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第一章
お義母さま登場! ……で、何だっけ?
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「どういうつもりなの、パフィット!」
声を荒げてカルベロス男爵夫人、つまりあたしの継母が厨房へと入って来た。その後ろには先程あたしの部屋から逃げ出したフローラお姉さまも居る。
「……なにがですか? あ、お義母さまもクッキー召し上がります?」
あたしが訳が分からない風を装いながらクッキーの籠を持ち上げて見せると、あんぐりと口を開けて信じられない物でも見たかの様な表情をされた。
「そ、掃除はどうしたの!? まだ途中でしょう!」
「それはわたくしの仕事ではありませんから、致しませんわ」
「なんですって……」
お義母さまがギリギリと歯を食いしばりながら、眉間に血管を浮かしている。うーん、確かにこんな鬼の形相を見せられてたら逆らえずにいう事聞いていたのも分からないでもないかな。でも、だからといって怒鳴り付ければ何でもいう事聞くと思ったら大間違いだわ。
「そもそも!」
あたしは近くにあった大根を、お義母さまの方へとビシイッ!と向ける。……本当は扇子とかの方が恰好がつくんだけど、あいにく今手元には野菜しかないから我慢。傍に居るパンチェスから「大根て……」と小さな呟きが聞こえるけど無視だ。
大根を向けられたお義母様とフローラお姉さまの、突っ込みたいけど突っ込んで良いのか分からない何とも言い難い表情に……あたしはそっと大根を人参に持ち替えた。
「いや、人参もどうかと思いますが……」
パンチェスからの突っ込みが入る。
「だって大根重いんだもの! と、とにかく! わたくしが掃除や洗濯なんかしたら、本職のメイドたちがする仕事が無くなって困るでしょう! それでなくても雇っている使用人の数も無駄に多いんですから。暇を持て余し過ぎて、編みぐるみ教室とか野球部とか出来てるのよ」
「なっ……編みぐるみ……う、羨まし……私も参加したいですわ」
「わたくし! わたくしは是非、野球部のマネージャーをやりたいですわ、お母さま」
いや、そこで参加表明しないで! てゆーか、何で編みぐるみとか野球とかあるのよ。ゲームだから? とことん緩い設定ね、ここ! 他も色々設定緩いけどね。
「えーと、とにかく! これからは、理不尽な命令には従いませんので」
「そんな勝手な言い訳が通用すると思って……むごっ!?」
お義母さまがあたしの腕を無理矢理掴んでこようとしたので、思わず持っていた人参をお義母さまの口へと突っ込んでしまった。あ……お義母さまが目を白黒させながら固まってらっしゃる。そうよね、人生の中で生の人参を口から突っ込まれる経験って、そうそう無いわよね。
「……あ、良かったら玉ねぎも如何ですか」
「っ……うっご……?」
戸惑いながらも、ゆっくりと人参を口から引っ張り出すお義母さま。顔を引きつらせながらその様子を見ているフローラお姉さま。
「お、お肉……とかも合いますわね。パンチェス、お義母さまに牛肉を!」
「はい、お嬢様」
パンチェスがお義母さまの手に、そっと牛肉を乗せる。隣に居るフローラお姉さまには玉ねぎを。そして元居た場所へと戻る時に見えたのは、顔を真っ赤にしながら吹き出すのをどうにか抑えているパンチェスの顔だった。ひ、酷いわ、あたしだって笑いを堪えるのに必死なのに煽らないで!
相変わらず、何が起こっているのか理解できずに呆けているお義母さまとフローラお姉さまの傍へと可愛らしく駆け寄り……にっこり、と天使の様に微笑みかける。
「はい、これもどうぞ。甘口しか無いですけど」
「え?」
フローラお姉さまの空いている左手に小さな箱を渡す。それを不思議そうな顔をして見つめるお姉さまとお義母さま。
「これでカレーの材料が揃いましたわ。おめでとう御座います」
「……まぁ、そうなの?」
「カレー!? あの美味しいカレーが、これで出来るの?」
パンチェスと一緒に、うんうんと頷くあたし。お義母さまたちは虚を突かれすぎて、もはや何を怒っていたのか忘れてしまっている様だ。
「詳しい作り方はパンチェスが教えてくれますわ。お姉さまがお慕いしているマダディスカ伯爵家のロドルフォン様は、カレーが大好物との事。頑張って! お姉さま」
あたしの言葉にフローラお姉さまがパアアアアアアッと顔を輝かす。
「お母さま、わたくしカレーを作りたいですわ!」
「ええ、ええ、作りましょう! パンチェス、作り方を今すぐ教えなさい」
「因みに、わたくしからはトマトをペースト状にしてを入れるのをお薦め致しますわ」
「「ありがとう!」」
満面の笑みであたしにお礼を返す二人に、笑顔で手をフリフリしながら水差しとコップを抱えながら部屋へと戻るあたしだった。
――うん、何だったのかあたしもよく分からなくなってるけど。単純な二人で良かった。
声を荒げてカルベロス男爵夫人、つまりあたしの継母が厨房へと入って来た。その後ろには先程あたしの部屋から逃げ出したフローラお姉さまも居る。
「……なにがですか? あ、お義母さまもクッキー召し上がります?」
あたしが訳が分からない風を装いながらクッキーの籠を持ち上げて見せると、あんぐりと口を開けて信じられない物でも見たかの様な表情をされた。
「そ、掃除はどうしたの!? まだ途中でしょう!」
「それはわたくしの仕事ではありませんから、致しませんわ」
「なんですって……」
お義母さまがギリギリと歯を食いしばりながら、眉間に血管を浮かしている。うーん、確かにこんな鬼の形相を見せられてたら逆らえずにいう事聞いていたのも分からないでもないかな。でも、だからといって怒鳴り付ければ何でもいう事聞くと思ったら大間違いだわ。
「そもそも!」
あたしは近くにあった大根を、お義母さまの方へとビシイッ!と向ける。……本当は扇子とかの方が恰好がつくんだけど、あいにく今手元には野菜しかないから我慢。傍に居るパンチェスから「大根て……」と小さな呟きが聞こえるけど無視だ。
大根を向けられたお義母様とフローラお姉さまの、突っ込みたいけど突っ込んで良いのか分からない何とも言い難い表情に……あたしはそっと大根を人参に持ち替えた。
「いや、人参もどうかと思いますが……」
パンチェスからの突っ込みが入る。
「だって大根重いんだもの! と、とにかく! わたくしが掃除や洗濯なんかしたら、本職のメイドたちがする仕事が無くなって困るでしょう! それでなくても雇っている使用人の数も無駄に多いんですから。暇を持て余し過ぎて、編みぐるみ教室とか野球部とか出来てるのよ」
「なっ……編みぐるみ……う、羨まし……私も参加したいですわ」
「わたくし! わたくしは是非、野球部のマネージャーをやりたいですわ、お母さま」
いや、そこで参加表明しないで! てゆーか、何で編みぐるみとか野球とかあるのよ。ゲームだから? とことん緩い設定ね、ここ! 他も色々設定緩いけどね。
「えーと、とにかく! これからは、理不尽な命令には従いませんので」
「そんな勝手な言い訳が通用すると思って……むごっ!?」
お義母さまがあたしの腕を無理矢理掴んでこようとしたので、思わず持っていた人参をお義母さまの口へと突っ込んでしまった。あ……お義母さまが目を白黒させながら固まってらっしゃる。そうよね、人生の中で生の人参を口から突っ込まれる経験って、そうそう無いわよね。
「……あ、良かったら玉ねぎも如何ですか」
「っ……うっご……?」
戸惑いながらも、ゆっくりと人参を口から引っ張り出すお義母さま。顔を引きつらせながらその様子を見ているフローラお姉さま。
「お、お肉……とかも合いますわね。パンチェス、お義母さまに牛肉を!」
「はい、お嬢様」
パンチェスがお義母さまの手に、そっと牛肉を乗せる。隣に居るフローラお姉さまには玉ねぎを。そして元居た場所へと戻る時に見えたのは、顔を真っ赤にしながら吹き出すのをどうにか抑えているパンチェスの顔だった。ひ、酷いわ、あたしだって笑いを堪えるのに必死なのに煽らないで!
相変わらず、何が起こっているのか理解できずに呆けているお義母さまとフローラお姉さまの傍へと可愛らしく駆け寄り……にっこり、と天使の様に微笑みかける。
「はい、これもどうぞ。甘口しか無いですけど」
「え?」
フローラお姉さまの空いている左手に小さな箱を渡す。それを不思議そうな顔をして見つめるお姉さまとお義母さま。
「これでカレーの材料が揃いましたわ。おめでとう御座います」
「……まぁ、そうなの?」
「カレー!? あの美味しいカレーが、これで出来るの?」
パンチェスと一緒に、うんうんと頷くあたし。お義母さまたちは虚を突かれすぎて、もはや何を怒っていたのか忘れてしまっている様だ。
「詳しい作り方はパンチェスが教えてくれますわ。お姉さまがお慕いしているマダディスカ伯爵家のロドルフォン様は、カレーが大好物との事。頑張って! お姉さま」
あたしの言葉にフローラお姉さまがパアアアアアアッと顔を輝かす。
「お母さま、わたくしカレーを作りたいですわ!」
「ええ、ええ、作りましょう! パンチェス、作り方を今すぐ教えなさい」
「因みに、わたくしからはトマトをペースト状にしてを入れるのをお薦め致しますわ」
「「ありがとう!」」
満面の笑みであたしにお礼を返す二人に、笑顔で手をフリフリしながら水差しとコップを抱えながら部屋へと戻るあたしだった。
――うん、何だったのかあたしもよく分からなくなってるけど。単純な二人で良かった。
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