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第二章
卒業パーティ②
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「卒業生の皆、改めて学園の卒業おめでとう。卒業後は領地へ戻る者、王都に残り家督を継ぐ者、それぞれの仕事へと就く者など進路は様々だが、いずれも何かしらの形でこの国を背負って行く事になるだろう。私も王太子としての責務を全うし、この国をより良い国へと導ける様に邁進していくつもりだ。時には皆の力を借りる事もあるかもしれない。その時はどうか力を貸してほしい」
王宮の広間にて始まった卒業パーティは自身も卒業生でもあるアルスト殿下の祝辞から開始された。皆からの信頼も厚く、この国の次期王となるアルスト殿下の言葉に黙って耳を傾ける。
「まぁ、堅苦しいのはここ迄にしよう。学生最後の日だ、今宵のパーティを思う存分楽しんでくれ」
その言葉を合図に音楽家達が曲を奏でだした。壇上から降りて来た殿下に手を引かれ、ダンスホールの真ん中へと進んでいく。ファーストダンスは卒業生の中で一番地位の高い者が行う事が通例となっているので、王族である殿下とあたしが踊る事になっていた。
クルクルと曲に合わせてステップを踏む。幼い頃からずっと殿下と踊って来たので慣れたものだ。あたしと身体を寄せ合う様にして一緒にステップを踏む殿下も余裕の表情で、ダンスホールをあちこちへと移動しながらそっと話し掛けて来た。
「あぁ、もうこれでティアナと一緒の学園生活を送れないと思うと少し寂しいよ。学園に来れば毎日会えたこの二年間はとても素晴らしかった」
学園を卒業された殿下は王太子としての執務が本格的に始まり、時には何ヶ月も掛けて遠征して問題解決に尽力しなければならない。今迄の様に会いたい時は互いの住まいへ訪ねて行けば会えるという事はなくなるのだ。
「わたくしも寂しいです殿下」
本音は毎日ずっと一緒に居たいくらいなのにこれから約一年間はあまり会えなくなると思うと寂しくて仕方がない。
「実は早速明日から暫く遠征なんだ」
「えっ……」
「隣国のコンフォーネに行ってくるよ」
「まぁ、コンフォーネに……」
コンフォーネ王国はオルプルート王国から海を挟んだ北側に位置する友好国の一つだ。あたしもかなり昔、殿下と共に王太子の婚約者として訪れた事がある。フルーツの輸出が盛んで国の至る所に様々な果樹園がある甘い香りの漂う国だった。
「毎日手紙を書くよ」
「はい」
「夜には月を見上げて君へ想いを飛ばすから」
「……はい」
「お土産も毎日一つずつ買うからね、楽しみにしていて」
「…………は、い」
殿下が色々とフォローの言葉をくれるけど、どんどんとあたしの気持ちはへこんで行くのが自分でも分かる。今はこうして殿下の身体に触れる事が出来ているけど、明日からは当分触れることは出来なくなるんだわ。そう思うと殿下の言葉を笑顔で受け止める事が出来なくなってきた。
「……っ!?」
気が付いたら殿下の身体にギュッと抱き付いている自分が居た。ダンスはまだ終わっておらず、皆の視線はあたし達へと集中している。
「ティアナ?」
音楽が止まりあたしの頭上から心配そうな殿下の声が聞こえて、思わずハッとする。
「も、申し訳ありませんっ!!」
とんでもない事をしてしまった。大事なパーティの真っ最中に王太子に抱き付くだなんて。婚約者としても、公爵家の令嬢としてもあってはならない失態だ。周囲がザワついているのが分かる。
「す、少し気分が優れず……殿下に寄りかかってしまいました」
何とか取り繕って言い訳をしてみたが、どう見ても苦しい言い逃れだろう。どうしよう、どうしよう! こんな失態初めてだ。動揺して足が震える。
「あのっ、控室で休憩して来ます。どうかお許し下さいませ」
殿下の顔なんて見れない。もしかしたら呆れて幻滅されたかもしれない。俯いたままそう告げ、あたしはフロアから離れようとした。
「なら、私が送ろう。一人では行かせられない」
すかさず殿下が待ったを掛けて、あたしの手首を掴んだ。振り返る事すら出来ず、泣きそうになるのを堪えて唇を固く結んで殿下の指示に従う。
「タクト、後は頼む」
「あぁ、任せておけ」
ザワついた生徒達を気にもせず、殿下はあたしをサッと横抱きにして歩き始める。背後では音楽が再び流れ始めた。
「あっ!? だ、大丈夫ですから! 降ろして下さいませ」
「ダメだ。大人しく運ばれていなさい」
「……っ」
こういう時の殿下には逆らう事は不可能だ。頭の中はグルグルとして考えがまとまらない。処罰されるかもしれない、最悪の場合は婚約破棄なんて事も……。抱き上げられて不安定な身体を支える為、殿下の首へ腕を回しつつも不安で押し潰されそうになるしかなかった。
王宮の広間にて始まった卒業パーティは自身も卒業生でもあるアルスト殿下の祝辞から開始された。皆からの信頼も厚く、この国の次期王となるアルスト殿下の言葉に黙って耳を傾ける。
「まぁ、堅苦しいのはここ迄にしよう。学生最後の日だ、今宵のパーティを思う存分楽しんでくれ」
その言葉を合図に音楽家達が曲を奏でだした。壇上から降りて来た殿下に手を引かれ、ダンスホールの真ん中へと進んでいく。ファーストダンスは卒業生の中で一番地位の高い者が行う事が通例となっているので、王族である殿下とあたしが踊る事になっていた。
クルクルと曲に合わせてステップを踏む。幼い頃からずっと殿下と踊って来たので慣れたものだ。あたしと身体を寄せ合う様にして一緒にステップを踏む殿下も余裕の表情で、ダンスホールをあちこちへと移動しながらそっと話し掛けて来た。
「あぁ、もうこれでティアナと一緒の学園生活を送れないと思うと少し寂しいよ。学園に来れば毎日会えたこの二年間はとても素晴らしかった」
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「わたくしも寂しいです殿下」
本音は毎日ずっと一緒に居たいくらいなのにこれから約一年間はあまり会えなくなると思うと寂しくて仕方がない。
「実は早速明日から暫く遠征なんだ」
「えっ……」
「隣国のコンフォーネに行ってくるよ」
「まぁ、コンフォーネに……」
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「毎日手紙を書くよ」
「はい」
「夜には月を見上げて君へ想いを飛ばすから」
「……はい」
「お土産も毎日一つずつ買うからね、楽しみにしていて」
「…………は、い」
殿下が色々とフォローの言葉をくれるけど、どんどんとあたしの気持ちはへこんで行くのが自分でも分かる。今はこうして殿下の身体に触れる事が出来ているけど、明日からは当分触れることは出来なくなるんだわ。そう思うと殿下の言葉を笑顔で受け止める事が出来なくなってきた。
「……っ!?」
気が付いたら殿下の身体にギュッと抱き付いている自分が居た。ダンスはまだ終わっておらず、皆の視線はあたし達へと集中している。
「ティアナ?」
音楽が止まりあたしの頭上から心配そうな殿下の声が聞こえて、思わずハッとする。
「も、申し訳ありませんっ!!」
とんでもない事をしてしまった。大事なパーティの真っ最中に王太子に抱き付くだなんて。婚約者としても、公爵家の令嬢としてもあってはならない失態だ。周囲がザワついているのが分かる。
「す、少し気分が優れず……殿下に寄りかかってしまいました」
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「あのっ、控室で休憩して来ます。どうかお許し下さいませ」
殿下の顔なんて見れない。もしかしたら呆れて幻滅されたかもしれない。俯いたままそう告げ、あたしはフロアから離れようとした。
「なら、私が送ろう。一人では行かせられない」
すかさず殿下が待ったを掛けて、あたしの手首を掴んだ。振り返る事すら出来ず、泣きそうになるのを堪えて唇を固く結んで殿下の指示に従う。
「タクト、後は頼む」
「あぁ、任せておけ」
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「あっ!? だ、大丈夫ですから! 降ろして下さいませ」
「ダメだ。大人しく運ばれていなさい」
「……っ」
こういう時の殿下には逆らう事は不可能だ。頭の中はグルグルとして考えがまとまらない。処罰されるかもしれない、最悪の場合は婚約破棄なんて事も……。抱き上げられて不安定な身体を支える為、殿下の首へ腕を回しつつも不安で押し潰されそうになるしかなかった。
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