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第一章
第十四話 モブとメインキャラクター
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「まぁ、楽にしなよ。別に捕って喰ったりしないから」
「はい……」
キラキラ王子もとい、アルスト殿下が言うには――タクト様からわたしの“未来視”の話を聞いて、転生者じゃないかと思い話がしたかっただけなんだそうな。もう、人騒がせだな。こっちはどれだけ萎縮したか。
傍から見てるだけじゃ分からなかったけどアルスト殿下は話してみると、意外にも気さくで話しやすい方だった。ゲームでの殿下とは何だか違う雰囲気だから変な感じだけど、前世の記憶があればそりゃ影響受けて変化もあるよね。実際わたしも記憶が戻ってから少し変わったとスワン達に言われたもの。
「で、君は誰ルートを狙ってるの? もしかして逆ハーレム狙い?」
「まっ、まさか! わたしは誰も狙っていません。ただ、推しを眺めてニヤニヤしたいだけです」
わたしはモブ令嬢なのよ、狙うも何もある訳がない。ただ、ちょっと、計画がズレて来てしまってるだけで………。
「そう、良かった。もし俺も狙う気なら無駄だよ、って言いたかったからね」
「……アルスト殿下は、その、もしかしてティアナ様推しなんですか?」
「勿論! あんなに可憐で可愛い女性は他には居ないよ。実物は更に可愛くて惚れ直してしまったよ」
「分かります~わたしも生タクト様見た時の衝撃といったら! もう、素敵すぎて鼻血吹きそうです」
なるほど、どうりでお茶会で見た殿下はティアナ様を溺愛していた訳だ。二人が仲が良いのは社交界でも有名な話でもある。お母様がよく舞踏会の様子を教えて下さるけど、そこに殿下とその婚約者様の話題も上がるのだ。
「そういえば、ティアナ様には前世の記憶は?」
「無いみたいだよ。まぁ例えそうなっても手放す気はさらさら無いけどね。その時は改めて俺に惚れさせるから」
「わぁ……じゃあ卒業パーティで断罪される事も無いんですね。素敵!」
悪役令嬢が幸せを掴む事に歓喜するわたし。だって、悪役令嬢も本当は悪い人じゃないと思うのよね。作品にもよるのだろうけど、この作品の悪役令嬢はひたむきにキラキラ王子の事を慕っていた末に及んだ嫉妬からの愚行だ。だから殿下がティアナ様だけに愛情を向けているのなら、悪役令嬢となる必要も無くなる。シナリオが変わってしまうけど、お二人が幸せならそれで良いよね。
「君はガッツリとプレイしていたんだよね? 俺は妹のプレイを見ていただけだから詳しい所がちょっと分からないんだ。その補足をして欲しいのだけど、協力してくれるかい?」
「わたしで良いのなら、幾らでも協力させて頂きますわ。任せて下さい」
あのティアナ様が幸せになるのなら、わたしだって嬉しい。勿論、攻略対象者の一人であるアルスト殿下も幸せになって貰いたい。
「ところで……君はタクトとどうしたいんだ?」
「え……」
急に本題というべき所を突かれて言葉に詰まる。
「わたし……は……」
一つ一つ、自分に言い聞かせるかの様に言葉を紡いでいく。
「ただの、モブです。殿下の様にメインキャラクターではありません」
「うん」
「ゲームの中でも一度もわたしの姿が描かれていた事はありません」
モブでも名前がちゃんとあったり、その他大勢の一人としてでも描かれている様なモブではない。ゲームのストーリーには全く関係の無いただの空気だ。
「だから、タクト様の気持ちにお応えするのは出来ないと思っています」
「……それは何故? ひょっとしてあちらでは、タクトに婚約者が居るとか?」
「いえ、タクト様には婚約者様は存在していません。スクト様はいずれ婚約されるでしょうけど」
「じゃあ、何に遠慮してるんだ? 君の推しはタクトなんだろ。素直にタクトの手を取ればいいじゃないか」
「でも、わたしはモブだから……」
「それが何だ、ここでは同じ人間じゃないか。タクトへの気持ちはそんなものなのか?」
殿下の問いにわたしは首を振る。
「誰にも負けないくらい大好きです。良いのでしょうか……わたしが好きになっても……」
涙が出そうになって唇を噛みしめる。わたしだって好きでモブに生まれ変わった訳じゃない。メインキャラクターに生まれていれば、もっと自分に自信を持てた。自分はモブだから、モブなんだから、と必死に言い訳して気持ちを噛み殺そうとしていた。
「俺は大事な親友にもちゃんと幸せになって欲しいんだ。アイツが君を欲し、君もアイツを欲しているのならそれが正解じゃないか?」
「……はい」
アルスト殿下は目元を緩め、ふっと優しい笑みを浮かべた。うがっ! その笑顔は破壊力半端ないですから! 推しじゃなくても倒れそうになりますよ。
「ピスケリー嬢はもう少し自分に自信を持っても良いと思うよ。君は十分可愛いご令嬢だよ」
「ふがっ!? あ、ありがとう御座いましゅ……」
やばっ! また噛んだぁあああああ。
「……ふふっ。タクトが君に惚れたのも分かるかも」
「?」
「アイツは可愛らしいものが好きだからね」
「ほへ?」
首を傾げると「まぁ、気にしなくていいよ」と殿下は優雅にティーカップに口を付けた。
「はい……」
キラキラ王子もとい、アルスト殿下が言うには――タクト様からわたしの“未来視”の話を聞いて、転生者じゃないかと思い話がしたかっただけなんだそうな。もう、人騒がせだな。こっちはどれだけ萎縮したか。
傍から見てるだけじゃ分からなかったけどアルスト殿下は話してみると、意外にも気さくで話しやすい方だった。ゲームでの殿下とは何だか違う雰囲気だから変な感じだけど、前世の記憶があればそりゃ影響受けて変化もあるよね。実際わたしも記憶が戻ってから少し変わったとスワン達に言われたもの。
「で、君は誰ルートを狙ってるの? もしかして逆ハーレム狙い?」
「まっ、まさか! わたしは誰も狙っていません。ただ、推しを眺めてニヤニヤしたいだけです」
わたしはモブ令嬢なのよ、狙うも何もある訳がない。ただ、ちょっと、計画がズレて来てしまってるだけで………。
「そう、良かった。もし俺も狙う気なら無駄だよ、って言いたかったからね」
「……アルスト殿下は、その、もしかしてティアナ様推しなんですか?」
「勿論! あんなに可憐で可愛い女性は他には居ないよ。実物は更に可愛くて惚れ直してしまったよ」
「分かります~わたしも生タクト様見た時の衝撃といったら! もう、素敵すぎて鼻血吹きそうです」
なるほど、どうりでお茶会で見た殿下はティアナ様を溺愛していた訳だ。二人が仲が良いのは社交界でも有名な話でもある。お母様がよく舞踏会の様子を教えて下さるけど、そこに殿下とその婚約者様の話題も上がるのだ。
「そういえば、ティアナ様には前世の記憶は?」
「無いみたいだよ。まぁ例えそうなっても手放す気はさらさら無いけどね。その時は改めて俺に惚れさせるから」
「わぁ……じゃあ卒業パーティで断罪される事も無いんですね。素敵!」
悪役令嬢が幸せを掴む事に歓喜するわたし。だって、悪役令嬢も本当は悪い人じゃないと思うのよね。作品にもよるのだろうけど、この作品の悪役令嬢はひたむきにキラキラ王子の事を慕っていた末に及んだ嫉妬からの愚行だ。だから殿下がティアナ様だけに愛情を向けているのなら、悪役令嬢となる必要も無くなる。シナリオが変わってしまうけど、お二人が幸せならそれで良いよね。
「君はガッツリとプレイしていたんだよね? 俺は妹のプレイを見ていただけだから詳しい所がちょっと分からないんだ。その補足をして欲しいのだけど、協力してくれるかい?」
「わたしで良いのなら、幾らでも協力させて頂きますわ。任せて下さい」
あのティアナ様が幸せになるのなら、わたしだって嬉しい。勿論、攻略対象者の一人であるアルスト殿下も幸せになって貰いたい。
「ところで……君はタクトとどうしたいんだ?」
「え……」
急に本題というべき所を突かれて言葉に詰まる。
「わたし……は……」
一つ一つ、自分に言い聞かせるかの様に言葉を紡いでいく。
「ただの、モブです。殿下の様にメインキャラクターではありません」
「うん」
「ゲームの中でも一度もわたしの姿が描かれていた事はありません」
モブでも名前がちゃんとあったり、その他大勢の一人としてでも描かれている様なモブではない。ゲームのストーリーには全く関係の無いただの空気だ。
「だから、タクト様の気持ちにお応えするのは出来ないと思っています」
「……それは何故? ひょっとしてあちらでは、タクトに婚約者が居るとか?」
「いえ、タクト様には婚約者様は存在していません。スクト様はいずれ婚約されるでしょうけど」
「じゃあ、何に遠慮してるんだ? 君の推しはタクトなんだろ。素直にタクトの手を取ればいいじゃないか」
「でも、わたしはモブだから……」
「それが何だ、ここでは同じ人間じゃないか。タクトへの気持ちはそんなものなのか?」
殿下の問いにわたしは首を振る。
「誰にも負けないくらい大好きです。良いのでしょうか……わたしが好きになっても……」
涙が出そうになって唇を噛みしめる。わたしだって好きでモブに生まれ変わった訳じゃない。メインキャラクターに生まれていれば、もっと自分に自信を持てた。自分はモブだから、モブなんだから、と必死に言い訳して気持ちを噛み殺そうとしていた。
「俺は大事な親友にもちゃんと幸せになって欲しいんだ。アイツが君を欲し、君もアイツを欲しているのならそれが正解じゃないか?」
「……はい」
アルスト殿下は目元を緩め、ふっと優しい笑みを浮かべた。うがっ! その笑顔は破壊力半端ないですから! 推しじゃなくても倒れそうになりますよ。
「ピスケリー嬢はもう少し自分に自信を持っても良いと思うよ。君は十分可愛いご令嬢だよ」
「ふがっ!? あ、ありがとう御座いましゅ……」
やばっ! また噛んだぁあああああ。
「……ふふっ。タクトが君に惚れたのも分かるかも」
「?」
「アイツは可愛らしいものが好きだからね」
「ほへ?」
首を傾げると「まぁ、気にしなくていいよ」と殿下は優雅にティーカップに口を付けた。
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