上 下
1 / 24
第一章

ピンク頭、覚醒!

しおりを挟む
「……う、うう、ん」

 あたしはズキズキとする頭を押さえながら、ベッドで目を覚ます。その視界に入るのは広い天井だった。何ココ……あたしの住んでるアパートの部屋じゃないよね。ぼんやりとそんな事を考えながら、起き上がるとまるでホテルのスイートルームみたいな部屋に居た。周りを見渡すとそこにはいかにも高級そうな家具が並んでいるのが見える。

「んーっ?」

 意識が次第にハッキリしだしてきて、ふとこの部屋が自分の部屋だという事も認識してきた。そうだ、ここはあたしが数年前から暮らしてきた部屋だ。じゃあさっきのアパートとか言うのは一体……。考えを巡らせてみると、アレは今のあたしじゃない前世での記憶だ。

「そうだわ……」

 今のあたしの名前はパフィット・カルベロス。ここ、モフテテ王国のカルベロス男爵家の令嬢だ。

 カルベロス男爵家は王国内外問わず手広く商売をしているカルベロス商会を有しており、男爵家と爵位は低いがかなり裕福だ。あたしは元々庶子で、数年前までは母親と二人で貧しい生活を送っていた。母を病気で亡くしてすぐ、あたしはこの男爵家の次女として引き取られた。

 突然現れた妾の子に当然、正妻である男爵夫人とその娘はあたしを毛嫌いした。父親であるカルベロス男爵は幼いあたしの世話を夫人へと押し付けたもんだから、そりゃあもう、毎日毎日あたしは酷い苛めにあっている。男爵家令嬢としての扱いはせず、まるで使用人かの様に家の仕事をやらせてはミスを見つけてののしるのだ。

 ――あぁ、ホント、うっざ。

 前世の記憶が無かった今までは、大人しく継母と腹違いの姉の言う事に従ってたけど……マジで何で大人しく聞いてたんだろう。今日も掃除の最中にわざと足を引っかけられて、そのせいで盛大にすっ転んで頭を打ったのだ。まぁ、お陰でこうして前世の記憶を思い出したのだけど。

「……おー! “悠久の刻をともに”のヒロインじゃん」

 ベッドから抜け出し、姿見に自分の姿を映してみる。そこには、ふわふわのピンクゴールドの長い髪に大きなパステルブルーの瞳を輝かせた美少女が映っていた。

「名前からして、まさかとは思ったけど……流行のゲーム転生ってやつ?」

 角度を色々変えて鏡の中の美少女の姿を堪能する。よく覚えては無いけど、あたしは前世で死んでこの世界に生まれ変わったという事よね。前世で散々遊んでいた乙女ゲームの世界に転生するだなんて、本当にあるんだなぁ。

「て事は、攻略対象者たちも居るって事だよね。確かもうすぐ入学式だ! 楽しみ~」

 ゲーム画面で見ていたあのキラキラした素敵な攻略対象者たちと、もうすぐ出会えると思うと楽しみで仕方がない。あ……でも、ちょっと待ってよ。あたしがヒロインだという事は、悪役令嬢も居るって事だよね?

「うーん、最近は悪役令嬢からヒロインが“ざまぁ”されるのがテンプレになってるからなぁ……それは嫌だなぁ。別に逆ハーしたい訳でもないし、出来たら悪役令嬢とも仲良くなれないかしらね」

 鏡の前で腕を組みつつ、物思いにふける。王子を攻略しなければ悪役令嬢も手出しして来ないのかな? それに婚約破棄とかされてもねぇ……婚約者居る時点で攻略したらダメでしょ普通。そんな浮気男なんてそもそも要らないし~。

「よしっ! 攻略するのなら婚約者の居ない人にしよう。んで、なるべく平和に過ごそう!」

 これからの方針は取り敢えず決まった。あとは……今の立場を何とかしなくちゃね。

「まずは、お義母さまとお姉さまへの反撃開始と行きますかね~」

 あたしはニヤリと微笑んだ。悪そうに微笑んだのに、鏡の中の美少女はとても可憐だ。うん、美少女って、ヒロインって凄いなマジで。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

選ばれたのは私ではなかった。ただそれだけ

暖夢 由
恋愛
【5月20日 90話完結】 5歳の時、母が亡くなった。 原因も治療法も不明の病と言われ、発症1年という早さで亡くなった。 そしてまだ5歳の私には母が必要ということで通例に習わず、1年の喪に服すことなく新しい母が連れて来られた。彼女の隣には不思議なことに父によく似た女の子が立っていた。私とあまり変わらないくらいの歳の彼女は私の2つ年上だという。 これからは姉と呼ぶようにと言われた。 そして、私が14歳の時、突然謎の病を発症した。 母と同じ原因も治療法も不明の病。母と同じ症状が出始めた時に、この病は遺伝だったのかもしれないと言われた。それは私が社交界デビューするはずの年だった。 私は社交界デビューすることは叶わず、そのまま治療することになった。 たまに調子がいい日もあるが、社交界に出席する予定の日には決まって体調を崩した。医者は緊張して体調を崩してしまうのだろうといった。 でも最近はグレン様が会いに来ると約束してくれた日にも必ず体調を崩すようになってしまった。それでも以前はグレン様が心配して、私の部屋で1時間ほど話をしてくれていたのに、最近はグレン様を姉が玄関で出迎え、2人で私の部屋に来て、挨拶だけして、2人でお茶をするからと消えていくようになった。 でもそれも私の体調のせい。私が体調さえ崩さなければ…… 今では月の半分はベットで過ごさなければいけないほどになってしまった。 でもある日婚約者の裏切りに気づいてしまう。 私は耐えられなかった。 もうすべてに……… 病が治る見込みだってないのに。 なんて滑稽なのだろう。 もういや…… 誰からも愛されないのも 誰からも必要とされないのも 治らない病の為にずっとベッドで寝ていなければいけないのも。 気付けば私は家の外に出ていた。 元々病で外に出る事がない私には専属侍女などついていない。 特に今日は症状が重たく、朝からずっと吐いていた為、父も義母も私が部屋を出るなど夢にも思っていないのだろう。 私は死ぬ場所を探していたのかもしれない。家よりも少しでも幸せを感じて死にたいと。 これから出会う人がこれまでの生活を変えてくれるとも知らずに。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

あなたには彼女がお似合いです

風見ゆうみ
恋愛
私の婚約者には大事な妹がいた。 妹に呼び出されたからと言って、パーティー会場やデート先で私を置き去りにしていく、そんなあなたでも好きだったんです。 でも、あなたと妹は血が繋がっておらず、昔は恋仲だったということを知ってしまった今では、私のあなたへの思いは邪魔なものでしかないのだと知りました。 ずっとあなたが好きでした。 あなたの妻になれると思うだけで幸せでした。 でも、あなたには他に好きな人がいたんですね。 公爵令嬢のわたしに、伯爵令息であるあなたから婚約破棄はできないのでしょう? あなたのために婚約を破棄します。 だから、あなたは彼女とどうか幸せになってください。 たとえわたしが平民になろうとも婚約破棄をすれば、幸せになれると思っていたのに―― ※作者独特の異世界の世界観であり、設定はゆるゆるで、ご都合主義です。 ※誤字脱字など見直して気を付けているつもりですが、やはりございます。申し訳ございません。教えていただけますと有り難いです。

全力悪役令嬢! 〜王子の薄っぺらい愛など必要ありません〜

本見りん
恋愛
 ……それなら『悪役令嬢』、全力でやり遂げてやろうじゃないの!  日本人だった前世を思い出し、今の自分が『悪役令嬢』だと気付いたレティシア スペンサー公爵令嬢。  なんとか断罪を回避しようと対策を試みるも悉く失敗。それならと心優しい令嬢になろうと努力するが、何をしても《冷たい令嬢》だと言われ続けた。そしてトドメが婚約者フィリップ王子。彼も陰で対立派閥の令嬢にレティシアの悪口を話しているのを聞いてしまう。  ……何をしてもダメだというのなら、いっそのこと全力で悪役令嬢をやりきってやろうじゃないの!  そう決意したレティシアは、立派な? 『悪役令嬢』となるべく動き出す。……勿論、断罪後の逃げ道も準備して。 『小説家になろう』様にも投稿しています。こちらは改訂版です。 『ハッピーエンド?』とさせていただきました。 が、レティシア本人的には満足だと思います!

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

【完結】実は白い結婚でしたの。元悪役令嬢は未亡人になったので今度こそ推しを見守りたい。

氷雨そら
恋愛
悪役令嬢だと気がついたのは、断罪直後。 私は、五十も年上の辺境伯に嫁いだのだった。 「でも、白い結婚だったのよね……」 奥様を愛していた辺境伯に、孫のように可愛がられた私は、彼の亡き後、王都へと戻ってきていた。 全ては、乙女ゲームの推しを遠くから眺めるため。 一途な年下枠ヒーローに、元悪役令嬢は溺愛される。 断罪に引き続き、私に拒否権はない……たぶん。

[完結]本当にバカね

シマ
恋愛
私には幼い頃から婚約者がいる。 この国の子供は貴族、平民問わず試験に合格すれば通えるサラタル学園がある。 貴族は落ちたら恥とまで言われる学園で出会った平民と恋に落ちた婚約者。 入婿の貴方が私を見下すとは良い度胸ね。 私を敵に回したら、どうなるか分からせてあげる。

処理中です...