56 / 69
第二章
満月の夜②
しおりを挟む 月の光に浮かび上がるバハム邸へ、あたしは来ていた。アーサー殿下率いる近衛騎士団を筆頭に邸の中へと踏み込んでいく。恐らくバハム邸の私兵なのだろうが王家の騎士団に敵う筈もなく、こちらはあっという間に倒されていった。問題なのがアンデッド達だ。魔道騎士達が魔法で応戦しているが、相手は死人――。そう簡単にはダメージを受けてくれない。
「ほぉりぃしゃわああぁあ♡」
そんな中、甘ったるい術名と共にミンスロッティから繰り出された聖魔法で複数のアンデッド達が浄化されて消えた。
「さすが聖女様だ……」
騎士団から漏れ出た言葉とは対照的にアスチルゼフィラ様とジュディは何故かげんなりとした顔をしている。
「もっとビシッと呪文決めなさいよ!」
「ハート飛ばすの何とかならないんですの!?」
「え~っ、だってぇ~」
身体をクネクネさせながら握った両手を口元へと持っていく。そんな彼女を見ながら、あぁ……こんな仕草も変わらないわね、なんて苦笑いするあたし。
「ミンスロッティ様、まだまだ沢山居ますわよ」
どこからこんなに沸いて出て来るのか、次から次へとアンデッド達が姿を現して来た。魔道騎士団にも僅かながら聖魔法の使い手は居るが、そもそもの魔力の量が聖女のミンスロッティ様とは違うのでアンデッド一体を倒すのにも時間が掛かるのだ。
アルスト殿下達の居る地下への通路に辿り着くまでに、どれだけの数のアンデッドを浄化して進んだのだろうか。さすがの聖女・ミンスロッティ様も疲労の色を隠せなくなって来た。あたしも闇魔法でアンデッド達を混乱させたりと手助けはしたものの、やはり聖魔法でないと浄化する事は出来ない。ジュデイも使えるのは氷魔法なので出来るのは足止め程度。その後ろでアスチルゼフィラ様が邸内の道案内をしている。
「えーっと、そこ! そこの角を曲がった先に例の扉があります!」
アスチルゼフィラ様の言う通り、廊下の角を曲がるとその奥の方に大きくて立派な扉が見えた。でもそこに向かう迄の廊下いっぱいにアンデッド達がうごめいている。その様子を目にして眩暈がしそうになった。今目の前に居るアンデッド達は、今まで行く手を塞いで来たアンデッド達とは種類が異なるらしく物質をすり抜ける性質を持っているのか扉や左右の壁からも湧き出て来た。
「うっ……」
その光景に思わず一歩後ずさる。これは……おぞましいとしか言い様がない。
「は、早くっ! ミンスロッティ様!! なんとかしてっ!」
恐怖で青ざめたアスチルゼフィラ様が叫ぶけど、肝心のミンスロッティ様は動かずガタガタと震えてるのが分かる。
「何やってるんですのっ! ミンスロッティ様!!」
ジュディが活を入れるがこちらを振り返ったミンスロッティ様はもはや半べそ状態だ。
「だって、わたしお化けとか本当は苦手なんだもの~。ゲームとリアルじゃ違いすぎよぉ~。むしろここまで頑張ったくらいよ! ヤダヤダヤダ、もう無理~!」
駄々をこねだしたミンスロッティ様にあたしは叱咤しようとしたその時――。足首を何かに掴まれた。目線を下げると……そこにはあたしの足首を掴んでるアンデッド。とうとう床からも湧きだしたらしい。
「ひっ……!!」
あたしの小さな悲鳴を合図に皆の足元からニョキニョキとアンデッドが湧き出した。
「……っ……ひぎゃああああああああああああああああっ!!」
ミンスロッティ様の耳をつんざく様な悲鳴と共に一瞬で真っ白な光の中に包まれ、ドッガアアアアアアアン!! と大きな物音と地響きが鳴り響いた。眩しさに閉じてしまっていた瞳を開くとあれだけ居たアンデッドの姿は一つもなく、廊下の奥の扉が崩壊していた。どうやらミンスロッティ様が恐怖で聖魔法を爆発させたらしい。
「……とっ、扉がっ! えええええっ、どうするんですか、よろしいんですの!? コレ……」
ジュディが慌てふためいてミンスロッティ様に詰め寄るが、本人は至ってケロッとした表情をしている。
「えーとぉ……結果オーライ? て奴かな、てへっ」
「いやいやいや、シナリオと違うから。扉は聖魔法で呪文唱えながらこう、神秘的に開けるんでしょ!?」
アスチルゼフィラ様もワタワタと焦っている様子が伺える。
「コホン、とにかくこれで先に進めますわね」
「そ、そうですね……」
「……い、行きましょう」
アーサー殿下に目で合図を送り、近衛騎士団を先陣に崩壊した扉の残骸を通りやすい様に避けて貰ってからあたし達は地下へと延びる長い螺旋階段を降りることにした。
「ほぉりぃしゃわああぁあ♡」
そんな中、甘ったるい術名と共にミンスロッティから繰り出された聖魔法で複数のアンデッド達が浄化されて消えた。
「さすが聖女様だ……」
騎士団から漏れ出た言葉とは対照的にアスチルゼフィラ様とジュディは何故かげんなりとした顔をしている。
「もっとビシッと呪文決めなさいよ!」
「ハート飛ばすの何とかならないんですの!?」
「え~っ、だってぇ~」
身体をクネクネさせながら握った両手を口元へと持っていく。そんな彼女を見ながら、あぁ……こんな仕草も変わらないわね、なんて苦笑いするあたし。
「ミンスロッティ様、まだまだ沢山居ますわよ」
どこからこんなに沸いて出て来るのか、次から次へとアンデッド達が姿を現して来た。魔道騎士団にも僅かながら聖魔法の使い手は居るが、そもそもの魔力の量が聖女のミンスロッティ様とは違うのでアンデッド一体を倒すのにも時間が掛かるのだ。
アルスト殿下達の居る地下への通路に辿り着くまでに、どれだけの数のアンデッドを浄化して進んだのだろうか。さすがの聖女・ミンスロッティ様も疲労の色を隠せなくなって来た。あたしも闇魔法でアンデッド達を混乱させたりと手助けはしたものの、やはり聖魔法でないと浄化する事は出来ない。ジュデイも使えるのは氷魔法なので出来るのは足止め程度。その後ろでアスチルゼフィラ様が邸内の道案内をしている。
「えーっと、そこ! そこの角を曲がった先に例の扉があります!」
アスチルゼフィラ様の言う通り、廊下の角を曲がるとその奥の方に大きくて立派な扉が見えた。でもそこに向かう迄の廊下いっぱいにアンデッド達がうごめいている。その様子を目にして眩暈がしそうになった。今目の前に居るアンデッド達は、今まで行く手を塞いで来たアンデッド達とは種類が異なるらしく物質をすり抜ける性質を持っているのか扉や左右の壁からも湧き出て来た。
「うっ……」
その光景に思わず一歩後ずさる。これは……おぞましいとしか言い様がない。
「は、早くっ! ミンスロッティ様!! なんとかしてっ!」
恐怖で青ざめたアスチルゼフィラ様が叫ぶけど、肝心のミンスロッティ様は動かずガタガタと震えてるのが分かる。
「何やってるんですのっ! ミンスロッティ様!!」
ジュディが活を入れるがこちらを振り返ったミンスロッティ様はもはや半べそ状態だ。
「だって、わたしお化けとか本当は苦手なんだもの~。ゲームとリアルじゃ違いすぎよぉ~。むしろここまで頑張ったくらいよ! ヤダヤダヤダ、もう無理~!」
駄々をこねだしたミンスロッティ様にあたしは叱咤しようとしたその時――。足首を何かに掴まれた。目線を下げると……そこにはあたしの足首を掴んでるアンデッド。とうとう床からも湧きだしたらしい。
「ひっ……!!」
あたしの小さな悲鳴を合図に皆の足元からニョキニョキとアンデッドが湧き出した。
「……っ……ひぎゃああああああああああああああああっ!!」
ミンスロッティ様の耳をつんざく様な悲鳴と共に一瞬で真っ白な光の中に包まれ、ドッガアアアアアアアン!! と大きな物音と地響きが鳴り響いた。眩しさに閉じてしまっていた瞳を開くとあれだけ居たアンデッドの姿は一つもなく、廊下の奥の扉が崩壊していた。どうやらミンスロッティ様が恐怖で聖魔法を爆発させたらしい。
「……とっ、扉がっ! えええええっ、どうするんですか、よろしいんですの!? コレ……」
ジュディが慌てふためいてミンスロッティ様に詰め寄るが、本人は至ってケロッとした表情をしている。
「えーとぉ……結果オーライ? て奴かな、てへっ」
「いやいやいや、シナリオと違うから。扉は聖魔法で呪文唱えながらこう、神秘的に開けるんでしょ!?」
アスチルゼフィラ様もワタワタと焦っている様子が伺える。
「コホン、とにかくこれで先に進めますわね」
「そ、そうですね……」
「……い、行きましょう」
アーサー殿下に目で合図を送り、近衛騎士団を先陣に崩壊した扉の残骸を通りやすい様に避けて貰ってからあたし達は地下へと延びる長い螺旋階段を降りることにした。
11
お気に入りに追加
2,151
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢はモブ化した
F.conoe
ファンタジー
乙女ゲーム? なにそれ食べ物? な悪役令嬢、普通にシナリオ負けして退場しました。
しかし貴族令嬢としてダメの烙印をおされた卒業パーティーで、彼女は本当の自分を取り戻す!
領地改革にいそしむ充実した日々のその裏で、乙女ゲームは着々と進行していくのである。
「……なんなのこれは。意味がわからないわ」
乙女ゲームのシナリオはこわい。
*注*誰にも前世の記憶はありません。
ざまぁが地味だと思っていましたが、オーバーキルだという意見もあるので、優しい結末を期待してる人は読まない方が良さげ。
性格悪いけど自覚がなくて自分を優しいと思っている乙女ゲームヒロインの心理描写と因果応報がメインテーマ(番外編で登場)なので、叩かれようがざまぁ改変して救う気はない。
作者の趣味100%でダンジョンが出ました。
悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます
久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。
その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。
1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。
しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか?
自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと!
自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ?
ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ!
他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~
こひな
恋愛
市川みのり 31歳。
成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。
彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。
貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。
※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

無事にバッドエンドは回避できたので、これからは自由に楽しく生きていきます。
木山楽斗
恋愛
悪役令嬢ラナトゥーリ・ウェルリグルに転生した私は、無事にゲームのエンディングである魔法学校の卒業式の日を迎えていた。
本来であれば、ラナトゥーリはこの時点で断罪されており、良くて国外追放になっているのだが、私は大人しく生活を送ったおかげでそれを回避することができていた。
しかしながら、思い返してみると私の今までの人生というものは、それ程面白いものではなかったように感じられる。
特に友達も作らず勉強ばかりしてきたこの人生は、悪いとは言えないが少々彩りに欠けているような気がしたのだ。
せっかく掴んだ二度目の人生を、このまま終わらせていいはずはない。
そう思った私は、これからの人生を楽しいものにすることを決意した。
幸いにも、私はそれ程貴族としてのしがらみに縛られている訳でもない。多少のわがままも許してもらえるはずだ。
こうして私は、改めてゲームの世界で新たな人生を送る決意をするのだった。
※一部キャラクターの名前を変更しました。(リウェルド→リベルト)
王子の片思いに気付いたので、悪役令嬢になって婚約破棄に協力しようとしてるのに、なぜ執着するんですか?
いりん
恋愛
婚約者の王子が好きだったが、
たまたま付き人と、
「婚約者のことが好きなわけじゃないー
王族なんて恋愛して結婚なんてできないだろう」
と話ながら切なそうに聖女を見つめている王子を見て、王子の片思いに気付いた。
私が悪役令嬢になれば、聖女と王子は結婚できるはず!と婚約破棄を目指してたのに…、
「僕と婚約破棄して、あいつと結婚するつもり?許さないよ」
なんで執着するんてすか??
策略家王子×天然令嬢の両片思いストーリー
基本的に悪い人が出てこないほのぼのした話です。

所(世界)変われば品(常識)変わる
章槻雅希
恋愛
前世の記憶を持って転生したのは乙女ゲームの悪役令嬢。王太子の婚約者であり、ヒロインが彼のルートでハッピーエンドを迎えれば身の破滅が待っている。修道院送りという名の道中での襲撃暗殺END。
それを避けるために周囲の環境を整え家族と婚約者とその家族という理解者も得ていよいよゲームスタート。
予想通り、ヒロインも転生者だった。しかもお花畑乙女ゲーム脳。でも地頭は悪くなさそう?
ならば、ヒロインに現実を突きつけましょう。思い込みを矯正すれば多分有能な女官になれそうですし。
完結まで予約投稿済み。
全21話。

【完結】引きこもり令嬢は迷い込んできた猫達を愛でることにしました
かな
恋愛
乙女ゲームのモブですらない公爵令嬢に転生してしまった主人公は訳あって絶賛引きこもり中!
そんな主人公の生活はとある2匹の猫を保護したことによって一変してしまい……?
可愛い猫達を可愛がっていたら、とんでもないことに巻き込まれてしまった主人公の無自覚無双の幕開けです!
そしていつのまにか溺愛ルートにまで突入していて……!?
イケメンからの溺愛なんて、元引きこもりの私には刺激が強すぎます!!
毎日17時と19時に更新します。
全12話完結+番外編
「小説家になろう」でも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる