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第二章
満月の夜②
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月の光に浮かび上がるバハム邸へ、あたしは来ていた。アーサー殿下率いる近衛騎士団を筆頭に邸の中へと踏み込んでいく。恐らくバハム邸の私兵なのだろうが王家の騎士団に敵う筈もなく、こちらはあっという間に倒されていった。問題なのがアンデッド達だ。魔道騎士達が魔法で応戦しているが、相手は死人――。そう簡単にはダメージを受けてくれない。
「ほぉりぃしゃわああぁあ♡」
そんな中、甘ったるい術名と共にミンスロッティから繰り出された聖魔法で複数のアンデッド達が浄化されて消えた。
「さすが聖女様だ……」
騎士団から漏れ出た言葉とは対照的にアスチルゼフィラ様とジュディは何故かげんなりとした顔をしている。
「もっとビシッと呪文決めなさいよ!」
「ハート飛ばすの何とかならないんですの!?」
「え~っ、だってぇ~」
身体をクネクネさせながら握った両手を口元へと持っていく。そんな彼女を見ながら、あぁ……こんな仕草も変わらないわね、なんて苦笑いするあたし。
「ミンスロッティ様、まだまだ沢山居ますわよ」
どこからこんなに沸いて出て来るのか、次から次へとアンデッド達が姿を現して来た。魔道騎士団にも僅かながら聖魔法の使い手は居るが、そもそもの魔力の量が聖女のミンスロッティ様とは違うのでアンデッド一体を倒すのにも時間が掛かるのだ。
アルスト殿下達の居る地下への通路に辿り着くまでに、どれだけの数のアンデッドを浄化して進んだのだろうか。さすがの聖女・ミンスロッティ様も疲労の色を隠せなくなって来た。あたしも闇魔法でアンデッド達を混乱させたりと手助けはしたものの、やはり聖魔法でないと浄化する事は出来ない。ジュデイも使えるのは氷魔法なので出来るのは足止め程度。その後ろでアスチルゼフィラ様が邸内の道案内をしている。
「えーっと、そこ! そこの角を曲がった先に例の扉があります!」
アスチルゼフィラ様の言う通り、廊下の角を曲がるとその奥の方に大きくて立派な扉が見えた。でもそこに向かう迄の廊下いっぱいにアンデッド達がうごめいている。その様子を目にして眩暈がしそうになった。今目の前に居るアンデッド達は、今まで行く手を塞いで来たアンデッド達とは種類が異なるらしく物質をすり抜ける性質を持っているのか扉や左右の壁からも湧き出て来た。
「うっ……」
その光景に思わず一歩後ずさる。これは……おぞましいとしか言い様がない。
「は、早くっ! ミンスロッティ様!! なんとかしてっ!」
恐怖で青ざめたアスチルゼフィラ様が叫ぶけど、肝心のミンスロッティ様は動かずガタガタと震えてるのが分かる。
「何やってるんですのっ! ミンスロッティ様!!」
ジュディが活を入れるがこちらを振り返ったミンスロッティ様はもはや半べそ状態だ。
「だって、わたしお化けとか本当は苦手なんだもの~。ゲームとリアルじゃ違いすぎよぉ~。むしろここまで頑張ったくらいよ! ヤダヤダヤダ、もう無理~!」
駄々をこねだしたミンスロッティ様にあたしは叱咤しようとしたその時――。足首を何かに掴まれた。目線を下げると……そこにはあたしの足首を掴んでるアンデッド。とうとう床からも湧きだしたらしい。
「ひっ……!!」
あたしの小さな悲鳴を合図に皆の足元からニョキニョキとアンデッドが湧き出した。
「……っ……ひぎゃああああああああああああああああっ!!」
ミンスロッティ様の耳をつんざく様な悲鳴と共に一瞬で真っ白な光の中に包まれ、ドッガアアアアアアアン!! と大きな物音と地響きが鳴り響いた。眩しさに閉じてしまっていた瞳を開くとあれだけ居たアンデッドの姿は一つもなく、廊下の奥の扉が崩壊していた。どうやらミンスロッティ様が恐怖で聖魔法を爆発させたらしい。
「……とっ、扉がっ! えええええっ、どうするんですか、よろしいんですの!? コレ……」
ジュディが慌てふためいてミンスロッティ様に詰め寄るが、本人は至ってケロッとした表情をしている。
「えーとぉ……結果オーライ? て奴かな、てへっ」
「いやいやいや、シナリオと違うから。扉は聖魔法で呪文唱えながらこう、神秘的に開けるんでしょ!?」
アスチルゼフィラ様もワタワタと焦っている様子が伺える。
「コホン、とにかくこれで先に進めますわね」
「そ、そうですね……」
「……い、行きましょう」
アーサー殿下に目で合図を送り、近衛騎士団を先陣に崩壊した扉の残骸を通りやすい様に避けて貰ってからあたし達は地下へと延びる長い螺旋階段を降りることにした。
「ほぉりぃしゃわああぁあ♡」
そんな中、甘ったるい術名と共にミンスロッティから繰り出された聖魔法で複数のアンデッド達が浄化されて消えた。
「さすが聖女様だ……」
騎士団から漏れ出た言葉とは対照的にアスチルゼフィラ様とジュディは何故かげんなりとした顔をしている。
「もっとビシッと呪文決めなさいよ!」
「ハート飛ばすの何とかならないんですの!?」
「え~っ、だってぇ~」
身体をクネクネさせながら握った両手を口元へと持っていく。そんな彼女を見ながら、あぁ……こんな仕草も変わらないわね、なんて苦笑いするあたし。
「ミンスロッティ様、まだまだ沢山居ますわよ」
どこからこんなに沸いて出て来るのか、次から次へとアンデッド達が姿を現して来た。魔道騎士団にも僅かながら聖魔法の使い手は居るが、そもそもの魔力の量が聖女のミンスロッティ様とは違うのでアンデッド一体を倒すのにも時間が掛かるのだ。
アルスト殿下達の居る地下への通路に辿り着くまでに、どれだけの数のアンデッドを浄化して進んだのだろうか。さすがの聖女・ミンスロッティ様も疲労の色を隠せなくなって来た。あたしも闇魔法でアンデッド達を混乱させたりと手助けはしたものの、やはり聖魔法でないと浄化する事は出来ない。ジュデイも使えるのは氷魔法なので出来るのは足止め程度。その後ろでアスチルゼフィラ様が邸内の道案内をしている。
「えーっと、そこ! そこの角を曲がった先に例の扉があります!」
アスチルゼフィラ様の言う通り、廊下の角を曲がるとその奥の方に大きくて立派な扉が見えた。でもそこに向かう迄の廊下いっぱいにアンデッド達がうごめいている。その様子を目にして眩暈がしそうになった。今目の前に居るアンデッド達は、今まで行く手を塞いで来たアンデッド達とは種類が異なるらしく物質をすり抜ける性質を持っているのか扉や左右の壁からも湧き出て来た。
「うっ……」
その光景に思わず一歩後ずさる。これは……おぞましいとしか言い様がない。
「は、早くっ! ミンスロッティ様!! なんとかしてっ!」
恐怖で青ざめたアスチルゼフィラ様が叫ぶけど、肝心のミンスロッティ様は動かずガタガタと震えてるのが分かる。
「何やってるんですのっ! ミンスロッティ様!!」
ジュディが活を入れるがこちらを振り返ったミンスロッティ様はもはや半べそ状態だ。
「だって、わたしお化けとか本当は苦手なんだもの~。ゲームとリアルじゃ違いすぎよぉ~。むしろここまで頑張ったくらいよ! ヤダヤダヤダ、もう無理~!」
駄々をこねだしたミンスロッティ様にあたしは叱咤しようとしたその時――。足首を何かに掴まれた。目線を下げると……そこにはあたしの足首を掴んでるアンデッド。とうとう床からも湧きだしたらしい。
「ひっ……!!」
あたしの小さな悲鳴を合図に皆の足元からニョキニョキとアンデッドが湧き出した。
「……っ……ひぎゃああああああああああああああああっ!!」
ミンスロッティ様の耳をつんざく様な悲鳴と共に一瞬で真っ白な光の中に包まれ、ドッガアアアアアアアン!! と大きな物音と地響きが鳴り響いた。眩しさに閉じてしまっていた瞳を開くとあれだけ居たアンデッドの姿は一つもなく、廊下の奥の扉が崩壊していた。どうやらミンスロッティ様が恐怖で聖魔法を爆発させたらしい。
「……とっ、扉がっ! えええええっ、どうするんですか、よろしいんですの!? コレ……」
ジュディが慌てふためいてミンスロッティ様に詰め寄るが、本人は至ってケロッとした表情をしている。
「えーとぉ……結果オーライ? て奴かな、てへっ」
「いやいやいや、シナリオと違うから。扉は聖魔法で呪文唱えながらこう、神秘的に開けるんでしょ!?」
アスチルゼフィラ様もワタワタと焦っている様子が伺える。
「コホン、とにかくこれで先に進めますわね」
「そ、そうですね……」
「……い、行きましょう」
アーサー殿下に目で合図を送り、近衛騎士団を先陣に崩壊した扉の残骸を通りやすい様に避けて貰ってからあたし達は地下へと延びる長い螺旋階段を降りることにした。
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