【近々再開予定】ピンク頭と呼ばないで―攻略対象者がお花畑で萌えない為スルーして良いですか―

咲桜りおな

文字の大きさ
上 下
5 / 24
第一章

いざ、出陣! 入学式!

しおりを挟む
 あれから色々と小うるさいお義母さまとお姉さまを上手く手玉で転がしながら、無事に王立学園への入学の準備も整わせて……いよいよゲームの舞台である学園の入学式の日がやって来た。

「お嬢、今日から宜しくお願いします」

 そう言いながら馬車に乗り込んで来たのは、あたしと同じ様に学園の制服を身にまとった銀髪に漆黒の瞳の少年だ。彼は十五歳とまだ幼いながらもカルベロス商会の一線で働く商品開発技術者の一人で、主に魔道具の開発をしている。

 カルベロス商会の運営は我が父カルベロス男爵の妹夫婦が全面的に任されており、彼はその息子。いわゆる従兄弟ってやつだ。カルベロス男爵はお飾りの会長職で、実質は妹夫婦が手腕を発揮しているお陰で我が男爵家は裕福なのだ。男爵本人は仕事と言いつつ、遊び歩いているだけの人だったりする。お義母さま、お姉さまだけでなくホント使えないよね、揃いも揃って。

「こちらこそ宜しくね、ブルーニクス」

 一応あたしは本家の娘なので、商会の皆からは「お嬢様」とか「お嬢」とか呼ばれていたりする。同い年であるブルーニクスも、あたしの事をそう呼んでいる。こうして同じ馬車に乗っているのは、同じ学園に通学するからという事もあるのだけど……実はあたしの護衛も兼ねている。パッと見、細身だし強そうに見えないんだけどね……商団を率いて旅をする事もあるからか、商会の人間は皆強者揃いらしい。

「ごめんね、あたしの世話まで押し付けちゃって……その内、ちゃんとした人雇うから待ってて」

 フローラお姉さまにはちゃんとした護衛騎士を一人付けているのだが、あたしには誰も付けて貰えていなかったんだよね。入学を機に付けて欲しいって言ったら、それなら商会の誰かを選べと言われた。変な所でケチ臭いのは何でだ。

「ん……別に俺はこのままでも構わないよ。どうせ同じ場所に行くんだし」
「そう? じゃあ学生の間だけお願いしようかな」
「了解。んじゃ、ちょっと寝るから着いたら起こして」

 そう言うなり、ブルーニクスは目を閉じて眠り始めた。昔からそうだけど、結構マイペースなのよね……。まぁ、いいけど。

 ◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

 暫く馬車が走って、王都の中心部にある王立学園の正門をくぐり抜けた。そこから馬車停めのある場所まで走り、ようやく止まる。あたしはブルーニクスを起こして、馬車から降りると意気揚々と学園の地面へと足を下ろした。

 ブルーニクスは眠そうに欠伸を噛み殺し、ぼーっとした様子であたしの後ろに立っている。あたしは目の前に広がる景色に飛び跳ねたいくらいにテンションが上がっていた。ゲーム画面で見ていたあの学園に、今こうして居るんだわ。凄い、凄い、凄い!

 脳内でオープニングムービーを再生する。そう、このピンクの花びらが舞う校庭はまさしくあのゲーム画面そのものだ。入学式の今日は、確かメイン攻略対象者である第一王子との出逢いイベントがある。式典が行われる講堂へ行く道が分からなくて迷子になっているヒロインが、たまたま通りがかった第一王子と出逢うのだ。

「お嬢、皆もう向かい始めてるから行こうぜ」

 ブルーニクスに声を掛けられて、はたと我に返る。そうだ、第一王子は婚約者が居るから出逢いイベントを起こさなくても良いんだったわ。

「うん、そうね。行きましょ……う!? わっ、わっ? えっ?」

 皆が向かい始めた講堂の方へと足を向けようとすると、何故か色んな生徒たちにぶつかりまくって前へと進めない。ぶつかりまくってる内に人混みからはじき出されて、どんどんと講堂からは遠ざかっていってしまう。

「な、なに? えっ?」
「お嬢!?」

 そして生徒たちが居なくなったと思ったら、今度は教師たち、それから掃除のおじちゃんとか、何かの配達の人とかにぶつかられて……気が付いたら、ブルーニクスとあたしはその場に取り残されていた。

「何やってるんだよ、お嬢」
「いや……それがあたしにもサッパリ……」

 謎の現象に少しグッタリしていると、視界の端にキラキラと輝く金髪が見えた。

「……え」

 見覚えのあるその金髪をなびかせて、一人の生徒があたしの傍を右へ行ったり左へ行ったり……している。えーと……何してるんだろ、この人。てゆーか、もしかしなくても、第一王子様じゃないですかね?

 さわらぬ神に祟りなし! と、その場を離れようとするとキラキラ金髪王子がその行く手を塞ぐ様に立ちはだかる。それを避けてすり抜けようとしても、キラキラ金髪王子もそちらへと移動してくる。

「あああああああああ、なんなの、うっとおしいんですけどぉ!」

 思わず心の声そのまま発してしまったあたしに、“今、気付きました!”とばかりに金髪王子は急に目を合わせて来た。

「やぁ、もしかして迷子かい?」
「お前が迷子だろぉおおおおおおおおおお」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

【完結】貶められた緑の聖女の妹~姉はクズ王子に捨てられたので王族はお断りです~

魯恒凛
恋愛
薬師である『緑の聖女』と呼ばれたエリスは、王子に見初められ強引に連れていかれたものの、学園でも王宮でもつらく当たられていた。それなのに聖魔法を持つ侯爵令嬢が現れた途端、都合よく冤罪を着せられた上、クズ王子に純潔まで奪われてしまう。 辺境に戻されたものの、心が壊れてしまったエリス。そこへ、聖女の侍女にしたいと連絡してきたクズ王子。 後見人である領主一家に相談しようとした妹のカルナだったが…… 「エリスもカルナと一緒なら大丈夫ではないでしょうか……。カルナは14歳になったばかりであの美貌だし、コンラッド殿下はきっと気に入るはずです。ケアードのためだと言えば、あの子もエリスのようにその身を捧げてくれるでしょう」 偶然耳にした領主一家の本音。幼い頃から育ててもらったけど、もう頼れない。 カルナは姉を連れ、国を出ることを決意する。

嫁ぎ先(予定)で虐げられている前世持ちの小国王女はやり返すことにした

基本二度寝
恋愛
小国王女のベスフェエラには前世の記憶があった。 その記憶が役立つ事はなかったけれど、考え方は王族としてはかなり柔軟であった。 身分の低い者を見下すこともしない。 母国では国民に人気のあった王女だった。 しかし、嫁ぎ先のこの国に嫁入りの準備期間としてやって来てから散々嫌がらせを受けた。 小国からやってきた王女を見下していた。 極めつけが、周辺諸国の要人を招待した夜会の日。 ベスフィエラに用意されたドレスはなかった。 いや、侍女は『そこにある』のだという。 なにもかけられていないハンガーを指差して。 ニヤニヤと笑う侍女を見て、ベスフィエラはカチンと来た。 「へぇ、あぁそう」 夜会に出席させたくない、王妃の嫌がらせだ。 今までなら大人しくしていたが、もう我慢を止めることにした。

断罪現場に遭遇したので悪役令嬢を擁護してみました

ララ
恋愛
3話完結です。 大好きなゲーム世界のモブですらない人に転生した主人公。 それでも直接この目でゲームの世界を見たくてゲームの舞台に留学する。 そこで見たのはまさにゲームの世界。 主人公も攻略対象も悪役令嬢も揃っている。 そしてゲームは終盤へ。 最後のイベントといえば断罪。 悪役令嬢が断罪されてハッピーエンド。 でもおかしいじゃない? このゲームは悪役令嬢が大したこともしていないのに断罪されてしまう。 ゲームとしてなら多少無理のある設定でも楽しめたけど現実でもこうなるとねぇ。 納得いかない。 それなら私が悪役令嬢を擁護してもいいかしら?

ある王国の王室の物語

朝山みどり
恋愛
平和が続くある王国の一室で婚約者破棄を宣言された少女がいた。カップを持ったまま下を向いて無言の彼女を国王夫妻、侯爵夫妻、王太子、異母妹がじっと見つめた。 顔をあげた彼女はカップを皿に置くと、レモンパイに手を伸ばすと皿に取った。 それから 「承知しました」とだけ言った。 ゆっくりレモンパイを食べるとお茶のおかわりを注ぐように侍女に合図をした。 それからバウンドケーキに手を伸ばした。 カクヨムで公開したものに手を入れたものです。

婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?

こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。 「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」 そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。 【毒を検知しました】 「え?」 私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。 ※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです

嫌われ聖女さんはとうとう怒る〜今更大切にするなんて言われても、もう知らない〜

𝓝𝓞𝓐
ファンタジー
13歳の時に聖女として認定されてから、身を粉にして人々のために頑張り続けたセレスティアさん。どんな人が相手だろうと、死にかけながらも癒し続けた。 だが、その結果は悲惨の一言に尽きた。 「もっと早く癒せよ! このグズが!」 「お前がもっと早く治療しないせいで、後遺症が残った! 死んで詫びろ!」 「お前が呪いを防いでいれば! 私はこんなに醜くならなかったのに! お前も呪われろ!」 また、日々大人も気絶するほどの魔力回復ポーションを飲み続けながら、国中に魔物を弱らせる結界を張っていたのだが……、 「もっと出力を上げんか! 貴様のせいで我が国の騎士が傷付いたではないか! とっとと癒せ! このウスノロが!」 「チッ。あの能無しのせいで……」 頑張っても頑張っても誰にも感謝されず、それどころか罵られるばかり。 もう我慢ならない! 聖女さんは、とうとう怒った。

訳ありヒロインは、前世が悪役令嬢だった。王妃教育を終了していた私は皆に認められる存在に。でも復讐はするわよ?

naturalsoft
恋愛
私の前世は公爵令嬢であり、王太子殿下の婚約者だった。しかし、光魔法の使える男爵令嬢に汚名を着せられて、婚約破棄された挙げ句、処刑された。 私は最後の瞬間に一族の秘術を使い過去に戻る事に成功した。 しかし、イレギュラーが起きた。 何故か宿敵である男爵令嬢として過去に戻ってしまっていたのだ。

処理中です...