作った魔剣“おどろおどろ”だ。そして俺は護衛なんだから守るのが普通だろう」
「魔剣自作しないでくれる!? てかネーミングセンス、相変わらずだな!」
「…………オレの見せ場が」

 ヒューは地面に“の”の字を描きながら座り込んでいる。

 ああ、ごめんねヒュー。せっかくの出逢いイベントなのに……と、どう声を掛けようか悩んでいたら……二度ある事は三度ある? これでもか! とやけくそ気味に、今度はサッカーボールが何十個も一気に飛んできた! ちょっ、だからこれ、誰が投げてんのよっ!?

「うっきゃああああああ」

 どこどこどこどこ! と、大量のボールが身体のあちこちに打ち込まれていく。ブルーニクスが何個かは魔剣おどろおどろでぶった切ってくれるけど、さすがのあたしもこれは避けきれない。そして悠々とボール一個を恰好良いポーズで蹴り飛ばしながら、ふうっ……と汗をぬぐってこちらを振り返るヒュー。おまっ、防ぐの一個かよ!

「危なかったな大丈夫か」
「見るからに大丈夫じゃないの、分かってるよね!?」
「オレはヒュー・トッドスキウムだ。宜しくな」
「“宜しくな”じゃないっ! 倒れてる少女をまずは起こしなさいよっ」
「いやぁ、カッコイイだなんて照れるな。オレは普通に君を助けただけだよ」
「無視かっ! どいつもこいつも、イベントに忠実だなっ」
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