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第二章
バハム邸 アルストSide②
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――ガシャン。ぎぃぃぃぃぃ……。
何処かで扉の開く音がした。その音に反応して目を開けると、薄暗い牢の中に日差しが差し込んでいて、どうやら夜が明けていて朝を迎えた様だ。複数の足音が近づいて来る。
「……食事です」
粗末な服を着た召使いらしき男が食事の乗ったトレーを牢の中へと差し入れて来た。そしてそのまま、恐らくタクト達の居る牢の方へと向かい同じセリフで食事を差し入れている音がする。その様子を俺は黙って見守っていると、もう一人の男が牢の前へとやって来てペコリと頭を下げた。
「初めてお目にかかります、アルスト殿下」
ヒョロリと背が高く、モノクル(方眼鏡)を掛けたその男は先程の召使いとは違い上品で小綺麗なスーツを身に纏っている。
「こんな所でお目にかかりたくはなかったがな、バハム伯爵」
嫌味を込めて答えるとニンマリとバハム伯爵は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「これはこれは、私の事をご存知でしたか。さすがはアルスト殿下ですね、恐れ入りました」
「出来る事なら今すぐに私達を解放しろと言いたいが、まぁ無理なんだろうな」
「ふふっ、そうですね。無理ですね」
「……バーベンス公爵と引き換えに解放しろと言っても無駄か?」
「あぁ、兄ですか? ふふっ、兄の事なんて私はどうでも良いのですよ。あんなのは好きにして頂いて構いません」
兄弟仲は良くないとは聞いてはいたが、これほど他人事だとは……。
「貴殿もクーデターに加担していたのではないのか?」
確かゲームではバーベンス公爵からの指示でバハム伯爵が俺らを攫って、城が大騒ぎになっている所へ便乗する様にクーデターを起こしていた。ここでは順番が逆にはなっているが、バハム伯爵と協力関係にあるのかと思ったのだがどうやら見当違いだったのか。
「それこそ、どうでも良い事です。私はただ、貴方達が欲しいだけだ」
こちらを見るギラギラとした瞳がすーっと細められて思わず寒気がした。こんな奴からの熱烈ラブコールなんて全くもって欲しくはない。
「ふふっ、大丈夫ですよ。今はまだ何もしませんから。食事もちゃんとお世話します。あ、勿論毒なんて入ってませんから安心して下さい。殿下達には時が来るまで元気で生きていて貰わなければ困りますから、ふふふっ」
食事のトレーを見ると確かに豪華でボリュームも十分な、美味しそうな料理が盛り付けてあった。とてもこんな牢内で食べる食事内容には思えない。ご丁寧に水差しとグラスまで置いてある。
言いたい事だけ言って満足したのかバハム伯爵は再びペコリと頭を下げた後、召使いと共に去っていった。
「よりによってバハム邸かぁ……」
スクトの声がした。その名前だけでここがどんな場所なのか察したらしい。
「バハムって、あの化け物屋敷のバハム邸か!? マジかよ」
タクトもバハム邸の噂は知っているらしく落胆の声を上げる。
「あぁ、そうだ。だからそう簡単に脱出する事は難しい。とにかく満月まではバハム伯爵も何もして来ない筈だ」
「満月に何かあるの?」
「そうだ、お前何か知ってるんだろう。おれらにも教えろよ」
「……確証がある訳じゃない。ただ、俺の予想が当たっていれば満月の夜に救助が来る筈なんだ。勿論、そうじゃなかった場合は自力で何とかするつもりで策は練る」
「……ここはアル殿下を信じて待ってみようよタクト」
「分かった、お前を信じる! お前の言う事は間違った事なんてないもんな。よしっ、それじゃそれまで体力温存する為に食うぞ! 飯だ飯!」
タクトの掛け声を合図に俺達は差し入れられた食事を食べる事にした。悔しい事にその食事はとても美味しかった。俺らは、バハム邸の料理人はなかなかの腕前らしいという要らない知識を手に入れたのだった。
何処かで扉の開く音がした。その音に反応して目を開けると、薄暗い牢の中に日差しが差し込んでいて、どうやら夜が明けていて朝を迎えた様だ。複数の足音が近づいて来る。
「……食事です」
粗末な服を着た召使いらしき男が食事の乗ったトレーを牢の中へと差し入れて来た。そしてそのまま、恐らくタクト達の居る牢の方へと向かい同じセリフで食事を差し入れている音がする。その様子を俺は黙って見守っていると、もう一人の男が牢の前へとやって来てペコリと頭を下げた。
「初めてお目にかかります、アルスト殿下」
ヒョロリと背が高く、モノクル(方眼鏡)を掛けたその男は先程の召使いとは違い上品で小綺麗なスーツを身に纏っている。
「こんな所でお目にかかりたくはなかったがな、バハム伯爵」
嫌味を込めて答えるとニンマリとバハム伯爵は薄気味悪い笑みを浮かべた。
「これはこれは、私の事をご存知でしたか。さすがはアルスト殿下ですね、恐れ入りました」
「出来る事なら今すぐに私達を解放しろと言いたいが、まぁ無理なんだろうな」
「ふふっ、そうですね。無理ですね」
「……バーベンス公爵と引き換えに解放しろと言っても無駄か?」
「あぁ、兄ですか? ふふっ、兄の事なんて私はどうでも良いのですよ。あんなのは好きにして頂いて構いません」
兄弟仲は良くないとは聞いてはいたが、これほど他人事だとは……。
「貴殿もクーデターに加担していたのではないのか?」
確かゲームではバーベンス公爵からの指示でバハム伯爵が俺らを攫って、城が大騒ぎになっている所へ便乗する様にクーデターを起こしていた。ここでは順番が逆にはなっているが、バハム伯爵と協力関係にあるのかと思ったのだがどうやら見当違いだったのか。
「それこそ、どうでも良い事です。私はただ、貴方達が欲しいだけだ」
こちらを見るギラギラとした瞳がすーっと細められて思わず寒気がした。こんな奴からの熱烈ラブコールなんて全くもって欲しくはない。
「ふふっ、大丈夫ですよ。今はまだ何もしませんから。食事もちゃんとお世話します。あ、勿論毒なんて入ってませんから安心して下さい。殿下達には時が来るまで元気で生きていて貰わなければ困りますから、ふふふっ」
食事のトレーを見ると確かに豪華でボリュームも十分な、美味しそうな料理が盛り付けてあった。とてもこんな牢内で食べる食事内容には思えない。ご丁寧に水差しとグラスまで置いてある。
言いたい事だけ言って満足したのかバハム伯爵は再びペコリと頭を下げた後、召使いと共に去っていった。
「よりによってバハム邸かぁ……」
スクトの声がした。その名前だけでここがどんな場所なのか察したらしい。
「バハムって、あの化け物屋敷のバハム邸か!? マジかよ」
タクトもバハム邸の噂は知っているらしく落胆の声を上げる。
「あぁ、そうだ。だからそう簡単に脱出する事は難しい。とにかく満月まではバハム伯爵も何もして来ない筈だ」
「満月に何かあるの?」
「そうだ、お前何か知ってるんだろう。おれらにも教えろよ」
「……確証がある訳じゃない。ただ、俺の予想が当たっていれば満月の夜に救助が来る筈なんだ。勿論、そうじゃなかった場合は自力で何とかするつもりで策は練る」
「……ここはアル殿下を信じて待ってみようよタクト」
「分かった、お前を信じる! お前の言う事は間違った事なんてないもんな。よしっ、それじゃそれまで体力温存する為に食うぞ! 飯だ飯!」
タクトの掛け声を合図に俺達は差し入れられた食事を食べる事にした。悔しい事にその食事はとても美味しかった。俺らは、バハム邸の料理人はなかなかの腕前らしいという要らない知識を手に入れたのだった。
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