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第一章

第九話 婚約騒動②

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 レオ様が帰られてから、わたしはタクト様を連れて庭園へと出た。少し離れた所に侍女とタクト様付き従者の姿はあるが、距離を取っているので会話の内容までは聞こえない筈だ。

「タクト様、助けて頂いてありがとう御座いました。レオ様との婚約がタクト様のお耳にまで届いていたのにはビックリ致しました」
「そんなのは少し調べれば分かる。それより、何故おれに助けを求めて来なかったんだ」
「ご迷惑はお掛け出来ませんし、政略結婚は貴族として当たり前の事なので諦めるしか無かったのです」
「……こんな顔しているのにか?」

 タクト様がわたしの顔に手を当てられ、顔を覗き込まれる。うがっ! ち、近いんですけど。

「スクトからお前が泣き腫らした様な顔をしていたと聞いた。それで調べさせたらレオナルドと婚約と聞いて慌てて来たのだ。泣く程嫌だったのだろう?」
「申し訳ありません……」

 そうか、発端はスクト様からなのね。てゆーか、本当にスクト様のおっしゃる通りにタクト様が我が家にやって来た事に驚く。双子の勘というヤツなのかしら。

「とにかくこれでアイツとの婚約は無くなったから安心しろ」
「でも、その代わりにタクト様に多大なご迷惑をお掛けしてしまいましたわ。ほとぼりが冷めるまで恋人の振りをして頂く事になってしまって……タクト様の縁談に影響が出てしまわれるのでは?」

 するとタクト様はわたしの肩に手を移動させて何故かガックリと肩を落とされた。そして改めてわたしの顔を覗き込む。 だから、近いですってば! そんなに素敵なお顔を近づけさせないでー!

「……先程、夫人に話した事は本心なんだが」
「え、どの部分ですか?」
「だから、お前に婚約を申し込みたいと思っている事だよ」
「…………え」

 こ、婚約を……申し込みたい? わたしに? な、何故そうなる!?

「おれが片想いしているって事も本当の事だ」
「えっ? えっ?」
「これからお前を口説き落とすつもりなのも本当の事だぞ」
「…………」

 唖然として口をポカーンと開けたままタクト様の顔を眺めてしまった。

「やっぱり……おれの気持ちは全然お前に伝わっていない様だな」
「だって、わたくしはモブ……じゃなくて、吹けば飛ぶ様なただの伯爵令嬢ですよ? それに、お友達だとタクト様がおっしゃったじゃないですか」
「……それは…………恥ずかしくてだな……誤魔化しただけだ」
「なっ……」
「お前を気に入ってると、最初に会った時にそう言っただろう! それで通じてるかと思ったんだ」
「分かりませんよ、そんなの!」

 確かに、あのお茶会でタクト様はそうおっしゃったけど。気に入ってる=好きだ、なんて分かる筈がない。

「……じゃあ、改めて言う。おれはお前が好きだ。だから婚約して欲しいと思ってる」
「っ!」

 ど、どうしよう。推しから告白されて嬉しくない筈がない。だけど……だけど……これはゲームのシナリオには無い展開の筈だ。この先のシナリオにどんな影響を及ぼすか分からない。それに……タクト様は攻略対象者のお一人なのだ。学園で必ずヒロインと出逢ってしまう筈。そうしたらきっと、タクト様はヒロインの事を好きになってしまわれる。その時、わたしは悪役令嬢と同じく断罪・婚約破棄されてしまうのではないだろうか。

 それって、モブじゃなくメインキャラクターの一人に強制的に駆り出されてしまうって事じゃない。ダメよ、ダメ。そんなの困るわよー。わたしはモブとして遠くから眺めるのを楽しみにしてたのに。でも、でも、でも……………タクト様の事は大好きだ。あぁ、どうしたら良いのー!?
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