モブ令嬢はシスコン騎士様にロックオンされたようです~妹が悪役令嬢なんて困ります~

咲桜りおな

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第二章

第三十二話 ヒロインの処遇

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 ひんやりとして少し淀んだ空気がまとう地下牢へと続く扉を開けた。中の見張り兵に殿下が合図をして、兵を廊下へと退出させる。それを確認して、殿下とわたしは檻の傍へと近付いた。

「……アル様……と、モブ女? なんだ、あのクルクル男、失敗したのね」

 わたしの姿を見つけると、大きなため息をつきながら悪態をつくヒロイン。

「ええ、お陰様で無事よ。モブで悪かったわね、さん」
「……!? ……ははっ、なんだ。なのね」

 わたしの言葉の意味に気付いたヒロインは驚いた顔を少し見せたが、すぐに苦々しく笑った。

「まぁ、そういう事だね。転生者は俺だけじゃなかったんだよ」

 そう言いながら殿下は壁にもたれて、腕を組みながらヒロインを面白いモノでも見る様に口角を上げた。うわ……悪そうな顔になってますよ、殿下。それがまた美形さを際立たせるのが憎らしい。

「はぁっ……何かズルイわよ。モブなのにタクト様を手に入れるなんて。どうせイベント起こして攻略したんでしょ?」
「してないわよ、そんな事」
「ええっ? じゃあ、何でタクト様に好かれてるのよ、おかしいじゃない」
「……普通に、恋愛しただけよ」
「はあ?」

 わたしの答えに納得いかないヒロインが声を荒げる。

「てゆーか、むしろ最初はモブに徹するつもりだったし。こういうゴタゴタに巻き込まれたくないから、推しを遠くから眺めようと思ったの」
「……何よソレ、勿体ない。わたしならモブでもガンガン攻略するわ」
「そうでしょうね。でも、わたしはそのつもりは無かったの。タクト様とこうなったのは、今でも何でか分からないけど」

 ヒロインが殿下の方をいぶかしげに見た。

「ゼフィーの言う通りだよ。シナリオ無視して、タクトが勝手にゼフィーに恋したみたいなんだ。まぁ、きっと彼女の面白可笑しさにハマったんじゃないかな」

 そう言ってクスクスと笑う殿下。面白可笑しいって何なの、その評価。

「アル様……何ですか、それ。あなたも相当“面白可笑しい”ですよ?」

 ジト目で殿下を見ると、余計に笑いが止まらなくなったらしく身体を折り曲げて笑われる。……絶対、遊ばれてるわーこれ。

「……ちょっと、ここ一応地下牢なのよ。何なのよこの砕けたムードは」
「あはははははっ、いやっ……はは、これは失礼した」

 ヒロインからの突っ込みに目の端に浮かんだ涙を指で拭いながら、何とか体勢を整えた殿下。

「もしかして、わたしの事許してくれるの?」

 目を輝かせながら殿下とわたしを見るヒロイン。

「それは、ない」

 瞬時にぶった切る殿下に、シュン……と項垂れるヒロイン。そりゃそうよ、これだけの事しでかしておいてお咎め無しなんてある訳ない。

「わたしも、あなたの振る舞いは許せない。……でも、好きなゲームの世界に転生してテンション上がっちゃったのは分からないでもないわ」
「……アスチルゼフィラ様」
「あなたが修道院へ入る事は決定事項よ。そこで、あなたが本気で反省して更生した時はやり直す為の何らかの援助はしてあげる」
「ほ、本当!?」
「あぁ。ただし、世間体があるから公にはお前を助ける事は出来ない。それと、貴族社会には二度と戻る事は出来ない。市井での暮らしだけは出来る様にしてやる」

 わたし達の言葉にツウー……と大きな瞳から涙を零した。それを堪える様に唇を噛みしめている。

「それ以外の手助けは一切しない。あとは、お前の頑張り次第だ」
「もう変な事企んで足を踏み外さないでね。純粋にこの世界を楽しんで生きてく事を願ってるわ」

 本当は陛下からの温情は一切無かったのだが、同じ転生者のよしみというのだろうか……殿下とわたしは甘いのかもしれないが、極秘での手助けをヒロインと約束した。

◆◇◇◇ ◇◇◇◇ ◇◇◇◆

「俺としては本当は手助けなんてしたく無かったのだがな」

 地下牢を出た所で、殿下がわたしに本音を漏らした。うん、そうでしょうね。殿下なら切り捨てると思う。

「わたしの我儘を聞いて下さって、ありがとう御座いました」
「仕方ない。お前には色々と協力して貰ったし、あの誘拐の件も決定打になったからな。お前への褒美だと思っておくよ」
「感謝いたします」

 わたしを誘拐したレオ様の方はというと。シャロン伯爵家の次期伯爵家当主の座をレオ様の弟に譲られ、貴族籍を抜かれた上で、シャロン家の所有する一番辺境の地での強制労働を一生涯課せられる事になったらしい。更に王家からの監視付きだ。黒装束の男たちは牢獄に入れられ、生涯出て来ることは出来ない。

 長かったけど、これで色々終わったんだな……と思うと感慨深いものがある。

「それで、はどうするんんだ?」
「……もちろん! ちゃんと、しますよ」

 殿下の問いにスッキリとした表情で答えるわたし。そんなわたしを見て、殿下は「ま、頑張れよ」と優しく微笑んだ。
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